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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
216/493

---044/XXX--- 魂揺さぶる交渉術

 一瞬の刹那、リールは思考する。


(ここで私が終わったら、ポンちゃんが、折れる! それだけは、絶対に、駄目!)


「っつぅぅ、ぅっ!」


 弓状に身を逸らしながら後ろに半ば倒れ込みつつように、


 ブフッ、ウウウ――


 紙一重で避けてみせる。掠ったのは、腹部。長く横断する傷ではあるが、深さ1ミリにも満たない、一瞬で焼かれた切り傷でしかない。


(よし、今っ!)


 腰から抜いた小型のナイフを投げる。


 ブゥオン――、


 だから即座に振り向く。少年は既に通路壁の端、下ろしたシュトーレンと共に、壁にくっつくようにして射線外に移動を終えていて、当たらないことを確認した。


(まっ、そうよね。けど後々を考えたら当たって欲しところだけど、どうっ?)


 そう。外せば、二撃目がある。シュトーレンが連射して見せたのをリールは見ている。知っている。だからこそ、放ったのだから。


 ブザッ、ビキン!


 ウウウ―…


(やったわ!)


 青光は少年とシュトーレンの手前で真っ直ぐ掻き消えていった。






「いきなりすまへんかった。で、大丈夫かいな、シュトーレンさん」 


 少年は、既に目を開けていたシュトーレンにそう話し掛ける。当然、大丈夫じゃないだなんて分かっている。その体は、万全には程遠く、言葉通り、死に体。ただ、それに困惑したり動揺したり、変な罪悪感に苛まれたりなどは、少年は、しない。


「問題……ない。()()()()()、ぜぇぜぇ、()()()()()


 瀕死のシュトーレンが、疲れきった顔で微笑を浮かべながらそう言った。


「続き続き済まへんけど、急がな。背負うで」


 と少年がすぐさま動き始める準備をする。レーザーが連射できないこと、他に通路内にレーザーが無いことは、次の一撃を最初の一撃に重ねてこなかったことと、シュトーレンがレーザーを

 

 流れ始めた血。暖かな血。念の為に傷を塞いたり、後でシュトーレンが戻れる可能性に賭けて、リールによる補修が行われていたとはいえ、リールは医者ではない。少年もそうで。だから、こんなことになっている。


「その心配は、ゲホゲホゲホッ、ない。分かってるだろう、()()()()。ゲホゲホゲホッ、ぜぇ、ぜぇ」


 血を吐きながらシュトーレンはそう言った。だが、そうやって意識があるなら、生きているなら、捨て置くことはできない。心境的にも実利的にも。


 心境的には、リールのため。実利的には、シュトーレンが三人の中でこの場についての知識を最も知る者であるため。


 少年とリール。二人の目的はこの場所、海の底の隔離された場所からの脱出だ。シュトーレンがどう思っているかは分からない。


 少年は、背のシュトーレンについて、思う。


(何で、ここまでなっても、何も話そうとせえへんのや……。俺らの気付いたことだけ、起こってしまったことだけ、まるで必要最低限以外、絶対に話さへん、っていう意思を感じる)


 彼だけはこの場所についてよく知り過ぎている上、何も碌に、少年やリールの知りたがっていることについては話そうとしないのだから。


(確かにここが知るだけでやばいってことは分かる。けどなぁ、そんなん全部、死んでもうたら、どうしようもないやんか! それが一番アカンのやろうが。何に、シュトーレンさんは、拘ってるっていうんや。何か、何か、俺も、リールお姉ちゃんも、見落とし、てる?)


 寄ってきたリール。


「やっぱり、この場所の切り裂く光の機械は一個だけみたいね。ねぇ、シュトーレン。貴方、未だ頭は大丈夫? 考えられる? 私たちの司令塔に、なれる? やれる?」


 いきなりだった。


(なるほど、リールお姉ちゃんそうするんか。確かに、ありっちゃ、ありや、それは。シュトーレンさんの目的が幾つあるか、どれだけ深いかは知らんけど、そん中に確実に、俺らをこっから脱出させる、ってのはある)


 そして、リールは、少年に目で合図する。こうするのが、この人の動かし方よ、とでも言わんばかりに。


(そうじゃないと、ここまでボロボロにこの人はなってへんし、それに、ここについて何一つ言わず口を紡いで、リールお姉ちゃんに手足与えたり、俺の致命傷を何とかしたりなんて、せぇへんやろ? 口封じの為やっていうなら、これらは悪手や。なら、確かに、この人に指揮させるんが、最も効率的、や。やけど、一つ、足りひんもん、足しとく必要はある、か)


「シュトーレンさん。返事は聞かへん。あんたが、俺らに指示飛ばすんや。そして、俺らを、生き残らせてくれ。こっから脱出させてくれ。あんたが話したくないことは何も話さんでええ」


「承知した。では、下ろしてくれないか。自身の足で歩ける。それ位はせねば」


「駄目だ。あんたには頭脳労働に徹して貰う。それにどの道、そんなじゃ、戦力になんてならない。それこそ、重荷どころか手枷足枷首輪、や。あんたを連れていく価値が無くなる」


「君が言いたいことは理解した。辛辣なものだ。……、だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。なら、最初に向かうは、手術室だ」


 リールがそれには驚きを見せていた。リールは、この男の死ぬつもりを翻すなんてことはできない、と考えていたから。それをやってのけた少年の、強引な手口に感服する。


「で、具体的には?」


 少年はニヤリとそう尋ねる。


「そこで、私は、自身の体を、君たちと並んで数分なら継戦できる程度まで、治す。リスクはあるが、これが最も、公算が高いだろう。相手はあの魚人たちだけではない。我が祖先がそれらの指示統率を取っているのだから。ゲホゲホッ、血はだいぶ止まっている。君たちの施術が良かったのだろう。だから幸い、私自身で施術できる。それなら、干渉されることもなく、確実に、持久力以外はまともなところまで持ってゆける」


 シュトーレンの目の奥に、前向きな覚悟と覇気が再び、宿った。

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