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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
367/493

---084/XXX--- そこは根本から仕込まれた空間

 死線を、越えた。


 それが、今そこにいる二人の共通認識だった。


 散らばった紙片の山にもれるように、押し倒すかのように抱き着いたリールと倒れ込むように抱き着かれた少年。甘酸っぱい雰囲気なんてなく、ただ、温かくて、ただうれしくて、ただ安心して、思う存分、二人は満足いくまで、声を上げて泣き続けた。これまでの緊張の糸がぷつんと切れたかのように、せきが崩れたかのように。


 互いに互いを見ての、束の間の安心。そう。束の間。それは、とてもとても、短いものだ。その心地よさは、安穏は、ひたるに値するものではあるが、それが唯のなぎでしかないというならば、次のあらしがまだやってくるのならば、決して気を抜いてはならない。


 弛緩しかんせず緊張を絶えず保っておくべきという訳ではない。ここでの意味合いは、弛緩しかんしきってはいけない、わずかでも、緊張を何処かに含んでおくべき、ということだ。


 敵は、困難は、未だ健在。気の緩みが、一時、二人からそれを忘れさせる。


 そして今、()()()()()()()()()()()()。かねてからの目論見の通りに――






 ――ザァァァァーー、サァァァァァァァァァァァ……。 


 ドーム底部~下層部分外縁域、つまり、()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 リールがあけた海中、地面の断裂、そんな痕跡こんせきなんて、()()()()()()()()


 灰白色の円盤底面が露出ろしゅつしていた。土壌どじょうは流され、機械部品の壮大で緻密に連結した外殻土台とその上の建物と内容物。


 残っているのは、もう、それだけと、()()()()


「ふっ、ふはは」


 コッ、コッ、コッ、コッ、コツッ、コツッ、コツッ、コッ、


「ふはははは、ふはははははははは――」


 そんな地面を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()は、高笑いを上げ続けている。血反吐も吐かず、非常に良好な顔色をして。


 その理由は、


 コッ、コッ、コッ、コッ、コツッ、コッ、コッ。


「これじゃ。これこそが、必要、じゃった。人の肉の体と共に、もう一つ、必要なもの。それこそが、これ、じゃった。あ奴らは誤認しておる。脱出に必要な、深海の圧につぶされぬだけの乗り物。わしは、今、手にしたのじゃ。ふははははははは」


 足を止めて、目の前にある、無機質な灰白色の地平に残った、それ。少年たちが、この場所へ引き込まれたときに入っていた、透明な、箱。


 そして、透明とうめいな立方体の、箱とその内容物となろうとしている、最早老人とは呼べない壮年の男。髪は再生していないが、それでもこれまでとは段違いに若々しかった。


 スッ、コトン。


(遥か昔に仕掛けた、ばらまきにばらまいた保険の一つ。まさか、よもや、それが活きることにはるとはのぉ)


 そんな壮年の魚人の体の男が、その箱を難なく持ち上げ、ひっくり返すように傾けると、


 ジャバアッ、サァァァァァァァ。


 少しばかり中に入り込んでいた海水と砂がその中から流れ出た。


 スッ、ゴトン。


 そして、開いた面を上に、元のように置く。


 スッ、トン。スッ、トン。ゥイイ、ゴトン。


「稼働を開始するとするかのぉ。この制御の為の別経路を作っておいたことが活きたわい」


 ギッ。


 体を中に入れ、蓋を閉じるかのように、開いていた一面を、それが閉じた箱になるように、内側からてのひらを張り付かせ、閉じた。


(密封、完了。次、じゃ)


 その、鋭くなった目力を、何か念じるかのように更に強めると、


 ググググ、グギギ、グギギ、グググググググ――


 ()()()()()()()()()()()が、動き出す。

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