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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 最終章 それはXXXの時間の檻
403/493

---120/XXX--- 海の中、沈んだボトルの中の囚人

 ゆっくりと、目を、開ける。


(……。温った、かい……)


 そこは、光差す場所だった。ぽかぽかと暖かく、静まりかえっていて、上には、海が揺らいでいる。


(……。変わらず海の底、なんやな……。けど、夢でも、無さそうや)


 目を覚ましたのは少年だった。ただ、上を見上げていた。するとふと、頭上の海を、大きな影が横切り始める。周囲一帯が暗くなったように感じたのは、それが真上を通ったから。それは巨大であった。そして、生き物であった。


 暗くなったといっても、完全な闇に包まれたという訳ではない。だから少年にはそれの姿が見えた。


(太くふくらんだ棒みたいな身体。細く薄い下顎したあごと、やたら大きな頭。左右のの前ヒレ。……。ほんまに、指先の跡が残ってる。あっという間に尻ビエや。こんなに大きいのに、こんなに深くで、こんなに、速い。こんなにゆっくりしかうねらんのに。尾びれなんてほとんどうねらんねんなぁ。全身で、ゆっさり、ゆっさり。あっ、うねったぁぁっ! あぁ……、行って、もうた)


 その深さで生息可能な巨大生物。全長数十メートル、半径数メートルにも及ぶそんな体を持つ生物、少年には思い当たる答えは一つしかなかった。


(マッコウクジラ……。まさか、こんなとこで目にできるなんてなぁ……)






 そんな、両手両足放り出した仰向けな姿勢のまま、目を覚ましてから全く動いていない少年は、そのまま二度寝したい気分ではあったが、そうはしなかった。


(ん、で。ここは一体、どこなんやろう……? 確か……、っ痛ぁぁっ!)


 鈍い痛みが頭を走った。そこで、もやに包まれたの中での追憶は中断される。


(……。やめとこ……。やめといた方が……よさそうや……。だって、まだ……、)


 同時に起き上がろうとして、


 ふにっ。


(ん?)


 柔らかく、温かな何かに、左手が触れた。気持ち悪くなんてない。寧ろ、心地よかった。体の力を抜き、それにめり込んでいた左手も、抜け落ちる。


 そして、


「リールお姉ちゃん、か」


 小さな声で、そうぼそり。


 少年がつぶやいた通り、そばで、横向けになって、足と背を丸めるように横たわって眠っていたリールがそこには、いた。


 触れたのは横たわっていたリールの脇腹だったと、自身の手の分、乱れた服を見て少年は把握した。そりゃ、柔らかなはずだった。穏やかな顔をして、リールは眠っている。


「んん……」


 むにゃむにゃともごもごと、口を少し動かして、起きることはなく、そのまままた、すぅぅ、すぅぅ、と眠りに戻っていった。


 すぐそばにいたのに気づかなかったことを疑問に思いながら、少年はリールの右足と左腕を見た。その今やリールの左手右足である義手義足には、()()()()()()()()()()()()()()()()


(夢でもないんや。終わってもないんや。だってここは、まだ地上や無いんやから……)


 そう強く意識しつつも、今度は回想しようとはしなかった。先ほどの二の舞になりそうだということ以外にも、それは別の理由も含んでいそうだった。


 少年は、まどろみを、わずらわしく振り払うように嫌悪し、リールを起こすことなく起き上がった。


(そうそう深くない、日の光が届く程度の、海の中、透明なつつの中、か。ご丁寧に、さっきのあの場所に着いたときと同じように、同じ透明な箱の中……)


 薄暗うすぐらくなった、ような気がした。それは、現状を認識したからなのか、本当に暗くなったからなのかは少年には定かではなかった。


 片方の端は、閉じている。すぐ、後ろだ。ふたのあるつつのように、閉じている。そのふた透明とうめいだ。そしてそれには繋ぎ口は見えない。


 振り返って前を見た。そっち側は、ひたすら真っすぐ、前に伸びている。遠くは暗くなっていて見えない。見える範囲には枝分かれはない。


 つまり、行き止まりの後ろか、続いているかもしれない前しかない。左右は筒状つつな道のかべでしかない。


 少年は箱の中からひっそりと出た。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 足音は鳴らない。透明な地面。足元、下方向への視界は、少しばかり灰色ににごっているように見える。透明度は低い。


 それを差し引いても、静かだった。


 海の底のような、どこからともなく響くような重い音は全く聞こえない。波の音もしない。音そのものが、まるで、無い。


 そもそも、深度は定かではないのだから。


 右手を前にかざしながら歩き、それは終端に触れた。そして、手の変わりに、そこに顔を当て、密着するように、眺める。遠くへ。より、遠くへ。しかし、自慢の目を以てしても、意識を失う前までいたはずのあの場所らしきものは、見えない。


 目が、暗さに慣れてきた。それでも、そう遠くは見えない。変わらない具合だった。筒越つつごしの遠近感は、目印が無いが故にはっきりしない。


 ここの光は、白く、青い。そして、だからこその薄暗さがある。そして、加えて、無音。それらが不安を呼び起こす。


「まだ、終わらへんのか……」


 そう少年が口からこぼしたのは、弱音か、諦念ていねんか、唯のぼやきか。多分――その全部が混ざっている。

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