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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
221/493

---049/XXX--- 悟らせぬ消気

 三人が向かったのは、その建物の最上階。エレベーターに乗って、向かうは上。各階層を示すスイッチの板を剥がし、隠された、最上階へのスイッチをシュトーレンが押した。


 ポチッ。


「いつの間に……」

「はぁ……」


 少年は呆れ気味に驚いて、リールはただ呆れ果てて溜め息を吐くばかり。そうは言いつつも二人共分かっている。この場所そのものに魂を移されたときにこれも引っ張ってきた情報なのだろう、と。


 動き出すエレベーター。


 ィイイイインンン――


 シュトーレンが扉の前、二人が、その向かいに陣取っている。


「さて、最初に向かうは、上だ。二人とも、これを見て欲しい」


 シュトーレンが見せたのは、通信機の映し出す、半径百メートル範囲での敵の分布。いつの間にか右下の画面に付けられていた、"radius(半径) 100m"、からそうだと分かる。エレベーターの上昇に合わせてそれを見せる。それは粗方、立体的な平面的な敵の分布と地形の断面図の連続を見せているに等しい。が、


「やりたいことは分かったんやけど、……何も、おらんくない、これ……?」

「そうよね……どういう、こと?」


 赤く描写されるもの、つまり敵は全く映ることすらなく、その画面の映像は流れてゆくばかり。


「少しは考えたまえよ……」


 扉開いたらそこは、光沢のない灰色の、高さ2メートル程度、半径10メートル程度の円柱状の、天井中央部分の丸く平たい少しばかり出っ張った照明から出る白色光で照らされた明るくも殺風景な部屋。


 そして、エレベーターの扉を挟んで向こうの壁面にある、開いた本のレリーフのような像は中央に走る縦線と僅かな隙間からして恐らく、扉。


 が、開いたエレベーター扉の前すぐには、

 

 ギシャァァアアア――!

 シャァアアアア――!

 ギリリリギリリリ――!

 クァンクゥオン――!

  ・

  ・

  ・

 ギィィギィィィ――!


 そこにいた両手の指に収まる程度の数の魚人共。エレベーターの外側で、出入り口の前に半円状に並んで、待ち構えていた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 スッ、シャァアアアアア、ストトトトトトト――


 シュトーレンがそう言い終えると同時に、その中の一体、丁度エレベーターの開閉扉正面中央の太刀魚魚人が凶器そのものである頭部を付き出して突っ込んできた。


 が、シュトーレンは動かない。明らかにその太刀魚魚人の狙いはシュトーレン。その脇腹。直線上、射線上に、丁度いるというのに、何故か微塵たりとも動こうとしないのを見て少年は驚くのではなく、焦った。

 

(はぁ……! おい、何でや……。何で動くかへん、シュトーレンさん……。死ぬぞ、今度こそ……)


 明らかに気付いているというのに、涼しい顔をしている上、何かしらアクションを起こす予兆すら見せはしない。


「おぃぃ、迎撃しろやぁあああ!」


 慌てて少年が叫ぶ。そして、悟る。


(あかんこれ……無駄っぽいぞ……。何考えてるんか、まるで分からん! 何か策があるのかも知れへんが、どうも、そういう感じはせん……。…………)


「ああっ、もおぉおおお!」


(ぁあああああああああっ! くそっ!)


 叫んでも無駄だと叫んでいる最中に既に見切りをつけた少年は、


 ザッ、スルルル、


 しゃがみ、滑り込むように足からスライディングしつつ、それに合わせて低くした体全体を、太刀魚魚人の、太刀魚魚人の、シュトーレンの腹を貫こうとする頭突きの下を掻い潜りながら、左手を地面を滑らせ転倒を防ぎつつ、斜め左下から入り、頭の上に曲げ、覆い守るように重ねていた右手で、


 クッグンッ!


 斜め上方へと、斜め下横から弾きつけた。


 ドッ、バタンッ!


 太刀魚魚人は激しく転ぶ。それをすかさず、


 ギャキン、ザシュスッ!


 ナイフでリールが、その使われているかどうか定かではないが確かに存在しているエラに沿って切り裂く。


「考えても無駄よ。そういう人だから。それとナイスポンちゃんっ!」


 そう言いながらさっと振り向いたリール。前半冷たく言って、後半無理に笑顔で少年を褒めるリール。そして、あっという間にまた前を向いた。


 そうしてあっけなくやられた太刀魚魚人。他の魚人たちはあっけにとられて硬直しており、()()()()は当然、そんな隙を逃しはしない。


 未だ動き出さないシュトーレンに、何の説明もなしにそれは流石に駄目だろうと、とうとう痺れを切らして駄目元でさっと大声を出す。


「何やってるの、シュトーレン!」


 シュトーレンはすぐさまそれに対して返事した。


「分かっているちゃんと私も」


 スッ、


 シュトーレンが懐から出したのは、掌サイズの小さな缶。真っ赤な塗装がされた、見るからに不気味なそれにはプルタブが付いており、


「働くとも」


 カリリリ、パンッ。


 それを開封したかと思うと、


「君たちのお蔭だよ。()()()()()()()


 ポイッ、


 そう言って、それを投げつける。


 中央左の魚人に当たったそれは、


 コトン、シュゥゥゥゥゥゥウウウウウウウウウウ――


 空気が漏れるような音を放ち、


 コロロン……。


 転がった。


 何も、起こらない……。


「ちぃぃ、何も起こらんやんけぇええ! ふざけとんのかぁああああ! シュトーレンンンンン!」


 そう叫び、取り敢えず一番近くにいた秋刀魚魚人を蹴り抜こうと、


 シュゥゥウウウウウ、スッ、ピタリ。


 その足を止めた。そして、顔から殺気を消し、俯き、上げた足をすううっと下ろす。そして、


「なぁ……、そういうことやったら、先に言えやぁあああああああああ!」


 そう思いっきり叫んだ。少年が蹴りをかまそうとした魚人以外も、そこにいる全ての魚人たちは、つっ立ったまま、微塵も動かなくなっていた。


「ふふ、はは、ふはははは。はっはっはっはっは、爽快爽快ぃぃ!」


 そうシュトーレンは悪びれもせず高笑いするのだった。煽られ慣れてなんていない少年はぎりり、とイライラを募らせ、とても悔しそう。リールはそんな様子に頭を押さえるのだった。

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