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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第三章 本拠地阿蘇山島
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第二十三話 しっぽを振る少年

「お前にはなあ、色々と常識が無さ過ぎる。あの島から出たことがないとしてもだ。あまりに突拍子のないことをやりすぎだ。あれじゃあ、周りはお前の行動見て慌てるだけだから、な。」


 説教。船長は呆れた顔で、少年を諭すようにひたすら、説法を垂れ流す。数時間に渡り、同じことを言い方を変えて繰り返している。なんとしても理解させなくては、と、提督椅子に座る船長は意気込む。少年を見てひたすら呆れながらも。


「そんなこと言われても困るわ。俺は、俺の思うとおりにするだけやで。」


 またまた同じ答え。強気で、少々むきになって少年はそう言いきるだけ。片足を前に出し、前のめりになり、握り拳を肩のあたりに掲げる少年。間違いなく、自身に酔っている。


 平行線。


『だめだこいつ……。俺じゃあ手に負えないわ。こいつ船に誘ったの俺だけどさ……。』


 船長は手をこまねくばかり。これではどうにもならないのだから。すると、これまで口を開かず、ずっと横で聞いていたリールが口を挟む。


「ねえ、ポンちゃん、船長はね、常識を学べって言ってるのよ。で、それを踏まえて行動しようねって。そうしないと、みんなあなたを見てて危なっかしくて見てられないって、ね。」


 諭すように、優しく、撫でるように。リールは船長と同じことを言っているが……。


「うん、わかったで、リールお姉ちゃん。」


 今度は素直に受け入れる少年。なぜか凄くうれしそうにしている。


「よしよし。」


 もたれかかっていた壁から、少年の方へ歩いていき、少し屈みこんで少年の頭を撫でるリール。少年は、わんこのように頭を撫でられる。まるでしっぽを振っているよう。とんでもない懐きようだった。

 船長は唖然として呆れるばかり。自分がいくら言ってもだめだったのに、リールが一言言うだけでおとなしく、受け入れたのだから。


「おい、リール。この島いる間、そいつの面倒見てやれ。で、ついでに常識ってやつをちゃんと教え込んでおいてくれ。俺には無理だからな。」


 船長は、溜め息を吐き、頭をかくんと下げ、やれやれと両手を広げ、部屋から出て行くのだった。






 根子岳分下町、港。少年とリールは船に降りたところである。目前に広がる町。レンガが積みあがってできた地面。それが港から、町の中まで広がっている。灰色の地面。灰色の建物。レンガでできた建物。


 この町は、火山灰を利用してできたものらしい。阿蘇山は以前はたびたび噴火し、その度に大量の火山灰を撒き散らしていた。氷河融解後も、その灰は火山活動停止後であっても余るほどあったので、それを利用して町が作られたらしい。少年はリールからそう聞かされた。


 少年とリール。二人は寄り添って歩く。町のことを説明しながら、町の中を進んでいく。少年はご機嫌。リールもすごく楽しそうな顔をしている。

 根子岳分下町は、外環山の内部にある複数の山のうち、東部に存在する根子岳の南部に存在する町である。そこの南側にある港に船が上陸して、少年たちは、町の東へと向かっている。

 夜の町。しかし、通りには上から降り注ぐ光、さながら、かの有名な絵画、星月夜のようである。ぼかしたような光の下、人々は行き交う。足元が見える程度には明るいため、夜でも人々は町に繰り出すことができるのだ。


 当然、電気を通した街灯や、ガス灯がある訳ではない。それらはもう失われている。

 リールの説明によると、上空を、蛍梟(ぎょうきょう)という、昼間は海の底、夜は空を飛ぶ、モンスターフィッシュを飼いならして飛ばすことによる明かりらしい。

 人々の服装は、夜であるせいか、少々がっちりとした洋装である。男性はシャツにジャケット。女性は、ドレスや上品な素材のスカートを。大人だけが出歩く夜の町。


 町の様子をまじまじと観察する少年に、

「どう、あなたのいた村とは全然違うでしょ。これが都会っていうものなのよ。」

顔を覗きこむように話しかけるリール。


「うん、違いすぎるわ、これ。俺住んでたところほんとに田舎やったんやなあ……。お父ちゃんやお母ちゃんが言ってた通りやったわ。俺、こういった風景とか、本でしか見たことなかったからさ、そんなん嘘やろって思っててんよ。だってさ、いくらなんでも違い過ぎるやんかあ。」


 はしゃぐ少年。なんともうれしそうな姿であった。


「明日からも、こういう、ポンくんの見たことないものたくさん見せてあげるからね。」


 笑顔で少年の頭を撫でるリール。少年の触り心地が気に入ったらしい。


 しばらく歩いて目的地に到着した。町の南端。そこは、少年たちの団の本拠地(ホーム)だった。町の、四角い、灰色の建物とは違い、ドーム型の、赤色のレンガでできた建物。


「え、なにこれ……。」


 少年の予想とは大きく異なる奇妙な建物。巨大なドーム状のレンガ造りの建物。


『全然、家っぽくないやんけ?』


 困惑。少年の反応を見て、笑い声を上げるリール。入り口は、正面の門? だろうか。入り口には、扉も何もない。巨大な扉型の穴が開いているのみ。二人は中へ入っていった。

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