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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
347/493

---064/XXX--- 目論見は隔たって

 ブゥオォゥゥ、ズザァァァブゥゥゥゥ、ズブゥゥゥウオオウウウウ、ズゥ、ズィィッ、ズザゥゥゥゥゥゥッッッ――


(見つけて、すぐ、行くからね!)


 ズブゥゥゥウオオウウウウ、ズゥ、ズゥゥ、――


 もう、痛みも冷えも感じないの。麻痺まひした磨耗まもうした手でも、止める気になんて微塵みじんもなれなかったから。


 そして、とうとう――指先は、可能性に、届いた。


 ズゥゥッ、ズゥゥゥンン、ズ――こぉん!


(あっ!)


 自身の左手である義手ぎしゅが、砂の中の硬い何かとぶつかる音が、義手越ぎしゅごしに伝わってきて、リールはより機敏きびんり始める。


 ブボォン、ブブォオン、クコォォ、ブボォン——


 やがて、それの輪郭りんかくをなぞるように、砂をどろを、がし、散らし、それが流れ、あらわになった。


 半径5メートル程度の、白銀色の、ふた。そして、うねりながら下へと伸びている、同じく白銀色の、つつ蓋周辺ふたしゅうへんから深さ2メートル程度までしかれていないが。それ中心の蟻地獄風ありじごくふうに、中心からけいを大きく取るようにってそれが限度だった。


 どうしてか、れない。掘り進めても、間隙かんげきき消えるかのように一瞬で埋まる。その一堀ひとほりなんてなかったかのように。






 だからリールは、こだわりそうになるのをみとどまり、ならば、とふたに焦点を合わせる。


(ふたは、)


「プククククククク(フンンンンンンンンンッ)、……」


(駄目だめ、ね……。今の私で無理ならポンちゃんでも無理。二人でやっても、きっと駄目……。ポンちゃんの言った通り、あの箱が角潰かどつぶれず余裕で通れる、丸い通り道、確かにあったわ。間違いなく、これ。けど……、これじゃあ、次へ、いけない……。どうやって、こんなの開けたらいいのよ……)


 思考が激しく空気を消費させていた。


ブゥオウ、スィン、スィン、ブォゥゥゥ、ザバァァァァンン!


「ふぅ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」


海面から顔を出し、大きく息を乱しながら、リールは周囲を見渡す。


 リールは気配に気を配ることだけからは、気を決して抜かないようにしていた。警戒けいかいは、無意識に、しかし鋭くほとばしり続けている。


「……」


 当然のように、海の中に魚人共はおらず、砂浜にすら一体も見当たらない。砂浜は依然、スターゲイザーフィッシュの地雷原。隠れる場所なんてない。ここまで向かってくるには、大回りに迂回うかいする他なく、それは足に波が触れる距離。


 少年から聞いて受け入れた予想、魚人たちは魚の外見であるにも関わらず、水を恐怖する、に加え、スターゲイザーフィッシュへのあれらの先ほどのおびえよう。


 あれらは、恐怖にひどく弱い。つまり、いない、と断定して問題ない、とリールは結論を変えなかった。


(水がここに猛烈もうれつな勢いで流れ出す音と揺れが、自然と、合図になる。その手筈てはずだったけれど、これじゃあ無理、よね……。他の道を、探るしか、ないわ。……、まだ、時間は、ある、ある、はず、なの……。ポンちゃんは、私みたいには、弱く、ない……)


 そうして浜辺の方を向いた。





 リールは浜辺へと引き返し始めていた。水位は膝少ひざすこし上辺り。もう、泳ぎ進むというより、歩いているかのような風。もう少しで、水の外。


 ザバン、ザバン、ザバン、ザバン——


 リールは考える。駆け出したい気持ちは一杯ではあるがそれに意味はないどころか、消耗しょうもうするだけだからと、代わりにうぅんと考える。


(じゃあ、どうすべき? 決めてないわ、そんなこと。だって、そんな時間なかったもの。穴があるなんてわかりきってた。けど、それを疑って動けなくなるのが一番怖かったんだもの)


 ザバシャ、ザバシャ、ザバシャ、ザバシャ——―、ぷおん。


(……。『ぷおん』?)


 それはどうしようもなく嫌な予感をリールの頭に抱かせる。足裏から伝わってくる弾力は、徐々《じょじょ》に、しかし、確実に大きくなり始めていた。


(っ……!)


 恐る恐る、リールは目線を、自身の今の右足である、義足となっているかかとと足裏へと下げる。するとそこには——ふくれ始めたスターゲイザーフィッシュが、いた……。


 足裏から、感触と共に、音が、伝ってくる。


 ブゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウ、ゥウウウウウウウウウウウ――、


 反応が遅れたのは、踏み、まれ、食らいつかれていたのが、義足故に。そして、そんな相手は水の中。仮にもモンスターフィッシュ。それに、膨張はもう、水と足の重さをはじき返すほどに力強く進んでいて、おまけに、ふくらんでいくごとに、リールのバランスは崩されてゆく。水の中で、空気の入ったゴムボールが、勢いよく浮かび上がらんとするかのような浮力によって。


 そして、その速度は早く、もう、膨張は止まらず、既に、為す術なんてなく、


 ブゥオウアシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!


 大きな大きな、水柱が、爆発のように、吹き上がった。

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