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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
382/493

---099/XXX--- いよいよ終いの一撃と

 ゴォオオオオオオオオオ、ギギギギギギギギギギギギ――


 建物の外。下層はもう、周囲の壁やそり上がって圧縮を繰り返す地面の一部となって呑まれた。流石に、殺しきっていた揺れも、騒音も、そろそろ、中にも伝わる。


 しかし、もうそんな風に密かである必要なんて無いのだ。


 壮年の男は、少年たちがいる場所周辺から重要区画のユニットを離れた別箇所に指一本の指揮のような制御によってあっさり移動させ終わって、少し、考えていた。少年とリールの異様な耐久力の実態について。


「そういう絡繰からくりか。異常ともいえる程の異様な回復力。候補としては、あの技術か? はたまた――。っと。思索にふけっている間にせっかく削った分を越えて回復されてしまえば意味はない」


 脇道にれた、と気づいてすぐさま、中へと、彼らの視界へと意識を向けた。二つの視界。そして、二つの体の制御。


「そろそろ、仕上げとゆくとしよう」


 そう、意識を、中の二人の眼球へと集中させた。






 パララララ――

 ゴォゥン、パサァァァァ――


 灰色の砂の粉のような落下物。防音、耐火、そして、衝撃緩衝の為の土壁のような役割を持つそれらが、壁と壁の間の厚さ数センチから数十センチの空間の天井から、落ち、砕けた音だ。大量の管や線が、所々断裂したり、脱落して、落ちてきている。


 少年がぶつかって壁数枚を突き破ったからなのか、元々そういう仕組みだったのかは定かではないし、重要なことでもない。


 そうやって落ちてきた粉は、風の流れのないこの場所だからか矢鱈やたらに舞って、ドームの内側から第一層目の壁よりも外側に飛んでいってしまった少年の姿は、灰色の濃密な粉塵ふんじんの幕によって、見えない状況だった。


 少年側からも、リール側からも、互いの姿なんて見えはしない。しかし、それもすぐに終わる。


 ゴォオオオオオオオオオ、ギギギギギギギギギギギギ――


 二人のいる場所ももう、屋外と同じように、轟音ごうおんまみれ始めていた。揺れが、伝わってきはじめていた。揺れ。振動。波。それは、空気を揺らす。それは、空気の流れとなる。なら、当然のように、粉塵ふんじんは、薄く、薄く、散ってゆく。


 ゴォオオオオオオオオ――


 開けた穴の前に、リールは立つ。片足で揺らぐことなく、どうしてかしっかりと立っている。揺れなどものともせずに、立っている。


 ゴォオオオオオオオオ――

 ガララッ、ズッ。


 穴の向こう。少年は立ち上がる。地面から数十センチの高さに主に背を中心としてめり込んだ体を、片足でかべを強引にり出すように抜き、瓦礫がれきの上に着地した。


 視線が、交わる。


(壊れぬのだな。こ奴らは。こ奴らの肉体は。だからこそ、全力で構わぬのだろう。寧ろ、それしかない。足りぬという事態は容易に想像できるが、やり過ぎることなんて決してないともう理解したのだから。全力全開での、衝突。その結果の、気絶や昏倒こんとうといった一時的なものでなく、昏睡状態こんすいじょうたいの域へ。猛獣同士を気絶させるかのように躊躇なくやればいいのだ。何、経験は存分にある。昔取った杵柄きねづかと、言い切れる程に、な。ふはははははは)


 ザッ、ザスッ。


 少年の両手が、地面に着く。腰を上げるように四つんいになり、頭を上げて、目標を見据みすえる。待ち構えるリールを真正面に見据みすえる。


 ギィッ、グググググググ、ギリリリリリリリリ――


 り出す準備が為の足のん張りが、きしるような音を出す。先ほどの一撃を受けての、筋や皮膚ひふや血管の損傷に寄るものだ。


 壊れはしない。しかし、傷む。痛みを今の少年が感じる意識が無くとも、体は確実に消耗しょうもうした。


 少年の体基準にしてもそれは、折れる、破裂する、といった怪我までは辛うじていかなかった、重症寸前じゅうしょうすんぜんの怪我だった。その体は今、灰色塗はいいろまみれであるが、きっとそんな汚れの下は、赤黒くところどころ鬱血うっけつしているに違いなかった。


 ゴォオオオオオオオオオ――


 しかし、より無理させられているのは、少年の体ではなく、リールの体だろう。


 片足での無茶苦茶な駆動が続いており、それに加え、リールが意識のあった頃にはしなかった、片足立ち。それも、全くふらつきもせずに、というのを続けているのだから。


 大腿部だいたいぶから股関節部。服と下着の下のその部位はきっと、少年の腹部に負った損傷以上の負荷が掛かっているのだから。


「見ものだな。意識が戻ったら、相方が、自身の一撃によって崩れ落ちておる。それは、己が一撃による結果。戻る制御と、認識して、確かになる、体に残る感覚故に信じる他ない記憶。ふはははははははははは、敗れた一方に続き、そうして残った一方の意識が万が一に戻ったとしても、絶好の心折しんせつによって粉々よ。自らのを、終の感情として終わらせてやるとしよう。十中八九、残るであろう小僧に、なぁ。ふはははははははは、ふはははははははははははは――」


 止まらない笑い。止まらない独り言。しかし、それでも、


「っと。ここまできて仕損じてはたまらぬな。位置取りを調整せねば。また視界不良で中断となればかなわんからなぁ。一発で終わらんことも十分に考えられる。何れにせよ、衝突は中央で。そして、衝突直後、互いに踏ん張らせてやるのだ。後は、けりがつくまで繰り返す。だからこその、やがて一方は確実な意識の終息よ」


 そんな風に、壮年の男はあせりは無く冷静であった。

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