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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟

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223/493

---051/XXX--- 意識、せめぎ合った

 闇の中。心が、蠢く。意識が、端から、ほつれ、消えてゆく感覚。私は、一体、どうなってしまうのだ……。


【道化の仕事、ご苦労。下手ではあるが、さまにはなっているではないか】


 何の……用だ。仕事はやっているだろう? 邪魔しないで貰いたい。言論の矛盾はそれ即ち、信用と信頼への疑念だ。


【ふふ、ふはは。そんなもの、分かりきっているだろう?】


 分かっているとも……。言われずとも。この小康状態も長くは保つまい。


【そうすれば?】


 そうすれば、もう、()()()()()()()()()()()……。


【そう。猶予はもう、僅か】


 だが、自らに引導は、渡せはしない。未だ。


【自身はどう足掻いても助からぬと知っていて、足掻く、と?】


 足掻くとも。他の誰でもない、私の所為なのだ。それに、もう、私は()()()だ。それどころか……。いや、何でも、ない。


【それどころか? 何だというのだ? ()()()()()。ふはは、はは。はっ。全て解しているように見える。だが、それなら、分からぬでもない】


 私は枷でありたくなどない。それでは、この偶奇の生の価値がない。意味がない。せめて、物言うだけの死体でなく、死兵そのものであらねば。覚悟は、決めた。見せてはやらん。覚悟しているということ以外は。肝は見せん。死が確定するそのときまで。必ず、刃、届かせてみせる。それが、私の最後の仕事。そして、死兵とはそういうものだ。


【だからこそ、お主は届かなかったのじゃ。そして今、こういうことになっておる。どうして気付かぬ。気付けぬ。目を背けていることにどうして】


 だが、目を背けている、ということからは目を背けてはいないだろう?


【枷にだけはなりたくない、だと? 偽るな。繕うな。終わりから紡がれた想定外の続き。それに惨めにしがみ付いて、自身に靡かぬ女に、それでも最後を、看取って貰いたい、だと? 失態を、女と真にふさわしい自身とは別の男に詫びたい、だと?】


 そうだとも。認めよう。その通りだ。だが、それでも、私には責務がある。義務がある。責任がある。


【重複しておるぞ】


 分かっているとも。もう、私は崩れる寸前だ。当然だろう? 今度という今度は、死ぬと意識して死ぬことになるのだ。先ほどのように、何も分からぬまま不意に死んだ訳ではないのだから。揺らぎもする。それでも、根幹は、崩れない。それが崩れると…―


【『私は私でなくなる!』だろう? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 無駄だ。たとえ意識霞もうとも、思考は鈍らん。私の精神は、私が思っていた以上に強固らしい。揺らぎはするが、決して崩れはしない。終わりのそのときまで。


【いつまでそのような猶予がある、と思っておるのだ】


 無論、()()()()()()()()()()()()()()()()()


【お主がそう思うのなら、そうなのじゃろうな。じゃが、忘れてはおらぬか。ここにいる者共は、お主と儂と、人に至らぬ魚の群れだけ、では無いのじゃぞ?】


 あの二人が、私如きの中身を読めないとでも、本気でそう思っているのか? だとしたら、ふふ。ふははは、めでたい。おめでたいものだ。年月というのは恐ろしいものだ。記録にも記された傑物を、ここまでの愚物になり下がらせるのだから。


【もう猶予はやらぬ。その場所から貴様らが踏み出したその時から、もう容赦はせぬ。戦利品はもう要らぬ。この牢獄の鍵はもう手に入れた。後は、貴様らの処分だけだ】


 もう、用は済んだだろう? 先ほども言った通り、無駄、だ。制御は返さん。目も耳も鼻も口も、手も足も、この身一つで我慢しろ。私は、何があっても貴様をここから逃すつもりなどない。貴様は、ここで、私と共に、終わるのだ。


【なら、怠らず、かの場所まで連れ立って来ることだ。そして、直に相まみえ、雌雄を決っしようではないか。儂に抗う者には、消えて貰わねば。後顧の憂いは絶つに限る。のぅ?】






 ……。



(言葉通りに取らなくとも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()())


 あぁ、本当に、行った、か。



(そして、魚人は端末としてではなく、指示を飛ばしての駒としての使用に留め、二人を私の目の前で葬って、私を折り、制御を奪い取り、私という鍵を差し置いて、この牢獄の代えの囚人として納め、自身はこの場から、蓄えた知識、遺失された禁忌の技術、人の身体と付随する権。あぁ、成程……。虫が良すぎる。偶機に乗じたものでは決してない。狙いすまされたということだ)


 ……。


(私は、誘い込まれ、二人は巻き添えを喰らった。ならばこそ、私は、()()()()()()()()()()()()()()()()())


 …………。


(気まぐれなあれの端末としてのこの仮初の命でも、純然に私のものかは分からない記憶と精神でも、それでも確かに、この思いと、向かう先は、私のものだ! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あの二人が後顧の憂いであるのだから、そうあるように作らなくては、模倣せねば、意味がないのだ。本物はそうでなければ、騙せはしない。一流を騙すのはまた、一流の贋作だけだ)


 …………。


(ふふ、ふはは、ふはははははは。その驕り、拘泥、高くつくぞ。だからこそ貴様は、このような辺獄に封じられたのだ! ならばこそ、未だ暫く、道化で居続けなくては。下手で悪いが、お付き合い頂こうか。リールにポン君。はは、ふはは、ふははははは。)

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