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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み

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---061/XXX--- 時稼ぎの囮

一目瞭然いちもくりょうぜん、じゃろう? 生きておるよ。生きておるだけ、じゃがのぉ」


 老人は愉悦ゆえつを浮かべ、そう流暢りゅうちょうに答えた。


「そんなもん、見れば分かるわ……」


 少年はそう、苛立いらだちをこらえつつも、らしつつ、それに付き合う。


 これは会話だ。形だけの会話だ。少年はまともにり取りするつもりなんて毛頭ない。これは半ば接待のような、へつらった時間稼ぎに過ぎないと分かっているから。場の主導権は自身には無い、と。


 老人は何とでも答え、何であろうが疑問として思うがままに口にすることができる。


 少年は答えを吟味ぎんみして老人の望む範疇はんちゅうに収め、疑問は疑問ではなくて知りたくもない相手が話したがることを間違えず選び続けなければならない。


 老人はそれを接待と思いもよらないだろう。それは老人にとって見たくないものだ。だから決して直視しない。傲慢ごうまんかつ身勝手で、かつてはかしこなる者だった、くさり、ちた者。


 少年は、そこまで分かった上で乗っている。それも、自ら乗ったのだ。


(上から見た時と違う、この大掛かりな仕掛け。それに、魚人共のここに待機させてた数。俺がどこから来るか分かった上での配置、ってことやなぁ。……。恐らく、リールお姉ちゃんは見つかってない。そのはずや)


 そうする必要があったが故に。


 魚人たちは、微動だにせず、こちらを向いたまま、目玉すら動かさず、じっと、構えたままだ。しかし、老人がひとたび指揮すれば、これらはすぐさま一斉に動き出すだろう。


 しかし、少年はそれを恐れてはいない。そうはならない。そうはしてこない。こちらから攻めない限り。そう見透かしているから。


 だからこそ、老人と大量の魚人たちを前にしたまま、考えを巡らすことができていた。






 階段状の台座の周りには、陣を敷くかのように並ぶ様々な種類の魚人たち、その数、百体程度。それらは微動だにせず、まるで彫像のように並んでいる。


「にしても、一人となぁ。はて? もう一人は何処におるのかのぉ。小賢しく、策でもろうしたか? じゃとすれば、お主は時を稼ぐ為のおとり、といったところかのぉ。フォッフォッフォッフォッフォッ」


 と、滑ったアザラシのような手で、まるで獣人のような毛が生えたあごを人差し指と親指で摘むようにこすりながら、それ以外、茶色に焦げ付いたような青いうろこで覆われた、人の目と耳と鼻と口をした、なりそこないのような老人は、口角をつり上げ、邪悪にほくそ笑みながら、首を傾げた。


 口調もしゃべり方もぶれがある。話の流れも順序も、ぎこちなくおかしい。それが本当に長い間、会話というものをしていなかったのであることを如実に示していた。


「……」


 それでも遣り取りが崩れず成立しているのは、少年が乗っているからと、少年が本当にその場凌ばしのぎの対応しかしていないからだ。だいたい直前の、時折、直前プラスもう一呼吸前くらいの会話の内容までを踏まえて、それっぽく望まれる反応を返している。


(いや……ちゃうな。探しにすら行ってないぞ、これ。フェイントや、これは。魚人の数が十数体、さっきより減ったままやとはいえ、こんなバカ広いとこを探し回るには無理がある。施設の機械はまだこのじいさんの手には戻ってないんや。何で俺らはあのとき海岸でおそわれた? どうやって見つけられた? 施設の機械の目を使って、や。……。はぁ……。思ってたよりもこっちに残してる数が多いなぁ……。ざっくり二手に分けてくれる位が一番ええ按配あんばいやったけど、そう上手くは動いてくれへんわなぁ)


「お主は恐怖だにしておらん。そこだけは、面白くない、のぅ。ほれ。少しは恐れよ。見かけ通り、童らしく、な」


 ぎょ。

 ぎょろ。

 ぬちゅっ。

 ぎょろり。

 ぎろり。

 じぃぃっ。

 ぬすっ。


 それに連動するかのように、起動し、一様にこちらを見る、百を超える魚人たち。


 しかし、少年はおくさない。それどころか、そんな一堂に対して苛立いらだち混じりでにらみ返す。


(うわぁ……、わざとらしっ)


 向こうは迂闊うかつに攻められない。そう気づいているから。それは何も、この体を傷つけず手中に収めたいからだけではない。


 向こうは、この圧倒的優位の、狩人とその猟犬りょうけんに包囲されたけものというシチュエーションをできる限り長く味わいたいのだ。じっくり楽しんで、ねっとりと弱らせて、骨までしゃぶるかのようにその味に浸りたいのだ。


 だからこそ、少年は強気に言い返した。


「俺一人で十分やろ? こっちも、そんであんたらも」


 そっちの考えなんて全てお見通しだと言わんばかりに。






「フォッフォッフォッ、言うではないか。なら、こうすれば、どうする?」


 くいっ。


 老人は顔を傾け、前へ、と指図する。すると、


 すっ、ノッチャッチャッチャッ――

 すっ、ノッチャッチャッチャッ――

 すっ、ノッチャッチャッチャッ――

 すっ、ノッチャッチャッチャッ――

 すっ、ノッチャッチャッチャッ――

  ・

  ・

  ・

 すっ、ノッチャッチャッチャッ――


 魚人のじんの、前方。少年側最前線。そこの一部、十体程度の魚人たちが、一斉に動き出し、少年はすぐさま構えたが、それはほんの一秒程度。すぐ構えを解いた。


そのすぐ後数秒後、魚人たちは、素早く少年を素通りしていき、少年が通ってきた通路へと消えていった。


「ほぅ、止めぬ、のか」


 老人はそう、口元をほころばせながら、たのしそうに言った。


「そこは、『ほぅ、刃を引いたか』、とかちゃうん?」


 少年はそう言って、にたぁぁと、笑った。


(まぁ、全部お姉ちゃんの方に流れるとかよりはだいぶましやしなぁ。まっ、今さら全部流れられても、ろくに影響は無いやろうけど。お姉ちゃんのことやし、もうそろそろ辿たどり着いたはずや。後は合図を待つだけや。そろそろやと思うけど、)


 それは、リールと二手に分かれたが故に。それは、リールの向かった場所が故に。こちらも危険。しかし向こうも、()()()()それ以上に危険。


(お姉ちゃん、大丈夫、かなぁ……)


 そうやって少年は心の中でめ息をきながら、老人と魚人共と対峙たいじしているのだった。

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