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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第三章 ロード・メイカー

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第二百十話 メッセージ・スピリット・インサイド ~決意の日~

 させたいのは、謎解き、なのだろうか? ……。あるかも、知れない。口にできない、直接伝えられない、そのような縛りが存在している事柄であれば、仄めかし、相手に気付いて貰う他に、ないのだから。そのようなものを、よく、知って、いる……。


『そんなもの、貴方たちの理屈じゃないの。私の理屈とは違う。いや、違うわね。貴方たちの理屈、と言うには貴方は異質だもの。爪弾き者、だものね』


 母上はどのような表情で、どのような声で、それを口にしたのだろう? 思いも、向こうからの強制的な共感が仕込まれている部分以外は、どうやらやはり、訳の分からないものは、分からないまま、であるらしい。


 未だ、情報を整理するにも早いような気がする。それより、今は少しでも意図を探らなくては。







「君が……そうした、のだろう……。君の、仕業では……ないか……」


 俯き気味に震える唇で声を発した父上は、


 ガシッ。


 一歩、


「外からの使者よ。君は、僕たちを滅ぼしに来たのか? 君は断じて唯の漂流者でなぞあるまい。そんなこと、あってたまるものか。偶奇を拾ったが故に、終焉、など、と、受け入れ……られる……とも……」


 ガシッ。


 更に一歩。本来このような言葉を口にするなら、そのまま膝をついて崩れ落ちそうだが。何故ならこれは屈した者の言葉だ。しかし、どうやら、違うらしい。


 ()()()()()()()()()


 知っている。この表情を、この圧を、この、どうしようもなさを、知っている。あの、隔絶した差を感じさせてくる、圧を振らせてくる、直視することすら重い、王の、圧だ。


「だから、だ。だから、……何が、目的、だ……。我こそが防波堤だ。最後の城壁だ。お前を、赦さぬ。今、決めた。覚悟を決めた。ずっと前から決まっていたものを、今、認識したのだ。よって、()()()()()()()、」


 笑った? 共感がそう感じさせてくる。そう。母上が。今のほんの一言。次代の王。これに反応した。これを言わせたかったのだ。これを、見せたかったのだ。この出来事に至った背景も何処を見据えているか分からない遣り取りも、結局のところ、答えが全て。


 王が、王となった日。実質的に、父上が人から王に、なった日。儀式での勝ちは、事実を認証する為のもの。勝つべき者が勝つ、つまり、勝つ者とは、王となる準備を終えている者なのだから。


 スッ、トッ!


 視界が、動く。後ろにではない。前に。恐らくその身を、父上へ向けて――


「お前に問い質…―」


 衝突音は無かった。声の途切れと共に、暗転した。だから、恐らく。切り取ったような一部始終で何もかもが分かる程、自らが優れているだなんてことはないと、よく、知っているから。


 見ている光景との距離を取る。見誤れば思考は塗り潰される。それでも問題ないような作りにはなっているだろう。しかしそれだと、自分としての矜持が折れる。


 何れにせよ、この場面に合わせての強い共感は無かった。……。


 どうやら、母上が見せたかったものの一つは、王となる覚悟、だったらしい。らしい、というのは、この答え合わせは用意されていなかったから。考え、それが正しいかどうか、決は自身で、ということらしい。


 ……。


 何だ。そんなこと、これまでもずっとずっとずっと、やってきた、ことじゃないか。後で後悔しなければ、致命的に間違えなければ、それで、いい。


 たったそれだけの、ことだ。






 白い部屋。最初と同じものだろう。同一の光景が視界に映っている。ここでこれが挟まれた意味は果たして……?


『昔の盟約が為、お前は生み出された。我らの生まれ落ちる前の盟約。そんな、もはや機能しているかすら分からぬものに、身内を差し出す程、我らは耄碌してはおらぬ』


 声が、降りてくる。無機質な声が。しかし、今度は感情が込められていると感じる。棘がある。刺さる。深さは分からない。このような立ち位置は知らないから。事例として聞いたこともないから。しかし、この共感が伝えてくれる。心の底が冷たく痛いのが、傷の深さなのだ、と。


『めいやく……。やく……め……?』


 無機質な声でも、たどたどしさというものは存在するらしい。幼さを感じる。しかし、恐らく、知性相応ではない。知性の完成度は、言葉選びの印象から受ける幼さよりも一回り以上は上、だろう。行間を解しているようだから。


『これでは、成功か失敗か、判断がつかぬ。我々でこれだ。向こう方がどう判断するか……』


 この白い部屋の外から声を響かせているのは一人ではないかも知れない。


『人の形はしている。意思疎通も図ることができる。容貌も我ら一族の係累からそう離れてはおらぬように見える。が……、』


 ポタポタ、ポタッ、ポタポタ――


 滴る音。


 部屋の外からではない。中からだ。共感は切られている。しかし、通じるとも。顕著に。如実に。生まれてそう年月を経ていない母は、恐らく未だ子供としか言いようがない年齢の母は、外から聞こえてくる言葉の意味を、しっかりと、理解しているのだ、と……。


『それが何だというのだ。問題などあるまい。成功でも失敗でも。約定を果たしたという様式だけがあればよい。たったそれだけで十分だ。真偽を、完成度を、問う文言。約定はそれらを含んではおらぬ』


 憶測だけが先走る。しかし、そうでもしなければ状況についてゆけない。視界の主の悲しみに流される

訳にはいかないのだ。すべきことは、直視。俯瞰。その両方を同時に。


『そと……、でられる……の……?』


 とても子供らしい反応。こうやって聞いている分には抑揚は無いが。それでも、想像できる。補完できる。当然だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()

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