第二十三話 しっぽを振る少年
「お前にはなあ、色々と常識が無さ過ぎる。あの島から出たことがないとしてもだ。あまりに突拍子のないことをやりすぎだ。あれじゃあ、周りはお前の行動見て慌てるだけだから、な。」
説教。船長は呆れた顔で、少年を諭すようにひたすら、説法を垂れ流す。数時間に渡り、同じことを言い方を変えて繰り返している。なんとしても理解させなくては、と、提督椅子に座る船長は意気込む。少年を見てひたすら呆れながらも。
「そんなこと言われても困るわ。俺は、俺の思うとおりにするだけやで。」
またまた同じ答え。強気で、少々むきになって少年はそう言いきるだけ。片足を前に出し、前のめりになり、握り拳を肩のあたりに掲げる少年。間違いなく、自身に酔っている。
平行線。
『だめだこいつ……。俺じゃあ手に負えないわ。こいつ船に誘ったの俺だけどさ……。』
船長は手をこまねくばかり。これではどうにもならないのだから。すると、これまで口を開かず、ずっと横で聞いていたリールが口を挟む。
「ねえ、ポンちゃん、船長はね、常識を学べって言ってるのよ。で、それを踏まえて行動しようねって。そうしないと、みんなあなたを見てて危なっかしくて見てられないって、ね。」
諭すように、優しく、撫でるように。リールは船長と同じことを言っているが……。
「うん、わかったで、リールお姉ちゃん。」
今度は素直に受け入れる少年。なぜか凄くうれしそうにしている。
「よしよし。」
もたれかかっていた壁から、少年の方へ歩いていき、少し屈みこんで少年の頭を撫でるリール。少年は、わんこのように頭を撫でられる。まるでしっぽを振っているよう。とんでもない懐きようだった。
船長は唖然として呆れるばかり。自分がいくら言ってもだめだったのに、リールが一言言うだけでおとなしく、受け入れたのだから。
「おい、リール。この島いる間、そいつの面倒見てやれ。で、ついでに常識ってやつをちゃんと教え込んでおいてくれ。俺には無理だからな。」
船長は、溜め息を吐き、頭をかくんと下げ、やれやれと両手を広げ、部屋から出て行くのだった。
根子岳分下町、港。少年とリールは船に降りたところである。目前に広がる町。レンガが積みあがってできた地面。それが港から、町の中まで広がっている。灰色の地面。灰色の建物。レンガでできた建物。
この町は、火山灰を利用してできたものらしい。阿蘇山は以前はたびたび噴火し、その度に大量の火山灰を撒き散らしていた。氷河融解後も、その灰は火山活動停止後であっても余るほどあったので、それを利用して町が作られたらしい。少年はリールからそう聞かされた。
少年とリール。二人は寄り添って歩く。町のことを説明しながら、町の中を進んでいく。少年はご機嫌。リールもすごく楽しそうな顔をしている。
根子岳分下町は、外環山の内部にある複数の山のうち、東部に存在する根子岳の南部に存在する町である。そこの南側にある港に船が上陸して、少年たちは、町の東へと向かっている。
夜の町。しかし、通りには上から降り注ぐ光、さながら、かの有名な絵画、星月夜のようである。ぼかしたような光の下、人々は行き交う。足元が見える程度には明るいため、夜でも人々は町に繰り出すことができるのだ。
当然、電気を通した街灯や、ガス灯がある訳ではない。それらはもう失われている。
リールの説明によると、上空を、蛍梟という、昼間は海の底、夜は空を飛ぶ、モンスターフィッシュを飼いならして飛ばすことによる明かりらしい。
人々の服装は、夜であるせいか、少々がっちりとした洋装である。男性はシャツにジャケット。女性は、ドレスや上品な素材のスカートを。大人だけが出歩く夜の町。
町の様子をまじまじと観察する少年に、
「どう、あなたのいた村とは全然違うでしょ。これが都会っていうものなのよ。」
顔を覗きこむように話しかけるリール。
「うん、違いすぎるわ、これ。俺住んでたところほんとに田舎やったんやなあ……。お父ちゃんやお母ちゃんが言ってた通りやったわ。俺、こういった風景とか、本でしか見たことなかったからさ、そんなん嘘やろって思っててんよ。だってさ、いくらなんでも違い過ぎるやんかあ。」
はしゃぐ少年。なんともうれしそうな姿であった。
「明日からも、こういう、ポンくんの見たことないものたくさん見せてあげるからね。」
笑顔で少年の頭を撫でるリール。少年の触り心地が気に入ったらしい。
しばらく歩いて目的地に到着した。町の南端。そこは、少年たちの団の本拠地だった。町の、四角い、灰色の建物とは違い、ドーム型の、赤色のレンガでできた建物。
「え、なにこれ……。」
少年の予想とは大きく異なる奇妙な建物。巨大なドーム状のレンガ造りの建物。
『全然、家っぽくないやんけ?』
困惑。少年の反応を見て、笑い声を上げるリール。入り口は、正面の門? だろうか。入り口には、扉も何もない。巨大な扉型の穴が開いているのみ。二人は中へ入っていった。




