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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第三章 ロード・メイカー
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第二百二十話 メッセージ・スピリット・インサイド ~溶かされ、消され、残されて、~

 ブシャァァアアアアアアアアアアアアア――


濁流は、昇る。都市の空間という空間を埋めながら。都市の土台と一体化した家々とそれらから削り出された石畳を残して、他全てを、まるで無かったかのように消してゆく。溶けた痕跡など、きっと、残らない。周囲の山々どころか、海より上の部分を悉く消してきたそれは、今はこうやって変則的に都市の形を残すようにしているが、きっと、終わりには、跡形もく消すのだろう。


 ……。しかし、ならば、この街と、先ほどの皆漁師なこの場所の未来と言われた街。どう……、繋がる? 都市は、残るのだろうか……? 人々は? 誰が、何が、あの未来へ、繋ぐ、のだ?


 足りない……。致命的に、足りない……。肝心な情報が、きっと幾つも、抜け落ちている……。


 しかし、そうやって血眼な気分になって、何か探そうと今再現されている光景を見ても、私の心は騒めくだけだ。苛立つだけだ。


 私は、人々がこんな事態に対して、何もできず、なすすべなくとも、みっともなくも抗うことをしないなんて、信じたく……ない。そんなものは、人では……ない……。


 仮にも、私は率いた者だ。短期間であろうが、確かに、率いたのだ。その結末は散々なものだったとはいえ、途中責務よりも私情を取ったとはいえ。


 だから、こんなものを見て、見せられて、受け入れられる筈がない。今この光景で編集があれば、話の全てが虚ろなものになる。だから、今見せられているこの光景は、少なくとも、母上は加工してはいない。


 だからこそ――、私は、受け入れられない。こんなもの、人の滅びの光景である、筈がない……。私は、人の意地汚さを、よく、よぉく、知っている。私自身がそうだ。


 ほら、都市中央部へ真っ直ぐ続く大きな通りであり上り坂の始点にいる子供連れ。どうして、その、立って歩くことを覚えたばかりのようだった息子を、身を挺して守らない? それ位はできる、だろう? 表情は動いているのだ。恐怖を感じるということは、見えているのだ。聞こえているのだ。濁流だけが動いていて、他全てが時を止めているなんてことはない。


 なら、どうして、守れずとも、守ろうとすら、しないのだ? せめて、その目を掌で覆ってやろうとは思わないのか! それ位なら、できるだろう……? 父親は数十センチ離れているとはいえ、母親は、その息子との距離は、数センチであり、距離もあっている。立ち上がることなどできないとしても、手くらいは、動かせるだろう……?


 そこから一本下に続く脇道の、親子連れも、そうだ……。いや、もう、大人二人、だけ……か。どうして、離れて少し下で転んでしまって先に飲み込まれて消えた子供という絶望を見て、表情は依然変わらず、なのだ? それまでの絶望とは段階が違うだろうが……。恐怖は、己に向けてのもののみ、なのか?


 何故……だ……。私たちの見知らぬ祖は、こんなにも、私たちとは、違って、いたのか……? 何なんだ、これは……? 何なのだ……。何なのだと……いうのだ……。


  




 サァァアアアアアアアアア――


 引いて、ゆく……。


 凡そ、この街の八割を浸食し、そこにいる人含む生物を溶き消したそれは、無機物である街の骨子をきれいに、手つかずで残して、消えてゆく。


 そして、海へと流れて、ゆく。


 母上の視界はそれらの行方を見る為に、さらに引きの視界となった。


 すると、また、実体を取り戻すかのように、それは、青くうっすら色付き、アメーバ、若しくは、スライム状な質感に戻ってゆくかのように、街の頂と同程度の高さの、径数十倍の大きさの、太い太い輪になって、そして、


 グゥオオン、グゥルオオン――


 体の海色の流動物をうねらせ、どうやら、輪になったその体を切ろうとしているらしい。輪であるのを止めようとしている。


 これは……生き物だ……。誰かの指示だとか、思惑ありきの動きでは、決して、ない……。いや、厳密に言えば、あるかも知れない。誰かがこれを用意して、悪意以て、こんな風な展開を引き起こした、とでも考えれば。こんな生物がいただなんて記述は一切現在残ってはいない。残せなかっただけ、とも官が得られるが、


 しかし、これは、ただ、好き勝手に、考えて、動いて、こうして、気まぐれに去ってゆく、だけなのだ……。


 なら、次はどうなる? これは、次に、何をする? これれは、それ自体が悪意を持っている類なのか? 唯の食事のつもりだったのか? ああやって、ただ溶かすだけが本能の何かなのか?


 グゥオゥゥン、グゥオゥゥン――、ゴォォ、グゥオオオン。


 そうしてそれは、巨大な山になるのではなく、巨大な丘、のような巨躯になった。視界からゆうに見切れている。海に沈むことなく、浮かんでいる。それがただ単純な浮力故や密度といった自然の法則に則ったものなのか、浮かぶ為の仕組みを持っているのか。


 ……? 終わった、のか……? もう、こいつは、満足したというのか? 満ち足りたというのか? やるべきことはやり切った、というのか? これで?


 分からない……。分かる筈がない……。これは化け物だ。


 化け物の思考を人が理解できる筈はないのだ。私は、閉ざされたあの場所から出て、モンスターフィッシュと言われる化け物の類と何度も何度も渡り合って、思い知った。それに――あの船長ですら、あれらの行動は読めても意図は読めてなんていなかったのだから……。


 中央部分と、街の一握りの人々だけを食べ残したのは、一体……。残された彼らを、更に、嬲るのか……? それとも、黒幕でも、姿を現すのか……?


 そんなものが、いるのか、いないかすら、私は、分からない、のか……。なら、当然、か……。結をあれだけ苦しめ続ける、待たせ続けることになったのは、当然の、ことだった、のか……。

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