---041/XXX--- 起動促す呼び声
「……」
「……」
二人は顔を俯けて沈黙する。予想の最善も、最悪も起こらない。丁度中間。それは、
「何も、起こらんな……」
「そうね……」
何も起こらない、という結果。今度は真顔で二人顔を見合わせて、
「……」
「……」
そして、
「っ、はは、」
「?」
笑い始めた少年と、それに対して首を傾げたリール。
「っははははは、あっはっはっはっは、あっはっはっはっは――」
「え、何? 何なの?」
そんなリールを放置して少年は暫く笑い続けて、
「ははっ、ぶつぅ、はぁ、はぁ、腹いてぇ、ふつぅ、っぅ。っと、リールお姉ちゃんごめんごめん。何かさ、今まで色々考え過ぎてたのがバカらしくなってきてさ」
そんな風に無邪気に笑ってみせて、これには思わず、少年にそう言われるまであっけにとられていたリールもほっこり。
「よかったわ」
そう、溜め息混じりの暖かな微笑を少年に向けた。
「じゃ、やっぱり、次にやるのは、これかなぁ?」
スッ。
少年が指を差す。管制室の機械の中心。シュトーレンが弄っていたそれを。
「……。それは流石に向こう見ず過ぎない……?」
そうリールは不安そうに言うのだが、
「俺至って冷静やで」
そう少年が真顔で返す。リール、これにはすかさず突っ込み諭そうとするが、
「ねぇ、ポンちゃん、…―」
リールのそんな口調を遮り、語り始めた少年は、
「割と単純明快やで? シュトーレンがここに来て最初にしたこと。俺はそれを憶えとるから。答えはそれや、それしかない。目覚めに必要なもの。この場所が眠っているんやってするなら、シュトーレンがこここで色々やれたのは、あの老人が現れたのは、何で、っていうところに振り返ったら、大声で呼びかけるなんて方法より、ずっとずっと簡単で確実な方法、ある、やろ?」
至って冷静だった。
「この装置が目を覚ます方法、それはこうやって、」
翳した右手の人差し指。その先を
「触れてやることや」
触れさせた。
スッ、トン、
プッゥゥンンン!
部屋が、機器の出す発光により照らし出される。
「ほらなっ!」
シュトーレンが機械のパネルに触れてる間、こうやって、光はずっとついていた、機器の機動音の変化が、シュトーレンの指先の、パネルへの触れ方の変化によって起こっていた、ということを、何も知らない少年は、見て、無意識に覚えていたから。
それがこの機器の具体的な操作の方法とは分からずとも。
「嘘ぉ! 凄いわぁ、ポンちゃん!」
ドッ、ギュッ。
飛びついてきたリールに少年は少しばかり照れたのも一瞬。最後の〆が残っている。これだけでは意味がない。シュトーレン本人が、少年たちと意思疎通が何やらの形で可能にならない限り、一部の面での成功であるとすら言えはしない。
少年は歯を噛み締める。
すぅぅ、
「シュトーレンさん、今やったら、俺らの前に姿見せれるやろ? あのおじいさんみたいに全部やり方は分からんでも、俺らに何か示せる筈や。なぁ、なぁあああああああ」
叫んだ。
当然だ。少年からしたら寧ろ、こんな手間なんてこちらに掛けさせることなく、出てくるべきだ、そう思っていたから。少年がこんなに心配したのも、思い悩んだのも、リールの為。結局そこ。
だから、シュトーレンがこうなったのは、仕方のないこと、別に、見捨てることになっても、悲しいだけであり、それだけだ。
少年は、優しくも、冷たい。身内のような距離感でない人間全てに対して冷たく冷静で、何も期待したりなんてしない。
シュトーレンが悪い大人でないことは知っている。分かっている。それでも、だ。それでも、期待なんてしない。
少年一人だけなら。
リールが絡んだからこその、怒りの言葉。少年は、こんな場所に落とされたのが自身一人なら、きっと、受け入れていた。シュトーレンのその仕打ちに対して、微塵の怒りも、悲嘆もなく。もしそれが、今回とは違って、偶然の事故ではなく、悪意故のものであったとしても。
少年は、決して期待しない。赤の他人に。だが、そんなシュトーレンは、リールにとって親しい人間、という現実があって、ここにリールがいるという現実があって、だからこその、
「いつまでもリールお姉ちゃんに重み背負わせたままでえぇんかぁあああああ――!」
どうしてやって当然のそんなことすらできないのだ、という、叫びのような、叱咤。そして、
ブゥゥゥゥ――
二人の目の前に現れたシルエット。その特徴的な大きな顔が、宙に浮かんで、
「シュ、シュトーレンっ……」
リールは目を潤ませて、驚き気味に顔をほころばせる。
「……」
少年は何も言わなかったが、来たか、とでも言わんばかりに口元をつり上げている。
そしてシュトーレンが口上を述べるも、
「待たせて済まない。だが、こちらも待っていたのだよ。あの先祖にそう仕組まれたのでね。そして、再会の余韻に浸る猶予は無…―」
少年が横取りするように遮り、
「あぁ、そういうこと、か。あのおじいさんの気配が消滅のときのそれでなかったんも、魚人たちの動きがまるで誘い込みみたいやったのも…―」
いつの間にか少年から離れたリールが、
「構えてっ!」
と、肉刀を持って、構え、シュトーレンの抜け殻凭れさせたのとは反対側の通路に視線を向けた。
 




