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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第三章 ロード・メイカー

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第二百話 深海の幻灯 第十二灯

 ブククククク――


 水の中で再び現実を見たとき、状況は大きく動いていた。


(っ……! 何が、したいと、いうんだ……! ()()……? ()()()……?)


 ブニュゥゥゥゥゥゥ――


 自身の左手が今この時も鷲掴みにし続けているそれに目を疑いながら。


 自身の体から数センチ程度という少しばかりの距離を置いて、周囲ごと包み込むように覆っていた生臭さと生暖かさ、少しばかり沈殿混じりに濁った半透明な何か。そんなものにいつの間にか囚われていた。そして、その正体は、あっけない程にすぐに明かされた。


 そう。()()()()()()()()()()()()()()()


『最後の……過去……鍵……、その光の……先』


 聞こえたその声は、空いていた右手をその声に合わせるように不意に感じた少しばかり熱を持った暖かな光に、眩くて、目を瞑ったら――






「またしても嫌な役を押し付けることになる、が、ふ、はは。だろうな、そこまで織り込み済み、という訳か」


 またあの場。


 彼女と王のいつもの密会の場。天井から光差し、向かい合う二人の周囲だけを照らす、静かな、場所。だが、今度は、数十メートル離れての遠望でしかない。二人の表情ははっきりとは見えない。口の動きも分からない。しかし、声は聞こえる。聞き取れる。二人が声を潜めでもしない限りは。


「いいえ、()()()の手引きです」


 船長、のことだろう。


「私の手によるとは到底言い難いものです。私は所詮唯の少女でしかないのですから。機が向こうからやってこなければ何もできなかった、無力な生贄の少女に過ぎないのですから」


 そう言って、俯く。恐らく、本心なのだろう。


「……。君の悲観は、無駄では無かった。それだけのこと。そして、君を悲観させることにしたこちら側の思惑の悉くが無意味になっただけだ。君は無駄に損しただけだ。」


「無駄、ではありませんよ、決して。犠牲者たる私がそうだとは思っていない。こうなって良かったと心底思っているのですから。尤も、未だそんな未来は確定した訳ではありません、が」


「既に心の準備は終えておると明かしたであろう? それより前にとうに手回しも終えておる。後の処理も、滞りなく行われるであろう。彼の者は儀式の合間にかの船と共にこの地を去る。そう。最後の仕込みが形になれば、幾重もの閉鎖の最後の縛りも綻び、その間隙から、彼の者は目的の物と共にこの地を去る。そういう手筈だ。そして、船は、戻ってくる。縛るものが長旅で摩耗し切った船が。その時までお主とあやつが生きておられたら、船と共に、この地を共に、去るがよい」


「言質、頂戴しましたよ。もう、貴方様も翻すことはできない。後は、儀式さえ始まってしまえば――」


「それが為には、あれが儂に勝たねばならぬ。贔屓無しに、結果で上回らなければならぬ。できるのか、あれに? 今のあれに、もうそれだけの力が備わっておるというのか? 儀式は条件下の平等を必須とする。互いに互いの手段が正当であらねば、違反者は呑まれ消えるのみ。儂はあれを手折る。これまでの数多の羊と同じく、あれもまだ、羊でしかあるまいに」


 そう言って、王は彼女に背を向け、その場を後にした。


 そうして、場面は天井から差す光量の低下と共に暗転し、自身の目に闇色しか映らなくなってそれでも展開された世界は未だ終わらず、


「彼の者を貴方様は見誤ったのです。……。尤も、それは私も恐らく、例外では……ないのでしょう。ですが、それでも、彼の者は、約束を違うことだけは、決して、しない、でしょう。あれはそういう類の、呪い。同じく呪われた私だからこそ、……いや、それすらも……、なら……、座……曳……、どうしたら、よかっ()……の……。私は、どうしたら、よかっ()……と……――」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう。今となってはどうでもいいような些細なことでしかない。


 それから――


「……――」


 沈黙と闇に包まれたこの場面が終わることなく続いて、


「……――」


 限りなく続くと思われた。


 色々と、考えた。その中でも最もよく考えたのは、そもそもの前提に見落としがないか。本当に、場面を見るだけなのか? 何か自身が行動を起こさなければならないのではないか? その為の何やらの手段が用意されているのではないか? そう考えて色々試そうとするも、何も、試す手も口も、この世界では自身には、ありはしないのだ、と、無為に時間が過ぎただけだった。


 そして、それの終わりは自らの意思ではなく、突如、不意に終わることとなった場面の沈黙によるものだった。


「あぁ……答えなど、」


 そう。彼女の声だ。


 とても弱々しい声だった。沈黙が続き、耳がすっかりそれに慣れてしまったからこそ、視界が闇色一色で意味を為さなかったからこそ、辛うじて聞き取れたのだろうという程の、溜め息と共に囁くような声だった。


「きっと……」


 スゥゥシャァァァ――


 金属が擦れる音がして、


 シャァァスゥゥゥゥゥゥ、コンッ。


 返しのその音で、それが、刃物を抜いて、思い留まって戻した音だと、漸く、気付いた……。それから暫くの間、すすり泣くような声が、聞こえたような気が、して……、止むと共に、


(……)


 気付けば、現実。


『答え……、示……せ……』


(言われ、なくとも……)

次話投稿は、明日(2018/08/19)の夜になるかと思います。

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