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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第四章 託すに足る相応しき者たち
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第二百七十一話 幕引きと破綻の役者

 結は、ケタケタと舌を出しながら、見下すように嗤い続ける。


 座曳は、突き刺したままの自身の腕ごと、地面に人影を叩きつける。


 ブゥオゥゥン、ボゴォォンンンン、ミシミシミシ、ブゥァコォォンンン! メリメリメリ、ブチブチブチ、ビチャッ、ブチャッ、ビチュッメリメリメリメリメリ!


 未だそれは煙を纏ったままだ。依然、活動を止めてはいないのだ。平素の座曳だったら、そこで気を緩めるだろう。手を止めるだろう。しかし、今の盲目的な座曳はそうではない。


 決着は、ついた。しかし、座曳はそれを視界に入れて認識できない。結は、ただ、混ざってきた赤子たちと幼い子供たちの精神に流され、何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。何も、できない。


 更に座曳はそれに馬乗りになる。


 ジュゥゥゥゥウウウウウ!


 肉の灼ける音と臭い。そう。座曳の肉が。しかし、座曳は怯まない。痛みなんて、今受けている浸食によるものが上回っていて、とっくに意味がなくなっている。


 ニギッ、ブゥメチョッ、ブゥビチョッ、ブゥブリッメリィィィ、ブゥニチョッ、――


 何度も何度も、人影の胸部にめり込ませた腕ごと、石の事件に、砕ける勢いでぶつけ続けている。


 ブゥビチョッ、ブゥブリッメリィィィ、ブゥニチョッ、ブゥメチョッ――


 延々と、ひたすらに、永遠に続くかに思われたそれは、


 ブゥオチョォッ!


 一際大きな、肉が臓物が、潰れるような音と共に、終わる。そう。それは、


(結、結、結、結、結、結、結……、……結……、ゆい………、)


「ぐがががががが、あががががががが、あばばば、あばば、あば、あ、ぁ、……、…………、」


 ブチィッ!


 何か、袋か管かが、裂けるような音。それは座曳の体から唐突に鳴った。そして、座曳は、動きを止め、


(ゆ……い……)


 ブゥラン、バタッ! ボキッ! ジュゥゥゥゥゥゥ――


 倒れて、ゆく……。指し込んでいた腕はへし折れ、骨飛び出し、それでもそのまま座曳は意識を失い、動かない瞳を晒すように開けたまま、人影の胸と首の間辺りに、重なるように倒れ、触れた部分を、人影の体の熱に、焼かれる。


「あはははは、あはあはははは――」


(あはははは、あはあはははは――)


 タタンタンタン、タタンタンタン――

 

 結は狂ったように笑いながら踊り続け、座曳を一瞥だにしない。何も見ず、何も目に入らず、何にも気付かず、何もできない。もう彼女に正気はない。時が来ても、ひとりでには元には戻らない。いや、外から手を借りても戻らないかも知れない。


 ()()()


 その目線に、見ているだけしかできなかった彼らは全員、気付いた。


(っ!)

(二人ともぉぉ、ぁああああああ、気付いてる筈がなぃいいいいい!)

(駄目だっ! あれは未だ、生きて……)

 ・

 ・

 ・

(くぅぅぅそおおおおおおお、何も、できない、じゃねぇかぁあああああああ!)


 言葉は、出ない。そもそも、出ても、どうしようもない。必要なのは、動く、身体。相手は狸寝入りか、それか辛うじて余力を残している。眼光はその証拠。折れていない、屈していない、意識手放していない、紛うことなき未だ終わっていない、証拠。


(このままだと、やられち、まう……。いや……、やるんだ、俺が。今度は、今度こそ、座曳たちを、救うんだぁあああああ!)


 とりまとめ役の、ガタイの良い子供は、全力を振り絞った。


「あがぁあああああああ!」


 動いた。声は意味を為さないが、動いた。そうして気付く。足りなかったのは必死さだ。覚悟だ。だから動けなかったのだと。そして、後悔よりも行動が先だと、彼は、止まることなく動き出す。


 ザッ、ドッ、ゥゥウウウウ、


 前屈姿勢から、地面を蹴り出して、跳ぶように、一目散に、向かってゆく。見える。煙纏う人影の頭ががすっかり再生しているのを。乗っかっている座曳を引き剥がして投げ捨てようとする挙動を示す左手を。


(間に合ぇええええええ!)


 左膝を空中で突き出す。狙いは相手の顔面。そこ目掛けて左膝から着地、


 ブォバキィィィィ、ブチュゥィィイイイイイイイ、ブシャァアアアアアアアアアア、ジュゥウウウウウウウウウウウウ!


 砕き潰すと共に、その左膝は、包み込むように焼ける音立てる。


(くぅぅ……。座……曳ぃぃっ……)


 と、座曳の腕を人影から引き抜こうとするが、抜けない。


 めり込んだそれは、まるで癒着するようにくっついている。熱と、再生に巻き込まれて、完全にくっついてしまっている。その上、座曳の腕の損傷は治ってなんていない。更にその腕は真っ黒なままで、赤子と小さな子供たちの精神の集合体による、怒と哀が、流れ込んでくるのだから。


 それは、気の狂いそうになるような幻聴。軽減できはしない幻痛、しかも、赤子基準のそれ。大人の痛みの数倍と言われるそれを、赤子たちと小さな子供たちの感じた、死に至る恐怖と痛みと終わりの錯覚が、襲ってくるから。


(ぅ、ぁああああああああああああああ)


「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"」


 気付けば、彼は叫んでいた。訳も分からず、痛みに恐怖に促されるまま、叫んでいた。

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