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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 最終章 それはXXXの時間の檻
420/493

---137/XXX--- 時址の灰の演目 ~開幕一歩~

「……今のは……?」


 それが消えてすぐに、リールに尋ねる。尋ねながら、石のモチーフもちらりと見る。けれども、手なんて翳していなかった。でていたときと変わらない。何事も無かったかのようにそれは戻っていた。


(見間違え……なはずは無いわな)


 顔をしかめ、考え込もうとしたところで、


「ヒント……でしょうね。こんなものがあるってことは出口は届くものとして用意されているって保証されたってことかしら。」


 リールが答えを返す。だからそっちに少年は今は意識を向けることにした。


「……。ちゃう、と思う……。ほれやったら何で、俺らここに入ってきてから、何の案内も最初無かったの……?」


 思った通り、口にした。


「じゃあ、どう、なのかしら……」


 リールはそう、声を弱くして言う。少年はその様子から、いと申し訳なさがあることをみ取った。


 そう。心配している。意識している。とても。とても。崩れる兆候。それを恐れ、無意識にでも少年のリールの心の状態についての注意は解けない。


 そして、疑問対して返された疑問に対する答えは、まとまらない。だから、


「とっても中途半端や。一体何がしたいんやろうなって。導きたいんか詰ませたいんか。試したいんかいじりたおしたいんか。いや、思惑なんて無いのかもしえへん。なぁ、お姉ちゃん。これだけは間違いないと思うねん。きっと俺らは今オモチャにされとんのやろうなって」


 頭の中で考え浮かんだことそのまま口にした。口にしてみたら、意外と的を射ていそうだった。それがとても皮肉じみて思えて、少年は自然と薄ら笑いをしていた。


(何俺笑っとおんやろ……。こんな風に笑うのなんか、あそこで独りでおったときといっしょやんか……)


 暗い気持ちをくすぶらせながら。


「そう、よね……」


 落ち込んだ調子でそう言うリールを見て、少年は、思う。


(けど、独りちゃうんやろ、今は。そう。ちゃうんや)


 けれどもあのときまでとは、もう、違うのだ、と。そう思うと、沸いてきた。


「けど、さ……、」


 言葉が浮かんでくる。


「けど?」


 知らない感覚。けれども、それに従いたい気分を少年は感じて、


「つまり、そんな悪いヤツは、俺らなんてオモチャでしかないって見てるわけや。どうとでもできる、って。俺、そういうのよく知ってるから。島から出る前の俺はそうやった。オモチャではなかったけど、家畜やった」


 口は自然と、動く。辛い日々を思い出すためじゃなくて、過去のひどさから今を慰めるためでもなくて、


「……」


 あの頃の気持ちと今の気持ちがあるから、できることがあるのだと、


「だから、さ、あっと言わせてやったらええ。相手は隙を作ってるんや。俺らはどう足掻いたってここから出れる訳がないんやって、きっとずっと高いどこから見下して嘲笑ってるんや。だから、そうやって笑っていられへんように、こっからあっさり出たって、横っ面ぶん殴ってやればええんや。ねっ!」


 少年は、意識するまでもなく、示してみせた。そう。逆境での、笑い方。微かでも、確かにある希望を見て、足掻く方法。そして、昔とは違って、それは、終わりのない逆境に折れず立っているに留まらず、逆境を越えて前に進むための、強い、跡を打ち付けるような、強い、強い、狼煙のような、引っ張る一歩。連れ立つ一歩。


「ふふ、そうねポンちゃん。行きましょうか」


 そうして、二人は立て直し、本当の意味でこの事態に対して前を向いた。






 タッ、タッ、タッ、タッ――

 タッ、タッ、タッ、タッ――


 あっさり人の形の石を通り過ぎて。


 タッ。

 タッ。


 足を止める。そこは、もう一歩二歩進むと、リールの背だと、坂の先が見えそうなくらいの時点。


「確か、さっきまでは、この辺から、先へ進めんくなったよね」

「ええ」

「けど、多分通れるよう、なってるよね」 

「今度は私が」


 そうリールが、先んじて、


 タッ。


 一歩。


 タッ。


 二歩。


 ごくり。


 少年がのどを後ろで鳴らすと、


「いくわよ」


 そうリールが振り向いて言って、


 これまでの二歩とは違って、大きく、おもいっきり、足を前へ。 


 タンッ。


 戻ることなく、着いた足。そして、リールは上体を前へと運び、


「来て、ポンちゃん」


 別に特に驚きも喜びも無さそうに、普通の顔でそう言った。


 少年はそれに従い、


 スタタッ、タッ。


「? 何これ」


 駆けだして数歩で、足を止めて、前後に何回か上身体を前後させる。


 ねっとりとした膜を透過したような感触。それは透過した後はおぼわりつくことはなかった。その不思議な感覚に、少年は好奇をおぼえる。


「どう? びっくりした?」


 そう、リールが坂の頂上手前から、振り向きながら微笑む。


「もう余裕そうやなお姉ちゃん」

「おかげさまでね。ごめんねポンちゃん、心配かけちゃって。もう、お姉ちゃん大丈夫だからね」


(ほんまにもう、大丈夫そうやな。いっつものお姉ちゃんぽく戻ってくれた)


 そして、ふと少年は後ろを振り向く。


 人の子供の形を大雑把に取った石は、その手を、こちらに向けて指していた。順路はこれで合っているらしい。


「ありがとうな」


 ぼそり。少年はそう言って、前を向いて、リールの方へ向けて駆け出した。

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