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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み

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---085/XXX--- 収縮収束の遠大な罠

 薄暗うすぐらやみの中、灰白色の地平は、うねるように、浮上を、変形を、収縮を、始めた。この場所全体が動き出す。海とこの場所を分ける透明なアーチも、罅割ひびれることすらなく、それに合わせて収縮していく。少年とリールがいる中央塔、保管庫へと向かって。そここそが、収束点。


 少年たちは気づいていない。揺れは依然途切れず続いていると、少年とリールは自分たちの開けた穴のせいと疑わないだろう。


 敢えて遠回りするかのような、幾重にも張り巡らせられた大掛かりな、敵のからめ手。相手の行動に許容を多く含ませながら、その選択肢せんたくしを徐々にしぼらせつつ、誘導し、めの一手へと収束させてゆく。


 ギギギギギギギゴゴゴゴゴゴゴゴ――


 そう。ここは、機械仕掛けの、ドーム。天然物では決してない。人口の、人造の、旧時代の、海の底で放置され続けてきた、隔離され続けてきた、この敵の設計による、しかし皮肉にも、この敵自体のおりとされてしまった、一人の策謀さくぼうの男の永劫えいごうの墓場。


 しかし、男はあきらめていなかった。もはや、意味のない妄執もうしゅうのような執念が機を手繰り寄せた。


 重ねた老いすらも、手段の一手として織り込んでいた。イレギュラーはあった。しかし、それすらも許容の内に収めてしまった。自身の重体一歩手前な、まるで体が半壊するような損傷ですらも。


「とはいえ、ここまで、上手く、ゆくとは、のぉ。予想の範疇はんちゅうを越えて上々よ」


 外来の箱の中、老人はその、全快した上にほんの少し若返った体と、半ば取り戻した制御を手に、ほくそ笑む。


 スッと何処からか出してきて、手に握ったそれは、空になった一本の注射器。その中には、鉄錆てつさびのような褐色かっしょくに少しばかり黒緑掛かった邪悪な色をした液体がほのかに残っている。


「二体のサンプル。内、一体は血縁。ならばこそ、リスク無しと確信することができた。理論だけで自身に試せる類では無かったからのぉ。しかし、実証された今、地上での良き鬼札として使えるであろう。奇跡は二度は無い。わしによる三度目で、調整も済んだ。想定外に強大な効果を、毒と中和させることによる程度の調整。頃合いは少しばかり黒緑掛かった錆色さびいろわしの体重と年齢による分量は過去の生物実験によるデータも考慮して、5ml。想定の通り、再生した。取った齢をまきにして、巻き戻るかのように再生した。まさか、わしの死後を考えて、仕込んだ、惨劇と愉悦が為の偽りが、こうも都合よく働くとは、のぉ。ふはははははははははは、ふははははははははははは…―、っと、我ながら独り言が増えたものだ。思惑は心に秘めるに限るというのに。しかし、まこと、笑わずにはいられぬ、わなぁ。ふはははははははははは――」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


(さてはて。通行証たるあの二人は、きっと、わしが来るのを、おろかにも待ち構えておるのであろうなぁ。交渉の地平へと儂を引き摺り下ろせた、とでもよもや本気で思っておったりはせぬかのぉ。それほど滑稽こっけいではあるまい。しかし、青い。それは違いない。喉元通のどもととおれば熱さを忘れる。そんな風に忘れておるのであろうかのぉ? ここに来て、どうして自分たちが不覚を取ったのか? 本来、負ける目なんてほぼない相手に、手も足も出ず、やられたことを。こちらの主力は、あんな失敗作共では決してない。裏に伏せた策と手段こそがわし右腕みぎうでよ)


 老人はこれまでを回想する。あの建物の中に、おろかにも待ち構えたままの二人と、まだ何処かを彷徨さまよっているか既にこと切れているかのもうどうでもいい一人のことを。


(その絡繰からくりに、未だ気づきすらしておらぬ。おろかよのぉ、小僧こぞうも、その女も。気づいておったのは、あ奴のみじゃったが、意識を取り戻すことは二度と、無い、じゃろう。それと同時に、儂に終わりを危惧きぐさせることも、のぉ。知恵を失い、力だけになったあれに、放水のわなから逃れる術など、ありはせぬのだから)


「ふははははははは、ふはははははははははは――」


(何れにせよ、次で、終い、じゃ。此処ここを出るが為の通行証たる人の身、そして、水圧を防ぎ生きたまま移動する為の箱。肉体そのものの簒奪さんだつは後であろうが構わぬ。装置は()()()()()()()()()()()()()()()()()()のじゃから。自体は、イレギュラーすらも含めて、未だわしてのひらの上よ)


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ――


(できれば、あの女の体も、手にしたいものじゃのぉ。ベリーの欠片。その()として、のぉ。地上に出てからでもよいが、あの女は、素材としては逸材じゃろう。立場からしても、のぉ。頃よく、新生することととなるわしに相応しき、在るべき姿、ままの、ご都合な位におあつらえな、比翼ひよくつばさよ)


 老人の高笑いとドーム自体が変形する音だけが、そこでいつまでも響き続けるのだった。

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