第三十八話 交易船
町中を歩く二人。本拠地から出て向かう先は、港。交易船が入港するからである。
「交易船なあ。俺んとこの島にも来てたし、別に見に行くほどのもんでもないんちゃうん? それより、俺、釣りしたいんやけど。」
「ポンちゃん、田舎と都会だとね、交易船の規模も、届く品のバリエーションも桁違いなのよ。だから、そう言わずに見に行きましょ、ねっ!」
そうしているうちに港に到着する。もう交易船は入港しており、その積荷を降ろしているところだった。
「うわあ、俺の島に来るやつと船の大きさから桁違いやんかあ! ガレオン船が交易船やなんてなあ!」
「うふふ、そうでしょ、そうでしょ。」
少年の村に来ていた交易舟は、大きくてもせいぜい、乗組員10人程度のダウ船である。ダウ船とは、マストを一本持ち、それに大きな三角の帆を張った、アラビア海・インド洋などで使用されている船である。
「ちょ、あれ、"辞典"って書いてあるで!」
少年の目に入ったのは、木箱。荷降ろしされているその箱には、黒字で大きく、"辞典"と書いてある。少年の大好物だ!
「ポンちゃん、ちょっと買いすぎなんじゃない?」
それもそのはずである。少年は、呆れるリールを尻目に夢中で買い物を続け、両手がいっぱいになるまでやめなかったのだから。
「まだ俺が読んだことない辞典数種類と、なんかようわからんけどおもしろそうなもん。いや~、ほんま来てよかったわ!」
満足げな少年。しかし、リールはそうではない。
「それはいいんだけど、代金、私が立て替えてるだけだからね。後で返してもらうわよ。」
胸を張り、顔を背けるリール。明らかに不機嫌。
「え、俺お金とか持ってないで……。」
「だってそれポンちゃんの趣味の品でしょ。必需品じゃないし、それまではさすがにお金出せないわ。みんな、この島にいる間は自分のお金で生活してるのよ。ポンちゃんは来たばっかりだからお金とりあえず必要な分は出してあげてるけど。」
少年に、今置かれている立場をとくと理解させた後、諭すように優しくリールは言う。
「そういうことで、どこかで働きましょう、ね。それか魚釣って売るか、ね。ここにいる間はさ。そうしないと、今日みたいな買い物はもうできないわよ。」
「店員さん、俺雇ってくれへんか。用事は済んだからさ。」
「ははは。そろそろそう言いに来る頃だと思ってたよ。じゃあよろしくね、釣くん。あ、今日から僕のことは、上州さんと呼んでね。君も今日から店員なんだから、その呼び名はおかしいからね。」
二人は握手して、少年はめでたく働き口を得た。少年は、リールから働くように言われた後、彼女と荷物を放り出して即座に釣具店に向かったのだ。
もちろん帰った後、リールにこっぴどく叱られた。しかし、即座に仕事を見つけてきたため、最後はいつものように彼女の膝の上で頭なでなでされるのだった。




