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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第四章 託すに足る相応しき者たち
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第二百六十三話 膠着打ち破る用意と覚悟の一歩

(そろそろ、頃合いです。そして、限度、ですね……)


 座曳の顔色の青白さは引く気配がない。そのまま地面に手をついて、嘔吐し始めてもおかしくないかのような顔色。それだというのにしっかり立っているのは、きっと、役割故だ。隣の彼女も、座曳とは別で頭を働かせている。考えている。懸命に。座曳とは違って、それに対する他の者たちによる対処を予め知っていたが故に、宝物庫から引っ張り出してきたそれらの使い道を、恐らく未だ情報整理中な座曳に代わって考えている。


(()()()()()()()()()()()。未だ何かいる。明らかです。でも、だからこそ、ここで動けないようになってしまうのは致命的、でしょう。私もこうして、この場にいるだけで包まれそうになる。恣意的な意識の部分的な薄れをを感じます……。そういうことができる何かが確かに存在するのだという考えが概念が頭に無い限り、対策のしようがない。一度味わい、そのとき知覚しなければ意味がない。恐ろしいですね、本当に……。私だけ、ですか。そういう意味で何とか自由に動けるのは)


 通用するであろう確実な手段として、座曳と結が背負ってきている複数個の、人一人ゆうに収まりそうな程度の大きさの麻袋。しかし、それをどう、使うか。それは未だ、決まってはいない。()()()使()()()()()()()()()。ここを解決できても、後に尾を引く。そう分かりきっているが故に。


 思い詰める結。それに気づいている座曳。


(結も、この都市にいたが故に影響下、ですか……。平素の彼女なら、ここで何も思いつかない膠着に陥る筈がない。これらの対処が不味いと気付かなかった筈がないです)

 彼女から、今度は正面に目を向ける。


 ドクン、ドクン、ヌチュゥ。


 目の前の蠢くそれ。


(繭……。子供……。なら、そういう特性を持っていてもおかしくない。物理的でなく、精神的な守り。あり得る話ではありますが。……この辺で止めておいた方がいいですね。私も限界近いようですね)


 また、彼女を見る。


(……。私が不甲斐無いばっかりに)


 浮かんだ感情が行動を決めた。座曳は、痩せ我慢を重ねるように、顔を上げ、目力を強め、腹に力を込める。一瞬、ちらりと麻袋を見て、目線を戻す。そして、


(代わります。責は私が)


「……。どうするか、決めてしまわなくては、なりませんね。ですが、どうして、私を待ったのですか? 悪手であることは明らかでしょう? どうして潰さないのですか? 最初から選択肢なんてない問題ではないのですか?」


 舵を切る。偶然続いている膠着にしがみつくのはもう止め、躊躇の一切を捨てて、攻める。意志を、示して。





 彼らは言葉を口にしない。


 しかし、彼らの目は、立派に意志を示している。同意。同調。なら、大丈夫だと座曳は確信する。彼女の方を向き、合図する。


()()()()()()()()()()()()』と。


 その袋の中身を使うと覚悟して、持ってくる際、話はついていた。そして、後のことを考えると気が引けていた。しかし、そういうところまでとうとう覚悟が決まった。


 だから、動き出す。


「あれを、斃します。いいですか? もしもなんて考えないで。あれは数分後、動かない肉の塊に成り果てるのだから」


 結がそう彼らに向けて言う。

 

 座曳は臨戦態勢になり、袋の一つを肩に抱えるように持ち、ぎろり。対象を、睨む。


(ごめんなさい、クー。貴方を助けることは……、いや、貴方は助からない。もう終わっているのです、貴方は。二度目の終わりは、せめて私の手で)


 強く思い込む。自己暗示。そうすることで、甘さを絶つ。


 袋の縛りを、解く。


 ぱらり。


 落ちた麻の紐と、中から出てきた、生々し()()()と紫毒の臭い持つ煙。座曳の周囲にだけその臭いは広がる。


 周囲が鼻を抑え顔をしかめ、一体何を持ってきたのだという反応を座曳は無視する。気にするべきは、目の前の存在の反応。それだけ。


(どうやら反応しないみたいですね。暴れられたらそのときで別の手も考えてはいましたが。さて。やらせてもらうとしましょうか)


 そして座曳は、それを思いっきり投げつける。


 ブゥォゥウウウウウウウウウ、ヌチョッ。


 吸いつくようにめり込む。袋ごと。まず、その表面が解ける。溶け、ぱらりと、めくれるように落ちる。


 彼ら一同は、それを見て、青ざめる。


 出てきたのは、溶けかけ、崩れかけ、腐敗しつつも、再生するようにぼこぼこと泡を吹き出している、腐臭する、半ば黄色いゲル状の、辛うじて人の形をしたかのような、紫色の毒漬けの何か、だったから。


 それは――死体だ。

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