第二十六話 少年の資質
髪の毛から髭まで真っ白な組合長。そして、先ほどの受付。二人に案内され、建物の2Fにある部屋へ。
一際豪華な部屋。床には真っ赤な絨毯が端から端まで敷き詰められ、本革のふっかふっかそうなソファー。それに黒檀の執務机。
入り口からは、横を向けてあるソファー。二組のそれの間に挟まれた小さめの黒檀の机、そして、かなりの距離があるが、その奥に執務机が見える配置になっている。
「さあ、どうぞ。」
受付のその声で二人は席に着く。やはり、ふっかふかである。体が包み込まれるよう。実はリールもこの部屋に入ったことはない。こうやってお呼ばれすることは極めて稀なことなのだ。
受付と支部長も席に着き、話が始まった。
「ワシがこの支部の長である、呂直尚じゃ。」
「私は受付の、墨杖子です。よろしくお願いします。」
組合の二人の自己紹介が終わった後、少年たちも軽く自己紹介を済ませた。
「で、いきなりじゃが本題に入るぞ。それ。それを見せてくれ、今すぐに!」
急に立ち上がり、鼻息を荒くして少年が持つ鉢に近づく支部長。この男は、少年や船長といっしょの、自重しない釣り人だった。
そのことに気づいた少年も、熱が入ってしまい、
「どうぞどうぞ。じっくり見てください、ははっ!」
気持ち悪い笑いを浮かべながらそれらを手渡した。リールと受付は二人とも顔を引き攣りながらも笑う。当然苦笑いである。
「一匹は、ウイングエラガントユニコーンフィッシュか! なかなかの大物じゃなあ。角の成長具合がすんごい! で、これ一人で釣り上げたってホントなのか?」
組合長は、すごくうれしそうだ。そして、後半の一言。少年を疑っているようには見えない。これは、釣ったときの話を聞かせろ、という顔だ。
「このモンスターフィッシュはですね、祖父と祖母の仇だったんですよ。それを、雨が降る中、必死で釣り上げましたよ!!!」
喜びの中にはっきりと混ざる悲しみ。少年はまだ完全に立ち直ったわけではない。たとえ仇を討ったとしても、亡くしたものは帰ってこないのだから。
「すまんのう、少し悪いことを聞いてしもうたわい……。その感じだと本当に一人で釣り上げたんじゃな。それも始めて釣ったのがウイングエラガントユニコーンフィッシュとはなあ。実は君のところの船長からもう話は聞いてあった。だがのう、君から直接聞いてみたくなったのだ。」
自身の欲望を優先したことを恥じる組合長。頭を下げた彼を少年はすぐに許した。どころか、少年も頭を下げた。
「いえいえ、暗い感じ出してしまって申し訳ありません……。」
「すまんかったな。本当に。では、もう一匹を見せてもらうとしよう。」
「コロニーピラニアの雌だったかのう? これを捕まえてきたことは凄い。本当にな。だが、だがな、どうしてこれが雌だと断定できるのじゃ? 一体どうやって雌を捕獲したんじゃ! 海人もそれについては教えてくれなんだ。お前に聞けと、ただそれだけ言ってな!」
海人というのは、船長の名前である。
「それはですね、――」
少年は腹の中の島であったことを始めから最後まで語った。
「驚きたいところや突っ込みどころは山ほどあるが……。ちょうちんを使ったのか。それも使い捨ての爆弾として。しかも、それで絨毯爆撃か! 確かにそれなら確実に雄を全滅させられ、海中の割と深いところにある巣も破壊できるな。で、運よく雌は死んでなかったから持ち帰ったわけかあ!」
「だがのう、コロニーピラニアの雌以上にすんごい大変なワードが紛れておったぞ! Dr.(ドクター・) Lime Soda|。十年くらい前に行方をくらました天才科学者じゃないかあ! そっちの道の者の間では有名な話じゃ。釣り人には知られておらんかったものなあ、あいつ。そんなところにいたなら、そりゃ見つからないわけじゃあ!」
「奴が今もとんでもない発明をたくさんしていて、居場所まで分かるかあ。こいつの今の発明品があれば、少なくとも数十種の危険なモンスターフィッシュの対処法編み出せるぞ!」
「こいつの作る発明品にはモンスターフィッシュの部品が組み込んであるからのう、わしらから見ても実はとてもおもしろいものだ。直接その目で見た君たちにはそんなこと言う必要はなかったかあ。」
その後も話は大いに盛り上がった。少年がした経験はとても濃度の高いものであったのだから。少年は、ドクターからもらった品のうち、モンスターチェッカーを支部長に渡し、リールと共に部屋を後にしようとする。
「ちょっと待て。肝心なものを渡してなかった。これじゃ、モンスターフィッシャー証明世界級。貴重なものじゃから、失くさないようにな。また、ここに来て面白い話聞かせてくれな!」
豪快に手を振る支部長と、上品に礼をする受付。少年も大きく手を振り、部屋を後にした。部屋を出て、まっすぐ協会から出た。
すると、それまですました表情だったリールが感情を爆発させる。
「ポンちゃん、すっごおおおおおおおい!」
「それはね、自由に海外に渡航して好きなとこで釣りしていいよっていう資格なのよっ!私たちの船ですら、船長しか持ってないの、それ!」
非常に貴重なものらしい。釣人旅団ですら、船長しか持っていなかった資格である。
「今のご時勢、危険だからって理由で、資格がないと自由に海外に出たりできないのよ。団体で、そこの誰か一人が資格持ってたら、その人を代表にすることで他のメンバーも海外出れるんだけどね。」
この時代、海外に出るのはまだしも、海外で自由に釣りをすることは非常に制限されていた。一部のモンスターフィッシュが資源として非常に重要だからである。だから、この資格は、本当に有用なモンスターフィッシャーにしか与えられない。
「とにかく、とにかくね、ポンちゃんはね、一流の釣り人だって認定されたってことよ。やったわね、うふふふふふふ、やったあああああああ!」
まるで自分のことのようにはしゃぐリール。少年を自身の胸の高さで抱きしめる。当然足が浮く少年。リールそのままくるくる回り出す。
「きゃー、やったー、いえーい!」
「ははははは」
二人はお互いの顔を見て笑い合いながら、協会の前で満足するまでくるくるしているのだった。




