第二百二十一話 メッセージ・スピリット・インサイド ~終わり、弾け、彼方へと、~
ギュゥゥオォォォォォォンン、グゥオオン、グゥオオン、ギュゥゥオォォォォォォンン――
どうやら、去る、気らしい。
それは、自身の巨体の中に含まれた液体を流動させながら、横方向に体を縮ませ、少しばかり上方向へ膨らんで、そして、弛緩させ、進んでいきたい方向へ自身を動かしてゆく。
人がゆっくり歩くかのような速度で、それは、街から離れてゆく。
その都市の滅びは一時間も掛からない出来事だった、と思う。全滅ではない。しかし、それは滅びだ。浸食を免れた二割の域にいた者たちに、その先食いつなぐことなど、できる、のか? いや、できはしない。ほら、現に、騒ぎが起こっている。無秩序な暴動と奪い合いと責任と感情のぶつけ合いが、起こっている。もう既に、殺し合いに発展し始めた場所もある。勝敗が決して物品だけでなくその体や心を踏みにじるような根こそぎな略奪が起こっている場所もある。きっと、禄に残らない。そして、残った者たちだけでやっていける、とは到底思えない。
根こそぎ滅ぼすよりも遥かに意地が、たちが、悪い……。
先は見えている。しかし、繋がらない……。しかし、間違ってもいない……。だから、結局のところ、足りない。空白が、埋まらない。
あの皆漁師であるかのような街へ、繋がらない。争わず、皆頑張って、滅びの時がきたら、声を感情を露わにしつつも、足掻こうとして、結局押し潰されて、傷跡を残して、終わる。
あれらの人々は、残った人間の祖先では、ないのか……?
なら、あの未来のこの場所の人々は、外から、来た、のか?
このような、仮に、巨大アメーバ、としよう。こんなものが他の場所でも同時に現れているというのなら、これらが実際のところに人の滅んだ原因なのだとしたら、そして、そんな事実を捻じ曲げ、市民クラスどころか、名家クラスですら極一部にすら、しかも断片的にすら、そんな事実の存在を残せない、ということは……、私にはどうも、これが、人による、悪意、勝手、欲、そんな類の、誰かが意図した人の災に他ならない、と……思えて、ならない……。
自然災害としては、偶然の不運としては、あまりに方向性がはっきりしていて、制御されている感が、どうしても、拭えない……。
だから、たとえ、自然由来の物々を活かしたのだとしても、線を引いて絵を描いて、形にして、引き金を引いたのは、きっと、人の、類だ……。
そもそも、最初の人が一斉に動けなくされたあの、揺れのような何か。そこからして異質だった。作為的だった。全て、この流れに持ち込み成立させるが為だ……。
なら、狙いは……何だ……? こんなことに、何の……意味が、ある……?
なら、あの巨大アメーバの行方を追えば、分かるのではないのか? 現に、光景は未だ、終わってはいないのだ。視界は、母上は、なだらかで広大な丘のような巨大アメーバを、しっかり捉えている。見切れているが、捉えている。
ならっ、…―、っ!
未だ昼間の筈の、空が……、急速に、暗く……。しかし、雲のそれではない。まるで、日陰に辺り一体が入ったかの、ように……?
っ……。
ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ――
何か、聞こえ、る……。
ゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ――
うねるような音、だ。大きく、なってゆく。周囲の暗さは、増してゆく。日の光は殆ど届かず、しかし、夜と言うほどではなく、遠方は薄暗…―な、波の……壁、だ……。巨大アメーバのいる方向。その向こうから、それは、やってきた……。
ザァァァァァァァァ――
それは、さっきまでの、巨大アメーバが輪状に高く聳えていた時何ぞよりもずっとずっと、比較にならない位に、高い……。
ゥウウウウオオゥウゥウウウウウウウウウウウウ――、ザァアアアアアアアアアアアア、グゥオオオオオオオウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアア――
そして、
ブゥオゥゥゥゥウウウウウウウウウ、ヌチュゥゥゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウブゥゥウウウウウウウウウウウウウウ――
巨大アメーバが先に波にぶち当たり、飲まれ流されるのではなくて、押され、押し付けられ、街に、
ゴォォォォォォッォオオオオオオ、ゴロロロッロロロロロ、バラララララララララ、
押し付けられ、街はそれに触れた部分から砕けながら押し潰されながら罅割れてゆき、
ボコォォゥウウウウウウウウウウウウウ!
地面と繋がった土台部分を砕き割られ、中央上部、つまり、頂付近のみが切り離される。そして、
ウウウウウウウウウウウ――、ブチュゥゥゥウウウウウ、パァァアアアアアアアアアアアンンンンンンンンンン!
弾け、飛んだ……。
その衝撃に乗り、都市は吹き飛ばされてゆく。禄に目に見えない速度で遥か遠くに、飛んで、ゆく。
ブォウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥ――……
あっという間に見えなくなり、消えた。
『と、いう話だ』
そうして、映像が、終わった。




