第三十三話 道標
『う~ん、分かり難いところは多かったけれど、用語集読んだり戻って読んだりしてたらちゃんと解かるようになってたなあ。俺こんな解かりやすい本はじめてやなあ。なんとなく分かる、じゃなくて、しっかり理解できるようになってく!』
そう思いつつ、本文最後のページを読み終わった少年。かつてない読了感を味わった。
「っはぁぁぁぁ、っつ。」
少年は本を閉じ、背伸びをする。しかし、それは静かな館内ではわりかし大きな声だったようで。
「ポンちゃ~ん、ポンちゃ~ん。」
リールが走って少年の方へ向かってきた。少年に対して、少し嫌な顔をしているリール。
「もう外すっかり暗くなってるわよ。なのにポンちゃん私のとこ戻って来ないし……。」
少年が読書に夢中になっている間、周囲はすっかり暗くなっていたのだった。館内はずっと明るさが変わらなかったので少年はそのことに気づかなかったのである。
「うわあ、やらかしてもたあ。俺そんな長いことリールお姉ちゃん放ったらかしにして本読んでたんかあ……。」
リールを放置してひたすら本を読んできた自身を反省する。それに、リールの機嫌があからさまに悪いため、心の内を声にしてご機嫌取りに走る。
「そ~だよ、ポンちゃん。それに今からあのなっが~い山道下っていかないといけないんだからね!」
笑顔。しかし、当然造り笑顔である。笑っていない、むしろ怒っている。
少年は長い帰り道、リールの機嫌を取りながら本拠地へと帰っていくのだった。
暗い夜道をひたすら歩き続け、やっとのことで本拠地に到着した二人。少年もリールもさすがにへとへとになっており、部屋に着くなり、即ベットにダイブして意識を沈めた。
次の日の朝。身支度をしている二人。風呂から上がってきたリールといろいろ話す少年。
「ポンちゃん、よかったわね、ほんと。その本もらえるなんてね!」
昨日少年が読んでいた本。ほぼ釣りに関係ない本であり、図書館の蔵書リストにもない本であった。
図書館の中央ロビーの中央にあった貸し出しカウンターでその本を借りる手続きをしていると、その本が蔵書一覧にないことが分かったのだ。何せ、そこの司書が一度も見覚えのない本だったのだから。
この時代の図書館には、司書になるための厳しい制限がある。完全記憶能力を持っていること。それがなければ司書にはなれない。その司書が全く見たことのない本。だから、少年が持ってきた本は図書館のものではないと断定できた。
そして、その本を気に入った少年はそれをもらうことができたのだった。その時間にはたまたま少年とリールしかいなかったのでじっくり司書に相手してもらえたためでもあった。
「うん、これすんごいおもしろいんよ。もらえるとかほんまラッキーやったでえ! 昔の時代のことがいろいろ書かれてたんよ。特になあ、"学校"っていうのに興味惹かれたわあ! いろいろなことを教えてもらえるところらしいんや。」
少年の口から出た思いもしない言葉。それを聞いたリールは閃いた。
「え? 学校ねえ、」
頷きながらそう言い、何か先に続く言葉を言わずに溜めている。そして、少年の顔に自身の顔を近づけて笑顔で。
「じゃあ、今日その、学校に行ってみない?」
「え、あるんかいなあああ! 行く行く! 行くでえ!」
少年、これには思わず大はしゃぎ。
大はしゃぎする少年とそれに付き添うリール。そうして二人はこの時代ではすっかり珍しいものとなってしまった学校へと向かうことになったのであった。




