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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
359/493

---076/XXX--- マックスバルクアップ! 埒外、筋の化生

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 ・

 ・

 ・

 バショショショショショショショショ――


「ゲホゲホッ……」


(あの一瞬の視認のみからの、一動作分のみの命令……。……じゃが、ここで切らねば、わしは、終わって、おった。あ奴ら、此処の蔵物の効用、知っておるのか? どれだけ、知っておるのだ……? そうか、我が、子孫か。あ奴めが、……、継承は上手くいかせっておったというのか、あの愚物如きが……。うっ、)


「ゲホゲホッ、ガホッ、ボチャァァ……、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、――」


(未だ、未だ、終わる訳には、ゆかぬ……。わしが死ねば、……。対象を、変えると、しよう。仕方、あるまい。あの女で、我慢す―…)


「げほっ、ゲホゲホゲゲホッ、ブシャァァッッ、ゲホゲホゲホッ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、――」


(急がね……ばぁっ! ()が、消え……ぬうちに)


 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 バショショショショショショショショ――

 ・

 ・

 ・

 バショショショショショショショショ――


 老人は、水の増えていく通路を、魚人たちの足頼みに強引に突き進んでゆくのだった。






 バショショショショショショショショ――


 少年は、水に足を取られながらも駆けていた。駆け抜けていた。閉じ込められたあのだだっ広い部屋の中で。閉じたお蔭で水位の上昇が緩やかになったとはいえ、着実に、徐々に、増してゆく中で。


 ビュオン!


 大きく蹴り出すように、背を曲げて、避ける。顔のすぐ上を、何かが、全速力で飛んでいった。


 ビシャリ。


 顔に垂れてきた、生臭く、薄赤いもの。血だ。逃げ惑う原因はそれだ。時折飛んでくる。肉と骨と血のかたまりな断片。魚人たちのもの。巻き込まれないようにするが為に。


 老人が立ち去る際に投げ捨てた指示。それに従い、雑にだが、まとまって、ある程度連撃になるように連携して、ターゲットへと襲い掛かる魚人達が次々に、殆ど目に見えない速度と、ターゲットが元から持つ重さが乗った拳打と足打によって、ぐしゃり、ぼきり、と、まるで鉄球でもぶち当てられたかのような音と共に、次々に吹き飛んで事切れてゆき、その死肉の塊は、少年に結構な数、かすりながら飛んできていた。


(何で……、何で……、こんなことに、なっとるんや……。俺は、二度も、シュトーレンさんを、殺す、んか……? 殺さな、捨てな、あかん、のか……。だって、だって、あんなん……、)


 改めて、少年は、前を見る。台座の方向。その上。逃げ惑い始めたその直前に見た、()()の姿が、そこには、あった。


(どう見たって、もう、()()()()()()()()()()やん……)


 魚人どもの血を主とした体液にまみれた、恐ろしく太まじくも、がっしりと、ガチムチとしたはち切れそうな筋肉の鎧をまとった、変わり果てた姿の、シュトーレンが、いた。






(あのじいさんでも、シュトーレンさんでも、どっちでもよかった。じいさんに全部打ち込んで引導渡したるか、シュトーレンさんに打ち込んで、ちょっと注入されたとこで、砕いて、取りあえず動ける位に回復させるか、どっちかやった。シュトーレンさんの復活は確実やないと思って、じいさん狙って、避けられて驚いた振りしながら、しめた、って思ってた。けど……、()()()、やった……。あんなん、なるんやで……。なって、しまうんやで……。もし、砕くの間に合ってても、手遅れ、やったんちゃうんか、あれ……。絶対、体元気にする薬なんか、とちゃう……。人を、化け物にする、劇薬、やんか……)


 少年は、ぐちゃぐちゃだった。心の中は、どろどろに、渦巻いていた。とてもとても、気持ち悪かった。自分に対する罪の意識。シュトーレンが自分に渡したそれのことと、もしかしたら悪意ある意図がそこにはあったのではないかということ。ぐるぐるぐるぐる、渦巻いた。


 それでも、倒れる訳には、いかなかった。魚人の残り、つまり、進んで犠牲になってくれる肉壁は、後、五体。下手すれば一振り。持って、三振りだ。


 だから、目を背けない。見る。見る。見る。


 服は、どうやら、こうなった際に弾け飛んだらしく、全裸だった。だから、変化が嫌によく分かる。その体にはもう、だらしない脂肪しぼうの垂れなんて、どこにも見られない。


 真っ白だったはずはだは、血管が浮き上がって、こぶのような血管の川が、伏流するように、くっきりはっきりと、躍動やくどうしながら流れている様が見えた。筋肉は、肉体は、限度を超えて弾けそうなほどに、はち切れそうなほどに、れ上がっているように見える。


 それを形容するなら、まさに、化け物。怪物かいぶつだ。何故なら、どう見たって、素のシュトールンの意識はそこにはない。


「グググ、ゥググ」


 意味のない、言葉擬きの、音。雄たけびでも咆哮ほうこうでもない。


 白目を剥いて、そんな白目の中の毛細血管が浮き出まくって、弾けそうに躍動やくどうしている、確かに言う通り、化け物としか形容しようがない男が、ハンマーのような手を、


 ボブシュゥゥ、シュゥゥ。


 ほぼ見えないような速度で放ち、残り5体となった魚人達のうちの、2体の頭をつぶし飛ばしたところだった。腕を振るった音は、聞こえない。当たった対象が弾け飛んだ音だけが、響くのだ。


 ピシャピシャァン!


 そして、飛び散ったそれらが、水に落ちる音だけが、遅れて響いてくるのだ。


 あんまりにあんまりな想定外にも程がある光景。確かにさっきまで目前にあった脅威は立ち消えた。予想だにしない形で。だが、代わりに、もっとどうすればいいか分からない、手に余る脅威が生まれた。他ならぬ自分のせいで。


 だから少年は、それを直視しつつも、顔をしかめ、ここに来て、ふさぎ込むように本気で思い悩みそうになりつつも、


(やばい……。あぁぁぁぁぁぁぁ……。嘘やろ、なぁ、こんな馬鹿げたの、夢、……。そんな訳ない。俺がもたらしてもぉた、現実や……! くそっ、くそっ……、くそぉぉおっぉおおおおお!)


 ズッ、バシャン!


 一瞬感じた違和感の為に、少年が水に沈むようにしゃがんだ直後、感じた風の圧。すぐさま頭上を、音が一瞬、横切った。


 ――ぅぅぅ――、


 恐る恐る、後ろを―…


 ドゴォォぼきききブチュゥゥゥゥゥゥゥおおおおンンンンん!


 向いた途端響いた音と共に、壁に向けてぶっ飛ばされた、魚人の胴から上と下で真っ二つにけ、その両方がくだつぶれるようにかべにめり込んでいた。


(ぅぁぁぁ……)


 ガチガチガチガチガチガチガチガチ、ググググググ、グッ。


 (あ”あ”あ”あ”あ”あ”)


 パシャン。


 カチカチ歯を鳴らすように震えた少年はつっ伏した顔を上げた。


(こわいこわいぃぃぃ……、お姉、ちゃんんんん……だずげでぇぇ……)


 そこには、血走った眼球と、その中のぶれる光彩こうさいをこちらに向け、けもののような声をあげることもなく、こちらを見据えて、動きを止めている、シュトーレンが、いた。

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