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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
381/493

---098/XXX--- 高速連続操駆動

 シュンッ、

 ブォンッ、


 共に、残像交じりの動き。それは、普段二人がしないような速度の動き。できるとも思わないくらいに素早い動き。しかし、今の二人を制御する者は知っている。性能を出し切った、一流の体、というのは、()()()()()()()()()()()()()()それ位は可能なのだと。


 ギィゥ、スッ、トッ、トンッ、スッ、トッ、


 リールなんて、片足であるにも関わらず、そんな片足立ちで、問題なく、動き回っていた。少年に劣らぬ速度で、風を、切り続ける。数メートルの距離を開けて、反復するように左へ、右へ、前へ、後ろへ。


 スッ、スッ、スッ、スッ、


 少年は横方向に動き、背面に回られないよう合わせている。


 もう随分長ずいぶんながいこと、ずっと、そうだ。速度は、徐々に、徐々に、上がり続けている。二人の駆動に陰りが見られる兆候は無い。


 ブォン、ブォンブォン、

 ビュゥン!


 動いたのは少年。飛び込むように――交差した。


 飛び回るように、少年の前方を弧を描きながら数メートル離れて動くリールの左側面を、重心を低くして、リールの起立を成立させている左足を狙ったのか、それとも、牽制けんせいとしてのものなのか。


 そんなものは決まりきっている。意味なんてない。二人を制御する者による唯の戯れ、人形遊びでしかない。しかしその人形には中身が入っている。そんな中身が、壊れ、操作に対する抗いを感じなくなることを目的に、あわよくば、抵抗が為の体力をことごとく奪い取ることを目的に、思った以上に耐性が高い二人に苛立ちを強めながら、駆動をどんどん激しくしていっていた。


「……」

「……」


 二人は、息を切らしもしない。もうその表情は生気を失って、意識の表層には今この時には何もないのだということを如実に現している。


 心拍の限界に近いような激しい駆動の連続であるというのに、汗は、流れない。もう、体の冷却機能の一つであるそれは役割をほとんどやめていた。それでも動けてしまう。動かせてしまう。


 知能や知恵の一点特化型でない場合の一流のモンスターフィッシャーの体というのは、そういうものだ。


 シュンッ、


 尖らせるように真っすぐ立てた、少年の右手首から先。五本指、爪の刃が、鋭くリールの右頬みぎほほかする。


 パチィィッッ!


 遅れて、響く、裂ける音。血飛沫ちしぶき刹那せつなだが、二人は共に硬直した。


(また、これだ。まだ、こ奴らは何処か抗っておるのだ。そして、そういうしつこい位に強固な、自然な、馴染んだ意思というのは、この先の為には必ず摘まねばならぬ。……。体力面からの消耗摩耗しょうもうまもうあきらめることとしよう。だからこそ、せめてこれ位の不安要素は取り除けねば話にならぬ)


 微かに復帰が早かったのはリール。そんな飛沫しぶきを、首を振る遠心力で、飛び道具に変えて、斜め左前方下の少年へ。


 血色の液体が刃のように飛び、


 ビッ。


 少年の目へ。


(反応が残っているというなら、それに応じたやり方を採るまでのことだ。もう、少々の傷は仕方あるまい。損傷させねば、けずることにすら果ては見えぬ)


 目隠しなんてものは意味はない。しかし、それが目に入ったなら、硬直くらいはする。体にはまだ感覚はある。痛みに麻痺まひしている訳ではない。


 そして、そんな硬直は、体の普段の自然な防御態勢を妨げる。硬直。力み。それは、不必要に体を無防備にする。


(やはり、)


 一瞬であるが、筋の次の動きへの為の待機状態すら解けて、足どころか、全身の駆動準備が完全に止まった少年へ、


(同じ損耗させるならば、わしの物となる小僧の体。こちらに限る)


 義手である左手の、


 ボシュゥウウウウ、ゥオンンンンンン――ドゴオオオオオオオオオオンンンンンン!


 禁を解いた、加減の無い、激しい駆動音と重量と遠心による一撃。少年のがら空いた、無防備で弛緩しかんした腹部にそれはぶち当たり、皮や筋の断裂音と共に、少年は吹き飛んだ。


 ミシミシミシミシィイイイイイイ、ブゥオゥンンンン――バァァァァッ!


 それなりに後方であった筈の壁面にまっしぐらに飛んでいき、激突するまでにそう時間は掛からなかった。勢いは死んでなんていない。だから、


 ミシッミシミシッ、バラァァンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン! ゥオンンン! バラァァンンンン!  ゥオンンン! バラァアアアンンンンン!


 そんな風に、壁が罅割れるほどにめり込んでいって、それでもまだ足りず、破壊するかのように壁をつき破って、更にその先、その先、その先、と、隙間を開けて幾層にも存在していたらしかった壁を、何枚も何枚も、突き破るように吹っ飛んでゆき、やがて、止まり、地面に崩れるように落ち、倒れた。


(少々やり過ぎたか? いや、しかし、この小僧、これでも骨格や内臓への損傷は無し、か。どうなっておる……。こんなもの、人の域の耐久では無いぞ……)


 少年の肉体としてのカメラとしての視界は飛んでいる。だから、操者たる壮年の男には、その様子は少しばかり分からない。建物の不味いところを壊してしまっていないか確認しようにも、できない。


 もう一つの人形であるリールは、駆動による熱と反動で、流石にちょっと、動きが鈍ったようで、操作を受け付けなかった。言うことをきかないというより、動けない、という感じだった。


 右足痕跡部分と、左腕義手部分は赤熱し、その表面に張り付かせていた肉スプレーによる覆いを、残っている部分でも茶色に、酷い部分は剥がれ落ちたり黒色の消し炭にしてしまったり、という具合だった。


(……最初から、こうしておけばよかったのではないか……? ……。流石に、無茶か。こんな威力の一撃、打つ側も受ける側も、無事で済む筈があるまい。そう思い込むのも無理は無いだろう。さて、少し、待つとしよう)

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