第三十九話 墓標
「よう、相棒。今日は報告があって来たぜ。」
船長はそれに向かって話しかける。少々の雲があるが晴れた空模様。昼下がりのことである。
寂しく吹く風の音。その場所は、本拠地のある島の北端である。海面からそらなりの高さがある、広い三角状の崖。先端へ向かって高くなっている緩やかな斜面になっており、地面は赤みがかっている。崖下には岩場が全くないため、崖の先端からは迫ってきて打ち付ける波がよく見える。
その先端付近にある一つの墓。手を合わせて祈る船長。
「おっさん、俺もええか。」
少し離れたところからその様子を見ていた少年は、船長の横に立つと、自身も祈りを捧げた。その縦長の直方体の黒い墓石には、名前が刻まれていない。代わりにそこには、青い一本の線。エメラルドブルーの線。それが斜めに右上から左下へと引かれている。
「……ボウズ。お察しの通り、これは俺の相棒の墓だ。もちろん死体なんて残っていないが、せめて形だけでもと思ってな。」
「名前を書いていないのはな、こいつは記憶喪失だったからさ。昔、遠く北の方へ行ったときによ、とある無人島で休んでいたらさ、こいつが漂着してたんだ。」
「こいつの本当の名前は分からねえ。だから、代わりに、これがこいつの墓だと示すために、トレードマークだったエメラルドブルーの髪の毛をイメージした線を刻んだんだ。」
「こいつと出会ってから、別れるまで。本当に楽しかった。ちょっと長い昔話になるが聞いてくれるか。」
悲しそうな笑顔を浮かべる船長。少年は無言で頷いた。




