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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第三章 本拠地阿蘇山島
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第二十二話 環山外門

 熊本県阿蘇山島。複数の山々が集まってできた、巨大な島である。かつては日本有数の活火山であったが、現在では休火山である。

 外縁部の円環のような山群。その内部には巨大なカルデラが形成されている。カルデラ内部には際立つ五つの山がある。根子(ねこ)岳、(たか)岳、(なか)岳、鳥帽子(えぼし)岳、枡島(きしま)岳。海水面上昇により、カルデラ内部に海水が入り込んでいる。


 外縁部の山群のことを環山と呼ぶ。その東西南北には周囲の風景に溶け込ませた関所があり、そこが船の出入り口となっている。関所といっても、門以外には特に何もないのだが。

 関所の門は、船の接近を感知して、開くようになっており、門が水を押しのけることによってできる水位の差によって、船の出し入れを行う仕組みになっている。


 少年たちの船は、東の関所へと向かっているところであった。


『うわあ、こりゃすごいわ……。島の規模も、そこにある技術レベルも。俺のいた島とは大違いやなあ……。これが、これが、都会ってやつかあ。』


 甲板前部に立つ少年は、目の前に広がる阿蘇山島にただただ驚くばかり。期待に胸を膨らませ、その目は輝くのだった。


「ヨウコソ、阿蘇山島へ。ユックリシテイッテクダサイ。」


 流れる音声。その音はウェイブスピーカーによるものではない。門の辺りから発せられている。人間味がなく、無機質な声。しかし、遠くへ響いていく声。


 船は進み、門へと到達しようというところで、正面にそびえ立つ岩山が、一枚の巨大な二枚扉のように、内側へと開いていく。扉によって押しのけられる水。環山内外で水圧の差ができ、空白部、環山内部へと水が流れ込む。それによって船は内部へと誘導されていく。

 水流に乗った船は速度を上げる。風を切るガレオン船。少年は、水面を見て速度を確認しようとした。


 すると、目に入ったのは船の横を併走する黒い影。


『影? 細くて長い。』


 そんな影を少年は見た。首を傾げる少年。とてつもなく、長い、細長いその影は、何の魚だろうかと。






「総員、船長室へ集合!」


 流れる音声。しかし、今度はあの無機質な音声ではない。ウェイブスピーカーによる船長の大声。


『何かの打ち合わせかなあ? もっと見ときたかったのに。』


 少年は、残念そうに思いながらも甲板を後にする。まだ夕日は沈んでおらず、周囲を赤く照らしているのだった。






 船長室。船長が前の提督机に。そこから数m離れて、それ以外のメンバーは対面するようにただ立っている。


「お前ら、久々の本拠地(ホーム)だ。ここ最近はいろいろハードだったしよ、暫く本拠地(ホーム)でゆっくりすんぞおおおお!」


 静かに真面目な面持ちで船長の話を聞いていた船員たちは、その一言を聞いた途端騒ぎ出した。久々の休息。本拠地での安らかな日々。冒険心が振り切れた船員たちも、たまには休みたくなるものである。ほんの一部の例外以外は。


「おっさん、どんだけその本拠地とやらに居座る予定なんや? あんまり長かったらさすがに飽きてまうで。」


 少年は釣りと冒険の二つに夢中である。安らぎとかはどうでもよかったのであった。だから、こういう言葉があっさりと口から出てしまうのだ。


「はぁ、お前さあ、行き急ぎ過ぎよお。たまにはゆっくりしろって言ってんだよ。あの真っ白な島でもお前全く休んでないだろうが。」


 身振り手振りを交えて話しながら呆れ果てる船長。少年がどうやら、釣りバカなだけでなく、冒険バカでもあることに気づいたようである。


「それになあ、ここは大都市だ。お前がこれまでいた村や、ちょっと前までいた町とは違う。ほぼ何だってあるし、来たことないやつがわずか数ヶ月で飽きることなんてまずないんだよ。」


 とりあえず、船長は諦めずに少年を諭すことにした。額に片手を当てながらそう語るのだった。


「え、そんな長いことここおるつもりなんかいなあ、おっさん。」


 全く伝わらなかった船長の意図。暢気な少年。


「船の整備とかもあるんだよ。この船にはなあ、荒旅にも耐えられるような様々なギミックを詰んであるが、それらが今、玉切れ状態で使えねえんだよ。それの整備が終わるまではずっとここにいることになんだよ!」


「お前はとりあえず、黙って、都会ってやつを楽しんどけ。あとな、釣りポイントもくっそあるからよ、後で教えてやるよ。」


 乱暴にそう言い、船長は少年との話を終わらせた。本題へと戻る。


「期間はおよそ二ヶ月だ。長くなるが、それが終わるとまた帰ってこれないかもしれない長旅の始まりだ。各自しっかりと療養するようにな。もちろん、各自に割り振られた仕事はこなせよ。それと、毎週終わりに本拠地(ホーム)に全員集まってきちんと仕事の進捗を報告をするからな。それ以外はいつも通り、好きにして構わん。以上、解散。」


 この集まりのときに、船員たちは、各自仕事を割り振られていた。それは船の整備であったり、次の旅のための食料の手配であったり、様々であった。


 ほぼ全員が持ち場へ戻る中、船長室からの窓を少年は覗く。町、いや、都市が見えてきた。二段になった都市。山の上方と下方にある、二つの町。山頂付近の、緑に囲まれたその中にあるたくさんの建物。そして、下の方には、港とたくさんの建物。どちらも建物は四角い形に見えるが、灰色である。


 ただ眺めていた少年。


 すると、

「船が港に到着しました。みなさん、ではまたしばらく。」

と、スピーカー越しの座曳の声。


 それは元気に溢れていた。






 船内が騒がしくなる。船員たちが荷物を持って移動し、次々と島へと上陸していく。

 熊本県阿蘇山島根子岳分下町(わけしたまち)。それがこの島の、山の下部に広がっている町の名前だった。


「おい、ボウズ、お前に説明しとくことあるからよ、まだ降りずにちょい待っとけよ! で、リール。なんでお前ここに残ってんだよ。」


 顔をしかめて露骨に嫌そうな船長。部屋に残っていたのは、船長と少年とリールの三人。船長からすると、少年と二人で話をするつもりだったが、別に聞かれて困る話でもない。しかし、船長はできれば少年と二人で話したかったのだ。


「私もポンちゃんに用があるのよ。」


 腰に手を当てて肘を曲げ、首を傾けながら、笑顔でそう言うリール。船長の希望は叶わないのだった。

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