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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
210/493

---038/XXX--- 不穏は未だ色濃く漂う

 スタタタタ――

 スタタタタ――


 リールと少年。二人は通路を走り抜けていた。少年がリールを現実に引き戻し、その直後寝てしまった少年がリールの膝の上で目を覚まして、そのまま抱き合った後すぐ、二人は早くもあの場所から動き出し、こうしていた。


 シュトーレンの気配が、微かに感じ取れたからだ。傍に転がっていたシュトーレンの体からではなく、この場所の何処か、距離も方角も分からないが、何処かに、いる。そう二人揃って突如感知したからだ。


 そこで二人は、自分たちの感知能力がこの場所に来てから普段と比べて碌に働いてなかったことに気付いてぞっとして、もう、砂糖な空気にいつまでも甘く浸っているなんてことはできなくなったのだ。


 二人は共に感じた気配について話し合って、シュトーレンの精神が、何処かに封じられて未だ存在しているというのは多分本当だという結論を出し、動き出したのだ。


 少年は、未だ魂をそこに戻すことが万が一にも可能かも知れない、自らが壊したシュトーレンの体を肩に背負っている。哨戒役がリールである。


 スタタタタ――、ガァァ。


「ポンちゃん、ストップ。ちょっと下がって」


 と、突然の立ち止まりからの振り向くことなくの片手を横に出しての制止の合図に、少年はすぐさま反応し、


 スタタタタ――、ガァァ。フッ、フッ。


 二歩、跳び、下がった。


「ギィイイイイイイイイイ!」


 襲い掛かってきた、太刀魚型の魚人。その、全身を刀のように振り下してくるような一撃が当たる前に、斜め横から、リールは、腰を入れて、振り抜くように左の拳を放つ。


 ボコォォォォ、ブゥオンンンン、ブチャッ!


 壁に激突した魚人が、また一匹、そうやって動かなくなった。


「多いわね、流石に」


 それが通路に入ってからの一度目の襲撃ではなかった。片手の指では収まらない回数、こうやって、不意に飛びだしてきて仕掛けてこられていた。だが、そこが通路であり、二人共万全であり、囲まれることなく一対一であるのと、地形的に回避されることはない狭い場所であるからこそ、そうやって、何とかなっているだけである。


 それを二人とも理解している。こんな具合に。


「そろそろ、魚人たちも、詰めに来たってことやろな、俺らを。っっと、邪魔や!」


 ビュィ、


 少年の足が少し開くと共に腰が少し落ち、右足で放たれた後ろ回し蹴り。


「ギゥゥイイイ!」


 後ろから襲い掛かってきた秋刀魚魚人は、


「ゲェギュバァァァ……」


 ドゴォォオオオオオンンンンン――、メチャッ!


 壁に頭からぶつけられて音を立てて潰れた。


「急ぎましょ。さっきから、こいつらの動き、どんどんやらしく鋭くなってきてるわ」


 リールがそう、振り向いて言って、二人はまた走り出す。


「襲撃の頻度も上がってきたしなぁ、でもまさか、こんな風に挟み撃ちまでしてくるとはなぁ」


 スタタタタ――

 スタタタタ――


「まるで、誰かが指示でも飛ばしてるみたいに正確になってきてるわね」


 スタタタタ――

 スタタタタ――


「多分、こいつらには親玉みたいなんがおるんやろうな、きっと」


 スタタタタ――

 スタタタタ――


「っ! ちょっと待って!」


 スタタタタ――、ガァァ。


 あまりに突然だったので、少年はリールに追突しそうになるが、


 スタタタタ――、ガァァ、プニッ。


 少しリールの臀部に頭の先が振れた程度で、辛うじて留まった。そして、それに対して、下心など感じるには幼い少年は、


「うぉっと! ちょっと、リールお姉ちゃん、いきなり立ち止まらんといてぇな」


 と、そんな調子であった。そして、普段ならそれに絶対何か反応らしい反応を示す筈のリールは、


「ねぇ、ポンちゃん……。ここ、ね、穴が空いてたの。外、海岸に向けてずっと。私が追いかけられて、ポンちゃんを背負って、ここ通って外に逃れたの。けど、……、塞がってるの……。何事も無かったみたいに……」


 少し青褪めた顔で、少し震えた声で、何とか冷静を保ちつつ、少年に事態を説明したのだ。ピンクなハプニングのこと何ぞに全く目がいかないくらい、取り乱す寸前、余裕は碌に無かった。


 少年とは違い、リールは、想定、理外の出来事に意外と弱い。知ってる範囲の延長戦上の未知には強いが、埒外な未知には弱い。


「何やらの作為が、未だ何かこの場所で自動で働いているか、誰かが干渉してるんやってことや。分かってたやろ、リールお姉ちゃん。ここは色々とおかしい。俺らの知らんことばっかりや。とことん、な。確かに驚いて然るべきことやけど、ビビるほどのことじゃない、いや、そんなことにビビってたら、身が持たんで。割り切らんと。俺は、あのおじいさんが出てきたとき、もう何が起こってもおかしくない、って、割り切ったで」


 そして、少年はこのように、逆に、物凄く強い。割り切りと思い切りのよさという、少年の特徴によるものだ。


「でも……」


 リールが未だそんな風に不安を覚えていたので、


「リールお姉ちゃん。何でも起こるってことや。ここでは。なら、何でもできる。そういうことやって、思わん? あのおじいさんがやったみたいに、他の人の体乗っ取ったり、精神抜き取ったり、致命傷負っても治せる方法があったり、腕や足を生やすことだってできて、二足歩行の、海の上に上がって動く、二本脚の魚、魚人なんてもんがうじゃうじゃいる。見たことないような多分、ロストテクノジーとか、山のように転がってるんやで。で、俺らには、シュトーレンさんという、この場所の案内人? みたいな人がおるんや。なっ、だから、取り敢えず今は、シュトーレンさんを見つけることを兎に角集中しよ。ねっ」 

 そうやって説得しつつ、最後ダメ押しで笑顔を向けた。


「……そうね。そうだよね! そうだ、()()()()()()()()()()!」


 そして、走り出すリールは少年を手招きして、


(思ってたよりも、引きづってるな、リールお姉ちゃん……。何としても、シュトーレンさんだけは見つけんと。でも……怖いなぁ……。リールお姉ちゃん、多分、シュトーレンさんが体に戻れんかったり、この場所から動けない状態にされてしまっている可能性、考慮してない……。……。そこは、シュトーレンさんに何とかしてもらおう。()()()()()()()()()()()())


 少年は、微笑みを浮かべて、こくり、とその後に続くのだった。

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