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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟

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224/493

---052/XXX--- 積み重なる書類の柱

 ピラッ、ピラッ、


 手にした紙片を次々と捲っていき、取得可能な情報を探る少年。


 目はもうとっくに、開いた扉から入ってくる光程度で周囲がはっきり見えるくらいまで順応していた。埃臭さにもすっかりもう慣れてしまっている頃合いであり、紙片の山を掬い上げたり、それらをピラリと捲る際に出る結構な量の埃すら、咽せることなく、煩わしくも感じない程度になっていた。


 大量の箱と書類の山が、幾つも無秩序に積み重なった、机も椅子もない、唯の書類置き場のような場所。だからこそ、保存の程度も暗室であるというのに意外と悪い。


(紙の質は阿蘇山島の図書館のヤツよりも恐らくええ。未だ黄ばんでない中央部辺りは白くて薄いのに、しっかりと上部でしなやかや。インクの乗りも、文字の感じも、明らかに濃くて、それでいて、ムラが無くて、文字は恐ろしいくらいに均一に並んでる。知らん文字が大半やってのが惜しいとこやな)


 今のところ、部分的にも読み解ける資料は一枚も見つかっていない。それでも、そのように、文字の羅列外のところで色々と考察できる部分はあり、それが少年に活力を与えている。この作業がもう数時間に及んでいるにも関わらず、ペースを落としていないのはその為。


 書類置き場としてのその場所がそこ一部屋で完結しているとはいえ、先ほどいた部屋よりも広く、天井も高い筈だというのに、何も置かれておらず、天井に照明もあった明るい前の部屋とは違い、その灰色の冷たく固い、均一に平らな石の天井と床と壁に囲まれた部屋の中は、妙に精神を疲れさせる。


(繰り返し何度も出てくるとこからして、これらが文字であるのは違いないやろうけど、これじゃ、どうしようもないわ。漢字でも平仮名でもカタカナでもないし、英字でもないなんてなぁ。古さは、はっきりせんけど、下手すればこれは、大津波前の時代のもんかも知れへんなぁ))


 ちらり。


 後ろを振り向く。開けたままにしている扉の先。シュトーレンの姿は見えない。いるのは、扉を越えて横にいったところなのだから。そして、扉を開けて退いてから一度もこっちに来てないということは、今は休んでいるのだろうと推測できる。


(シュトーレンさんはどうやら寝てでもしまってるようやな。このまま休んでおいて貰ったほうがええやろ。本当なら、こういうところこそ、力を借りたいとこやけども。俺とか、リールお姉ちゃんよりもずっとずっと色々知っているんがシュトーレンさんなんやから。これらもひょっとしたら、シュトーレンさんなら読めるかも知れへんしなぁ)


 ちらり。


 今度は、左横を見る。


 ピラピラピラピラピラ――


 そこには何かぶつぶつ呟きながらひたすらに掴んだ紙片をパラパラ捲り、確認し終えたら確認済のものを次々積み重ねていって、地面に座ったままの自身の高さを越えた辺りで、新たに近くの別の場所に積み重ねてゆく。その数は、両手の指の数を既に越えており、少年の方向だけは空けられている。


(リールお姉ちゃんも成果無しかぁ……。まぁ、兎に角、やるしかないか。まさかこれ……、シュトーレンさんが休む為だとかは……それはないか。なら、あの手術室で休んでたらええだけの話やった訳やし。血生臭くても、あそこは確かに安全やった訳やし。……いらんこと考えんと、手ぇ動かそっと)


 と、少年は前を向いて、


 ピラッ、ピラッ――


 また黙々と書類漁りに戻った。






【(年月日は千切れて読み取れない)】


【未来いつか訪れるであろう破滅に抗う為の場所の一つとして、此処は作られた。】

【人体の再生、魂の抽出と注入、無機の魂の箱、異種配合、人ならざる種への人に迫る知能の付与。】

【それらを主とする保管庫である。】


【これらの技術と知識を必要となったとき、然るべき者が手にしなくては意味がない。】

【その為に、本来此処に相応しくはない、死を齎す数多の技術が共に置かれることとなることは無念ではあるが、必要であのだから拒絶もできない。】


【此処は、人を神にするが為の場所ではない。】

【技術は占有されてはならない。】

【力は、常に正しく振るわなければ、それは唯の暴でしか、理不尽でしかない。】


【そういったものによる不可逆の喪失に抗うが為に生み出されたこれらが、無為にならぬことを、私は説に願う。】


 それが少年が最初に見つけた、内容の一部を文章として意味ある程度に読むことができる部分が残った書類だった。


「ねぇ、リールお姉ちゃん。ちょいこれ見て?」


 そう少年が、リールの方を向いて呼びかけた。


 向こうの方で大量の紙片の束をどんどん仕分けしていって、自身に読めそうなものを探していたが、自身の座った際の身長位の書類の柱が数十本程度乱立してしまったところだったというのもあって、リールはすぐさま書類を捲る手を止めて、振り向いて、


「えっ? もしかして見つかったの? 何か!」


 少年がニヤリ、と頷くと、


 バサァァ。


 手に持っていたずっしり大量の未分類の痛んだ書類を投げ捨てて、そのまま少年の方にすぐさま駆けていった。






「ねぇ、これもしかして――ここができたときいた誰かの日記の一部かしら? だって、それ、紙のサイズ少し小さくない? それに、それ、多分手書きよ?」


 そう、リールが少年の真隣に座り、少年と共にそれを見ながらそう突っ込んだ。


「えっ? ……。…………」


 ピラッ。その辺の状態のいい紙片を数枚取り、それに、その紙片の上辺を合わせ、重ねる。


「あぁ! ほんまやっ! 何か所かに出てくる"此処"が、最後のヤツだけ微妙に最後の払いが長い!」


 と、少年は今までそれに自身が気付かなかったことに驚きつつ、リールにそう言うと、


「でしょ?」


 と、リールはふふっ、と笑った。







 ピラッ、ピラッ――、ピラッ、ピタッ。

 

「何かそっち収穫あった?」


 手を止めた少年は振り向いてリールに尋ねた。


 ピラピラピラピラピラ――ピラ、ピタッ。


「全然」


 リールは手を止めて少年の方を向いて、百を越えた書類の柱の隙間からげっそりした顔と声で少年にそう言った。


 少年が一枚、情報を収穫してから、また二人分かれて書類の山を引き続き漁っていたのだが、それからというものの、何一つ収穫は無かったのだ。


 二人とも当然消耗している。未だ一見余力を残してそうな少年もリールと同様に。二人とも、外の様子も警戒している。気配の察知には微塵も気を緩めてはいない。この階層に最初入ってきたとき、魚人共に気付けなかったこともあって、察知に裂く気力は多目になっていた。ずっと、扉の外にも集中しながら、目の前の書類にも集中する。それは流石にこの辺りで限界であったということだろう。


 だからこそ、少年はそんな風にリールに声を掛けた訳で、リールも分かってそんな返事の仕方をした訳である。


 それに、シュトーレンが時間があると言ったとはいえ、幾ら何でも、これは手間を掛け過ぎている。何か見つかるかどうかも分からない場所でこれだけ時間を掛けるというのは明らかにおかしい。そんな結論に二人共至っていたのだろう。だから、


「「じゃっ、そろそろ、」」


 重なる二人の声。


 二人は顔を見合わせて、空元気で笑う。


「「分かる人に聞いちゃおっか!」」

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