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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第三章 ロード・メイカー
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第二百十七話 メッセージ・スピリット・インサイド ~先触れすらも理の外~

 グゥオオオゥゥゥゥッ!


 一際大きな、下から蹴り上げられるかのような揺れと共に、視界が床に突っ伏すと、地面がすっと透明になって――先ほどまで壁面に映っていた光景と同じものが遥か眼下に、あった。


『ここ、ではない。揺れているのは、()()だ。そのままでよい。遥か眼下の者とたちと同じく、這いつくばって、()()()()()。我々の中でも私しか経験しておらぬ、私以外に憶えている者を私は知らぬ。前文明の滅びの波。その、真実の、()()、だ』


 グララララララララ――


 未だ激しく、部屋全体は揺れている。蹴り上げられるような揺れは直線のそれだけだったが、立ち上がることなどできる筈もない程の横揺れが続いている。立ち上がろうとすることすらできないらしい。きっと、うつ伏せの姿勢のまま、身体揺れる中、頭揺れる中、揺れる視界の中、全てが揺れている。


『ほら、()()、ぞ』 


 何、だ……?


 ゥウウウウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――


 近づいて……、くる? 姿は、無い……。影も、無い。


 ンンンンンンンンンンンン――、


 何かが……、まさか……、


 ゴゥオオオオンンンンンンンンン!


 視界が、浮かび上がった。今のは間違い無く、本物の揺れ、だ。伏すように着地して、そのまま母上は立ち上がれないようだ。動いて、欲しかったところだった。私に視界の自由はない。母上の視界を通して見ているだけなのだから。


 分かること。それはほんの僅かだ。答え合わせすらできやしない。


 落ち、て、来た……? 巨大な何か、が? 不可視の何か、が。


 せいぜい、分かることはその程度だ。


 眼前の街に崩壊は見られない。しかし、街の誰もが体勢が変わってしまっていて、引き続いて、未だ、母上と同じように、立ち上がれず、地面にひれ伏しているままだ……。


 揺れの前に聞こえてきたもの。それは、落下音、だったのだろうと思う。あれだけの音量だ。巨大質量と、弩級の表面積を持っていたに違いない。


 落下音も、落下が齎した揺れも、想像もつかないような何かが、不可視であったのか、視界外遠くだったのか、確かに落ちてきた、音と、衝撃、なのだと思う。


 視界に映っている範囲には、ほんの僅かの崩壊も、砂煙も、まるで無かった。人だけがそうやって、へたり込んでいるかのよう。







 ゴォォオオオオオオオオオオオオ――


 揺れは依然として続いたままだった。そうして、揺れとしても埒外な時間、分単位ではなく時間単位で続いているような気すらしてきた


 視界に映る光景は相変わらず、変わらない。その街は、周囲の山々と殆ど同じか、少し低い。周囲を少し離れて山々が折り重なるように、まるで冠のように、この街の周囲を少し離れて覆っている。その外側は見えない。しかし、外側も、恐らく、折り重なった山、なんだと思う。その向こうは予想する意味すらないほど、不正確な予想しかできない。何があってもおかしくない。


 落ちた何か。その実態。もしくは痕跡。それを目にしないことには何も分からない。


 人の世界が一度殆ど滅んだのは、極地の氷河の全融解からの、全世界に渡る未曾有の大津波と、その後の海水面上昇による水没、だった筈だ。


 しかし、もう、何かが落ちてきてから、どれだけ経つ……? 数分ではない。数十分を優に超えている。数時間だ。津波が届くとすれば、もう届いてはいる筈だ。あの街に到達せずとも、街に接した山々から、何かしら、そう、例えば揺れであったりだとか、衝撃の伝達による破壊だとか、何かしら、小さくとも起こっている筈なのだ。


 津波というものが、場合によれば、大海を超えて、遥か遠く、見えなどしない対岸までそれは届くのだ。当たれば、片っ端から押し潰し、押し流す。


 ゴォォオオオオオオオオオオオオ――


『何も……起こらない……の?』


 母上は、律儀に揺れに耐えながら伏せたまま、ずっと、床から透けて見える眼下を律儀に見つめていたが、そう、ぼそり、と呟いた。


『なら、耳を、澄ましてみるといい。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 すると、


 グゥアァァンンンンン、ヌチョォォォォッォオオオオオオオオ――、


 ……。


 ベチョォォォォォオオオオオオ――、グゥゥゥンンンンンン――、


 …………。


 ブゥアアアアア、ブゥアアアア、グカギュン、グガギュンンン――


 ………………。


 何の、音、だ……? ぐっちょりと、ねっとりと、した……ような……?


 っ……!


 音が止み、時間が止まった。視界が少し薄暗くなり、視界に映る何一つ、動かない。

 

『知って、おく、必要があるの。()()|』


 母上の……声だ。無機質染みた声ではない。先ほどの黄金色に染まった稲穂の世界で、聞いたのと同質の声。入れたのだ、わざわざ。ここで、わざわざ。私に自身の名前を間接的に明かす時にすらそんな編集は干渉は無かったというのに……。


『《・》()()()()()()()()()。貴方の行く末に立ちはだかる可能性の一つを、貴方はここで、見て、おかなければ、ならないわ』


 勿体ぶった、唯の世界の裏話が一体、何だと、いうのだ……? 分からない……。分から、ない……。分から……ない……。


 ゴォォオオオオオオオオオオオオ――


 暗転が解け、時間は動き出す。私の嘆きに対する答えなど、用意されてなんて、いなかった……。

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