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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み

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358/493

---075/XXX--- 勝ち誇りからの想定外

 シュッ!


 少年が放った切り札。それは、ジュエット機関巻きつけた注射器。


(これはここにあったもんや。じゃあ、どうしてあのじいさんは、あんな弱った体をしてる? 合わへんからやろ、これが。じゃあ、打ってやれば、ころりとってまうやろぉぉっ)


 当たると確信して放ったはずのそれだった。しかし、それは狙いが小さすぎたのか、あっさりかわされる。首を傾けられただけで。


「あぁっ!」


 少年は思わず大きく声をあげた。


(確実にって、頭狙あたまねらってもうたぁぁ……。けど、胴体どうたいやと、あかん。ぼろぼろくずれる体や。頭だけもがしても、逃げるなんてことも、ありそうやった……。けど……それでも、こうやって外す位やったら、胴体どうたい、狙っとくべきやった……)


 避けられにくいように、ジェットによって、真っすぐではなく弧を描くようにほとばしったそれを。そのまま見当違いの方向へ、飛んで、


「甘いわぁぁっ! 嘗めておるのか、儂をぉぉっ! おろかしく勝ちほこりよってぇええええっ!」


 プスッ!


「えっ?」

「ぬぅ?」


 二人はそろって、その音に反応した。






 鋭く、鈍く、響き渡るかのように、そんなおかしな音がした。ジェット機関が、宙に浮いたまま、何かにさえぎられるように止まり、注射器の中身が、老人背後数メートル離れた、老人より数メートル高い時点で。そこは丁度、ピラミッドがくずれ消える前の、台座と、シュトーレンが、在ったはずの辺りだった。


「……、あぁぁぁっっっっっ!」


 少年はどんな埒外らちがいが起こったか、悟った。


「……、これは……、小僧こぞうぅぅ、貴様ぁぁぁ、やってくれたなぁぁんだぁぁぁ」


 老人も、その注射器の中身を知っていたようであり、起こった事態に、憤怒ふんぬした。そこに誇張こちょうした演技はもうない。それは、純然たる、老人の見せた怒りだった。老人のてのひらからすら、事態が今、こぼれ落ちた瞬間だった。


くなる上はぁぁっ」


 ズッ、トンッ!


 老人は、本当に、動き出した。皮膚崩ひふれ落ちる足で、り出して。雄たけびをあげながら、空になった注射器とジェット機関浮かぶ虚空へ向けて。恐らくはその手で、事態を収拾する為に。どうやら、それだけの手段をまた、抱えていたらしい。


 少年は動けない。もう、間に合わない。老人の方が、目的へ近い。その上、自身の前方、そのうちの最も近い数体だけだが、停止していた魚人たちが、単調におそい掛かってきていたから。


「くっ……。くそぉぉぉっっっ!」


 それを何とか、辛うじてのところで回避かいひし、竿さおではなく、ナイフでそれらを少年は処理し、目の前の動線が空いたところで竿を振るうが、間に合わない。


「ぬぉおおおおおおおお……——」


 老人の拳が、何だか紫色に変色して、何やら、紫色の液体を爪先からしたたり落としながら、ねらいへと到達しようというところで、



 むくり。ブォン! ブゥァァンン!


 見えない何がが動き、強い風圧が、飛ぶ。少年は自身の方へ飛んできたそれに、目をつぶりながら、圧の弱い方向、横へ、ステップする。動いている最中、その刹那せつな、元いた側を、何か、横、切る。


「ボグゥホォォォォァ」


 聞こえた一瞬の、うめきのような、声。


 ブゥォゥゥゥゥゥゥゥゥ――ボコォォォォォン! バラバラ、バシャァン!


 激しい衝突音が響く。水の激しい流入、依然続く横揺れなんかより、ずっと大きくそれはその場に響いた。


「っ!」


 少年は、前ではなく、後ろを見た。何やらが横切っていた、その方向を。突如何かが、起こった。その過程は、少年の目にほとど見えていなかった。しかし、聞こえた一瞬いっしゅんうめき声が大体の事態を予想させていた。


「ゴボボ、ぶふぅ……」


 ビチャッ、バチャッ。


 いつの間にか、老人がぶっ飛ばされて、かべにぶちょり、べたり、ぶつかった場所辺りを半ばつぶれるように、ぶっ付いている。


 めり込んでいる、というより、潰れ、ぐしゃりとくっついているかのように見える。


「……」


 少年のほほに冷たい汗が流れる。


 ぬちゅり、ズッ、ドバチャァァンンン!


 自重で地面にゆっくり落ちた老人は、死んではいない。


 意識も失っておらず、しかし、ボロボロな感じで、少年のすねの丈辺りまでまった水に落ちた老人は、すぐさま顔を水から上げて、海水と血反吐の混ざった吐瀉物としゃぶつき出しながら、


「ご、ごほっ、ぎょ、魚人ども、あの化け物をとめろぉぉぉおおぅぇぇえええええええ、ゲホゲホゲホッ、ドチャッ、ゲホゲホゲホッ」


 げきを飛ばし、そのまま、激しく血をきながら、水へ顔を、うずくめるようにくずれた。


 そして、


 バシャァン、ズッ、ボチャァァァアアアアアアア、ポトポトポトポトポト――


 バシャバシャバシャバシャ――


 見えない何か、複数に持ち上げられ、少年を放置して、少年がやってきた通路の方へ向かってゆき、


「許さぬ。許さぬ、ゲホゲホッ、許さぬぞ! ここで、()()()()()()()()()()()相討あいうち朽ちるがよいわぁぁっ!」


 走り去ると共に、


 ゥゥウウウ、ガゴォォンン!


「……。はぁっ? はぁぁぁぁぁっっっ?」


 少年が来た道は、突然通路の前に降りてきた壁に、ふさがれた。そんなもの最初から無かったかのように。


 尻尾しっぽを巻くかのように、捨て台詞と共に、老人は逃亡したのだった。

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