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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?章 第三章 戦術者たちの淀み
342/493

---059/XXX--- 苦難へのひとりみち

 コッ、コッ、ザッ、コッ、コッ、――


 進む。進む。少年は進む。薄暗い通路を。一人、真っ直ぐと。待ち構えている者たちの元へ。


 通路に差し当たってから、それなりの時間、少年は歩いていたが、分岐路の類は無く、ひたすら真っすぐに進んでいた。


 固い地面踏み、高く響く足音。時折、踏まれた小石が砕ける音。物音はそれらしか存在しない。うつむき気味に歩きながら、時折周囲を見渡す。


(だいぶ、歩いてる……なぁ……。この道で合ってる筈やけど……。進ん、でるよなぁ、俺……。碌に景色変わらんけど、一応、この通路の幅、少しずつ縮まっていってるみたいやし。そういう、罠、ちゃうやろうなぁ……。いや、あるなら、もっと早くに遭遇してへんとおかしい、やん、なぁ……? それに、さっきまでよりは狭くなってきてるけど、まだこんなにも広いんは、どういう狙いがあるんやろうか……。こんなん意味なくない……?)


 地面も左右の壁面も天井も、灰色で海綿状な材質でできており、それらは、ひたすらに前方に真っすぐ伸びている。


(進んでいくごとに、管やら何やらで、ほんの少しずつ狭まってきてて、やっと天井も壁も視界に収まるようになったってのに、最初から薄暗さは変わらへん……)


 そこは、明らかにおかしな通路だった。明かりもなく、薄暗い通路。しかしそこは、どういう訳か広かった。


 少年がこの通路の入口に差し掛かったときは、横幅は少年が2、3人両手を広げて横に並んだ程度では埋まらない程であり、高さはこの一本道に入った辺りでは目のよい少年が上を見上げても果て無くやみという程であった。


 そして今少年がいる辺りの横幅は、少年が横に数人並んでも大丈夫な程にまだまだ広い。高さも、少年が跳ねても天井にどう足掻あがいても届きそうにない位にはあるが視認できる距離にきていた。そんな天井は、その手前の大量の配線の束の奥にうっすらと見える。


(さっきまでよりは狭くなってきてるけど、まだこんなにも広い。どういう狙いがあるんやろうか……。天井を、壁の上の方を、管が、束が、先に進むにつれて、どんどん集まってきて走ってきとる。どんどん増えて、太くなって、ずっと向こうへ、伸びとる……。上から見たときそういうもんは無かったけど、奴が居座る場所に選ぶってことは、そういうことなんやろうなぁ)






 コッ、コッ、ザッ、ザッ、コッ、――


 (進んでいくごとに、管やら何やらで、ほんの少しずつ狭まってきてて、やっと天井も壁も視界に収まるようになったってのに、最初から薄暗さは変わらへん……)


 そして、進行方向数メートル先も、やみだ。この通路に差し当たってからずっと。そして、足音は少年のもの一つだけと状況も変わらず。


(分かれ道もなく、この無駄な広さ、やのにこの暗さ……。何より、この不気味なくらいの静けさ……)


 冷んやりとしているのに、風の流れはなく、空気は乾いている。


(何なんやろうな……。さっき壁に手触れてみたけど、俺の手汗、あっさり吸われて消えたし。けど、音は吸わずめっちゃ反響するんよな……。風吹いてないのに、なんかちょっと寒いし)


 コッ、コッ、ザッ、ザッ、コッ、――


 頻度ひんどの上がった、小石を踏んづけた音も、順路がこれだとほのめかしている。それはあの浜辺の白い小石。それはあの浜辺のアイボリー色の砂。


 少年は、浮かぶ様々な不安と戦いながら、それでも歩みを止めず、歩き続けた。






 コッ、ザッ、ザッ、ザッ、コッ、――


(もうとっくにこちらを見据みすえているはずのあちらさんは、まるで攻めてくる気配は無い、かぁ。ずっとずっと、俺の足音だけや……。すごい、響く……)


 ザッザッザッザッザッ――


 気づけば、地面踏みしめる音は、その全てが、小石と砂を踏んだ音となっていた。そして、その音は乾ききっている。結構な量の砂だ。数センチ積もっている。


(流石に、この量が一度じめっとしたなら、こんな風に乾ききるのに、それなりに時間は要るやろう。……ここの材質の吸湿力半端ないから信じてええかは怪しいか……)


 砂の乾きから敵の動きが直近にあったかは図れなくとも、その砂の量が物語っている。きっとあとほんの少し、この先だ、と。


(でもまぁ、)


 少年はうつむき気味な目線を上げ、


(()()()()())


 口元をり上げたのは決してせ我慢ではない。


(十中八九、あのじいさんたちは、ほぼ全戦力を集中させて、この先でじっと、愚直ぐちょくに、ほとんど何もせずに俺を待ち構えているってことやねんからなぁ)


 だから、少年の歩みはここにきて早くなる。


 ズッザッザッザッザッザッズッ――


 もう、逃げ惑うのは止めたのだから。そう。ただ、先へ。


 地面踏みしめる音は自然と力強くなっており、それは積もった砂を踏む音にことごとく変わっていた。






 ザッ、ザッ、ザッ、ザサッ。


 少年はゆっくりと足を止めた。遠望をさまたげていた視界前方数メートルの距離から発生していたやみは晴れた。


 そこは、一辺30メートル程度の立方体にくり抜かれたかのような、開けた部屋、()()()()()()()()()()


 何故なら部屋の全容は全く見えないのだから。


 部屋を囲う床や壁や天井や、それらが構成する角は見渡せば見えるというのに、中央付近の結構な広さの範囲だけは、黒く、見えない。


 それはまるで、”置かれた”かのようなやみ。大きさすら曖昧あいまいにしか把握できない程に、その境界はもわんとしているというのに、そのやみは濃く、中は見えそうで見えない。それはそんな、もやのような薄闇うすやみのヴェール。


 だからこそ、


(通路のんと同じやつか。あぁ、なら、()()、な)


 少年は疑いようもなく、そう確信した。


(上から見たときと配置はちゃうんやろうなぁ。そうやなかったら隠す意味なんてあらへん。なら、何を伏せてるかが問題かぁ)


ぎろり。


やみを、見つめる。にらむように。確かにそこにいるそれに向かって。


 そして、相手は――沈黙を続けた。やみの中の相手から、きっとこちらは見えている。きっと、見下すようにさげすむように見つめている。


 物音はなく、やみは依然揺るがない。


 ぎりり。


(ここまできても、まだ、だんまりかいな)


 少年は奥歯をきしませた。そして、


 ザッ、


(ここまで踏み入ったのに、まだ、何もしてこんのか。……。ならっ、今度はこっちが乗っけたろか。あんたの伏せ札、めくったるわぁぁぁっ)


 少年は一歩を踏み出しながら、後ろ手にすっと構えていた()()()をそっと仕舞い、ゆっくりと、しかし、力強く、歩き出した。真っすぐ、やみへ向かって。


 ズッ、ザッ、ザッ、ザッ、ザッ――


 すると見えてくる。やみに覆われた中央部分が。白石と金属線が絡み合ったような、階段状の台座の底辺から2、3段分が。それらは、決して目が慣れてきた云々で見えたのではない。向こう側からの干渉の結果なのだと少年はちゃんと認識している。


 ザッ、ザッ、ザッ、ザッ、


そして――

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