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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 最終章 それはXXXの時間の檻
424/493

---141/XXX--- 時址の灰の演目 ~再踏の反転境界~

 そんなものよりも、と気を向けるべきは、せいぜい数十メートルの距離にそびえる塔。本当ににすぐ近くに見える。そこへの間に挟まれているものはもう、灰色の石畳のこの都市区画しかない。本当にっこを越えると、もう、目的地。


 家々は大通りに面し、そこから別れた枝道から網目状に広がっている。大通りは上へと向けた、登るとしたら少将骨が折れるがよじ登るという表現にはならない程度の上り勾配。その消失点の先。側の家々と比べ、色薄く霞んで、しかし高く、そびえる何かが、()()()()()()()()


 ()()()。もう、認識を阻害する者たちは、歪める者たちは、いないのだから。


「っ! 待てえええっっっ!」

「遠くなっ…―待ってポンちゃんっ!」


 ブゥゥウ、ビュゥオウウウウウウウウウウウウウ――、サァアアアアアアアアアアアア――


 強烈な風が吹く。冷たく乾いたその風が、灰色の粉塵ふんじんを巻き上げながら、方向も強弱も持続時間も法則性なく吹く。走っていることはもうできなくなって、その場で踏ん張る二人。けれども、その足腰は縦横無尽にぐらつかされる。


 耐えるのが精いっぱい。そんな中二人は目を細め、周囲を見る。


 そこは、何から何まで、灰のそのコントラストの無機質で硬質な単色世界。陰った世界。粉塵ふんじんで煙臭い世界。寂し気な世界。


 あっという間に、見えていた筈の塔は、ぼやける程度に、街の外から見たとき程度の距離に、離れて見えた。


「ポンちゃん……。落ち着いた……?」

「もう大丈夫……。ごめん……」


 リールになだめられて少年は反省する。また衝動的に動いてしまったことを。


「いいのよ。さっきまでの私の方がずっと、酷かった……。それに、さ、ポンちゃんが走り出さなかったら私があわてて走り出してたかもしれないもの」


 リールはそう、少年を励ます。変に、無理に励まそうとした訳ではない。自然に出た言葉だった。それ故に、不安と弱さがその影からのぞいていた。


「俺らが向かわんとあかんのはあれ、やろうか?」


 少年は気づかない。けれどきっと、それでいい。気づかれないからこそ、そうやって二人合わせての調和は成り立つ。


 少年は、手をかざし、遠くを指差す。


 そこは変わらず、灰色の石畳の都市区画。いや、少し変化が生じた。


 家々は大通りに面し、そこから別れた枝道から網目状に広がっている。大通りは上へと向けた、登るとしたら少将骨が折れるがよじ登るという表現にはならない程度の上り勾配こうばい。少し、ではなかった。気づけば変化は広がっていた。


 それでも、それには構わず、少年は眺める。坂の先。坂の頂という消失点のさらに先。坂の左右側面の家々と比べ、色薄くかすんで、しかし高く、そびえる何かが見える。それは、ひたすらに上に伸びていて、空の消失点、雲に突き刺さっているように見える。


 それはきっと、雲を貫いて上へと伸びている。外から見た通りに。きっと、その外、海すら貫いて、地上、まで。


 これは、変わらず、あの、塔だ。


「やることは変わらんよね」

「そうね」


 二人は駆け出した。今度は慌ててではなく。前向きに、けれども冷静に。そして、希望を、目標をしっかり目に捉えて、駆け出した。





 ドタタタタタタタタ――

 ドタタタタタタタタ――


「見えてる通りなんかな。ほんとに」

「あれは出口よ。間違いないって思ってるでしょ?」

「まあなぁ。……はぁ……。けど、真っ直ぐ進んで辿り着ける訳がないし、距離も高さもホンマなんかなって……」

「本当よきっと。だって、外から見てもそうだったじゃない。それに、あの亡霊さんもそれっぽいこと言ってたし」


 ドタタタタタタタタ――

 ドタタタタタタタタ――


 曲がり、家と商店の間を抜けて、その先にあった階段をかけ登り、更に内側の区画に。周囲を調べる訳でもなく、入り組んだ道を進んでいく。


 するとまた、塔が、遠ざかっ…―


「っ!」


 少年は咄嗟とっさかかとひるがしながら、


「えっ……?」


 傍のリールの腕を掴み、引っ張り、くるり、とその前後を反転させる。そのまま少年は、強くリールを引っ張っりながら、勢いよく離す。


 ブッ!


 両手を地面について、腰を突っ張るような姿勢にならざるを得なかったリール。


「何するのポ…―、あっ! そういうこと、なのね!」


 顔を上げながら、少年の突然の行為の理由をリールは理解する。


 そこには、遠ざからなくなった塔が、見えていた。


「ごめんねお姉ちゃん。急に引っ張って」

「いいのよ」


 そう、リールは立ち上がり、謝る少年に微笑ほほえんだ。


 先ほどと同じ仕組み。坂を越えられなかった仕組みと恐らくは同じ仕組み。今回少年たちがとったのはその別解。そういうことだった。


 ポツン、


「あら? また?」

「みたいやね」


 少年とリールは空を見上げた。


 ポツン、ポツン、ポタン、


 その顔に雨滴が落ちる。空の雲の灰黒い様子に、変わりは無い。いつ降り出してもおかしくなく、降りやまない荒れた空模様という訳でもない。しかし、


 ザァアアアアアアア、


 きっと、何度も繰り返す。止んだり降ったりを。降りっ放しにも止みっ放しにもならない。


 リールが走り出す。少年はそれに何も言わず追随ついずいする。近くにあった、扉の無い家。そこへと二人は駆け入ってゆくのだった。


 バシャシャシャ――

 バシャシャシャ――


 ザァアアアアアアアアアアアアアアア――

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