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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
228/493

---056/XXX--- 白光集めし結晶の中で

「何なのかしらね、ここ」


 登り終えて少年の横に並んで立ったリールがそう尋ねながら周囲を眺める。


「さぁ?」


 少年はそう首を傾げながら答えた。


 リールと少年が立ったそこ。それは、白い光に包まれていて明るく暖かであるのに、眩しくはない不思議な空間だった。


 白い光は壁の外から壁越しに差し込んできているというより、白い光に壁の外が覆われているかのようだった。その壁は透明であり、光の反射によってその存在が確認できる、ガラスのような何かでできているらしいと分かるのは、そのカッティングがダイヤのカットのように角ばっているからだろう。


 広さは、凡そ床面が、半径3メートル程度の円ほどもない範囲。中央辺りは床が抜けて先ほど少年たちがいた場所へ続いている。天井部に向けて尖ってゆく形になっており、リールの背辺りまでの高さまでは外側から緩やかに径を狭めていて、穴に近づくにつれて角度を上げて高く、尖るように径は狭くなっていっる。


 そして、穴の真上辺りでは、その径は穴の径と同じになり、上方向へと、床面外縁辺りと同じ角度で上へのびてゆき、どれ位か分からない、しかし、決して手を伸ばしても届かない遥か上で、それは、ドーム型に閉じていた。


 そんな風に、狭いが動きにくくはない程度に広さはある場所だった。そして、少年が手を伸ばせば、こんな風に、中央部以外の壁面なら上方向でも楽に届く。


 グンッ。


 少年が伸ばした手の、掌の拳側。それが、その壁面にそんな風に自然と軽く当たるように振れ、小突いた音。


 壁面が揺れ、振動するような音では決してない。それは重く固い音だ。どちらかというと当たった側の少年の骨が振動した音だ。だからこそ、その壁面はガラスではない。


 まるで、角ばって上へと長く尖ったような巨大な無色透明な鉱物の内側にいるかのよう。


「これだけ明るいのに全然眩しく無いだなんて。けど、綺麗ね、ここ。私たちの声も綺麗に響くわ。反響するけどズレて重なったりはしない感じよね。何でなのかしら?」


 リールはそんな風に少年に尋ねる。上へ登るときの勢いは既に無くなっていて、穏やかに落ち着きつつも、この場に美しさを感じたり、好奇心が前面に出ていた。


「それは多分、光を下に送る為のこの形が音もそう言う風に優しく反響させとるってことちゃうかなぁ?」


 少年も見たこの場所を考察することに意識が完全に向いている。


「ここの光は、下であの埃臭い部屋の書類読む為の照明やろうから。明るくないと見にくいけど、強い光って紙痛める訳やし。だからああやって、暗室に保存しといて、必要に応じて出してきて、この下で読む、って感じやったんやろうって思うんやけど。だから音はどっちかっていうと、大きくせず、小さく高くして、散らす為ちゃう? 図書館に似た使い方されてたやろうし」


「そうねぇ。なら、この光って、何から出されてるのかしら? この透明な壁面が、って訳じゃなさそうだし」


「そこは多分考えても無駄ちゃうかなぁ? そこはシュトーレンさんに聞くんが一番ええやろう。ってことで、そろそろ行こっか、リールお姉ちゃん」


「ええ。そうね。……。…………。………………。()()()()()()()()()()()……? どう見ても通行用じゃないわよね、やっぱり」


 そう言って、リールは背後の、その空間に唯一存在する進む先を見た。


「いや、一本道、やな」


 同じように眺める少年がそう言うと、


「そうね、」


 自身の体が通っている途中で狭くなってもしかしたら詰まっちゃわないかなんて考えを、リールはきっぱり捨てた。


「行きましょうか。私が先進むから、もし詰まったら助け出してね、ポンちゃん」


 そうやって、微笑を浮かべ、そのとても通路とは言えない通路の前に立ち、四つん這いになって、そのまま、先へ向かって進み出す。


 ゴソッ、ペタッペタッノソッノソッペタッペタッノソッノソッ――


 リールが辛うじて四つん這いになって進める程度の、低く、狭い、明らかに通路ではない、その場所から見た感じは、徐々に低くなっていきながら真っ直ぐ伸びてゆく正方形にくり抜いたかのような断面になっている。


 その道の先にリールの全身が進入し終え、その姿が小さくなる位遠くなって、リールが


「いいわよポンちゃんんん~! 危ない感じは無さそうよおおお~! 何だか、やってみたら大したことなかったわよね~!」


 そう声を通路越しに少年へ届ける。恐らく叫んだのだろうが、その声は高く小さくなり、少し間延びした感じになって少年のところ、通路の外まで届いた。


 少年は少しばかり呆れる。そして、大きく息を吸って、叫ぶように響かせる。


 すぅぅ、


「リールお姉ちゃんんんん、割り切るの早過ぎ」


 そう言う少年も大概である。


 ゴソッ、ペタペタノソノソペタペタノソノソ――


(何やこれ? 思っていたのと結構ちゃうな。何か何もかも真っ白に見えて、禄に前見えてへんのちゃうか、これ? でも、多分何もリールお姉ちゃんが言ってこんかったってことは、これ、外から見た通り、緩やかに下がるようにどっかに真っ直ぐ延びてるだけやな。さて、何処に繋がってるんかなあ。行き止まりだなんてオチになりませんように!)


 そうちょっぴり祈りつつも、ちょっと少年はわくわくしてきていた。






 ペタペタノソノソペタペタノソノソ――


(何か思ってたよりもだいぶ快適やな。厚くないし、べとべとじめついてもない。空気は十分濃いし、何の臭いもせえへん。ってことはこれやっぱり、どっかと繋がってるなぁ。行き止まりってオチは無さそうや)


 ペタペタノソノソペタペタノソノソ――


(それにしてもこれ、長いなぁ。ここまで分岐なんて無いんは、こうやって、自分が傍で出した音で分かってるけど、リールお姉ちゃん、どれだけ先まで行ったんやろうか? それに、この反響音もなんかどんどん小さくなってきてる感じするし)


 ペタペタノソノソペタペタノソノソ――


 時間感覚もとうに失くしつつも、出口の存在を確信しつつ、少年は休むことなく進み続ける。恐らくリールも同じような速度で休まず進み続けているのだろうと信じて。


(おっ、またあった)


 手元に見つかったそれを拾い上げる。それは、リールの赤い髪の毛の切れ端。途中からリールが、ここが思っていたよりも長いこと、そして、少年が考えたように分岐がそのうち現れる可能性も考慮して、そう、足跡を残しているのだと少年は理解している。


 一応、確認する。


 くんくん、スンスン。


(間違い無くリールお姉ちゃんのものや。こうやって、先にいるって教えてくれると安心するなぁ) 


 だからそれをまた、その場に戻し置き、先へと進む。

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