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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟

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205/493

---033/XXX--- 眠れる獅子が目覚めるとき

「ほぅ、人の域を越えておるな。化け物の類だったか。フォッフォッフォッ、さもなくば、此処に辿りつける筈もあるまい。そうして、五体も心も欠けることなく立っておるのがその証よ」


 シュトーレン姿の老人は腕を組んで、感心したように少年を見ている。微塵もそこに恐怖はなく、少年を好奇の目で愉しそうに見ている。化け物。確かに少年のことをそう形容したというのに。


 少年はその言葉に耳を貸さない。胸元に抱えたリールの、その、何も見ていない目を覗き込むようにしながら、言う。とても優しく、しかし、今にも泣き出しそうな顔をして。


「リールお姉ちゃん、ちょっとだけ、待っててな。()()()()してくるから、」


 少年とリールは、似ている。似通っている。だから、少年も、心に抱くのは結局、彼女とそう変わらない。こんな、風に。


 ポタリ。


 落ちる。リールの頬に。


 ポトリ、ポトリ、


「ごめんなぁ……」


 まるでリールの代わりに泣いているかのよう。






 スッ、のそり。


 リールを壁にもたれかからせた少年。真っ直ぐ伸ばした、リールの両足。床と壁に接した、臀部。壁につけさせた背中と頭。膝の上に置かせた両手。だが、それらは、すぐに、力無く曲がる。少し膝を曲げ、少し開いた両足。すとん、とその間に落ちる両肩から両手。前へ傾く背中。垂れる頭。揺れる髪。依然力無き、何も見ていない、開ききった瞳孔の半開きの目。


「……」


(ごめんな……。すぐに、片づける、から……)


 くるり。


 少年がリールに背を向けて前を向くと、シュトーレン姿の老人が口元をつり上げるように歪めながら、


「なら、奪い合い、といこうではないか」


 少年に愉悦の笑みを向けてきた。






 スタリ、スタリ、スタリ、スタリ、


 中央の機械を避けるように少年から見て左回りに旋回しながら、ゆっくりとシュトーレン姿の老人は姿を詰めてくる。


「……」


 少年は何も言わない。


(……)


 少年は何も思わない。少年は俯いてつっ立ったまま、動かない。 


 スタリ、スタリ、スタリ、スタリ、


「愉しくないではないか、それでは」


「……」


 スタリ、スタリ、


「なら一つ教えてやろうとするかのぉ。やる気が出るかも知れんぞい。聞きたいかの?」


「……」


 スタリ、スタリ、


「まぁ、よい。この体の持ち主、シュトーレン・マークス・モラーは、生きておる。儂と入れ替わってのぉ。つまりぃ……? フォッフォッフォッ、カカ、カカカ、儂の代わりにここに未来永劫、気が遠くなって、意識擦り切れる、ずっとずっと未来のいつかまで、この海底の獄に、禁忌押し込めし、人無き場所に、終わりのその時まで、囚われ続けるのじゃよ」


 ニタァァァ。


「……」


「もうよい。お主には飽いたわ」


 そうそっけなくシュトーレン姿の老人は投げ捨てるように言葉を吐いて、


 スタリ、スタリスタリ、スタリスタタタタタタ――


 少年に襲い掛かる。


 それは、シュトーレンがあの透明な匣の中で拳放ったときの動きとはまるで違う。警戒で、素早くて、無駄なく、一直線に、そして、風切る速度で、飛んできた拳は唯の牽制で、少年に当たる前に引かれる。


 それでも全く動かなかった少年は読みきっていたのか、避けるつもりがなかったのか。それでもシュトーレン姿の老人はそんなことどちらでもいい、というように、本命であった、蹴りを放つ。


 ミシメキッ、バァァァゥゥゥゥーー


 それは、肩より上につり上がり、足の甲を返すように放たれる、まるで鞭のような振り下し。


 その、歪な巨体の慣性や、可動域の限界を無視するような動きのそれは、


「おじいさん、あんたのようなやつを、ホンマの化け物って言うんやろうなぁ」


 突如少年がぼそり、とシュトーレン姿の老人に、俯いたまま確かにそう言って、


「っ!」


 驚きつつも、当たる刹那の蹴りをやめるつもりもなく、速度を落とすことなく――


 ゴボィィゴォォボォォォォオオオオオオゥンンンンンンンゥウウウウウウウウ、ボコキィィゴォォオンンンンンン、


 シュトーレン姿の老人は、少年の左横の壁面にその胴体を壁にめり込ませつつ、蹴り足は砕け歪に折れ曲がり、


「ゲホッ、ぶほぉぉぉ……」


 吐血と共に、ボコンと砕け凹んだ壁面から、崩れ落ちるように落ち、


メリリ、ボトッ、ガララララ……。


 動かなくなった。

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