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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
202/493

---030/XXX--- 茶番演じる道化たちの手探り

 二人は気付いている。自分たちが今しているのは綱渡りだということに。相手はこの施設の設備を自由に動かせて、その上、今の今まで姿を表すことすらしなかった存在。シュトーレンが姿を消したことに関係するかは確定とは言えないが、かなり怪しい。


 だが、そう思っているだなんて、二人とも微塵も出さない。分かっているから。それは、自分たちを測ろうとしているのだ、と。


 二人は、それが出現したときから気づいていた。だから、こんな茶番に付き合っている。そして、この場の自然と、少年が主に口を開く役目を請け負って。子供の方が失態というのは許されるもの。二人とも、そのことを良く知っている。二人とも大人ではないが、それでも、より幼げな少年が口を開く役をするのは利にかなっている。


 初手のいきなりの束縛、次手の掌返し、そしてそこからまた、距離を取るような態度。まるで、煽られているようにも、遊ばれているようにも取れる。だから、二人は守勢にまわっている。


 それが、今までの流れである。





「儂が誰かなど、些細なことだ」


 老人の、自分から聞いておいての、そんな唐突な一言。


「えっ?」

「えっ……」


 それがわざとなのか、呆けているのか、二人には判断が相変わらずつかない。二人は顔を見合わせ、一瞬、目を合わせた。


(全然、勘が反応せん……)

(何考えてるか全く読めないわ……)


 視線を交わすことで思いが通じたかどうかはさておき、

 

「知ってたらラッキーじゃなと思っての。知れたら知りたいじゃろうて、自身の名前。自身が有名であったことは覚えていつつも、誰であったかが消し飛んでおるというのは、なかなかにモヤモヤするものじゃぞ」


 話は続くのだ。


 二人はまた顔を見合わせる。そうする機会が多いのは、それを促されているのか。だが、そうであっても、二人は乗るしかない。それに、その促しに乗ることは悪いことだけではない。


(ちょっと攻めてみるわ)

(がんばって!)


 そう、戸惑って目を見合わせる振りをしながら目でほんの一瞬会話する二人。そして、


「じゃ、なんでこんなとこに、頭だけでおるん?」


 そろそろ動き出すことにしたらしい。


 バカっぽくも、いかにも相手が求めていそうな、正に雑談という感じの質問。子供が何かに興味を持つときの、何気ない無邪気な質問そのものだ。


「よくぞ聴いてくれた。お主お爺ちゃん子じゃな! 爺の転がし方よく心得ておるわ」


 どうやら当たりらしい。


「それだったら、お爺ちゃんらしくなでなでして欲しいなあ」


 ここでわざとらしく極端に子供振ったのは、逆にちょっとませた感じである。直前の返しを踏まえての返答なのだろう。


「よいぞ、と言いたいところだが、手は無いからのぅ。鉄のアームでなんてゴツゴツで冷たくて嫌じゃろう? うーん、そうじゃ! じゃ、何か一つ」


 三本指のロボットアームが動いて、一本、指を立てる。


「質問に答えてやろう。ただし、答えられないこともあるから無駄撃ちにならぬようにな」


 老人の口元が、にたぁぁとつり上がり、目がにやぁぁっと垂れた。


(よっしゃ、釣れた!)

(ポンちゃん、ここが肝心よ)


 前を向いたままの二人は、それぞれそんなことを思っていた。






「ゲームみたいなもん? 何聞いてもええの? 太っ腹ぁ!」


 少年はそう、わざとらしく持ち上げる。当然分かってやっている。


「そうじゃよ」


 だが、老人のその返事には含みがあった。ただし、~と後に続きそうなような。だから先に言われる前に、少年はぶっこむ。


()()とお爺さんの?」


 時間がいつまであるかなんて分からないのだ。それに、この老人が何もしてこなくとも、外の魚人たちが、ここを嗅ぎ付けて攻めてくる可能性もずっと残ったままだ。時間が残れば残るほど、そうなる確率は高い。あれらは、頭を使い、安全マージンを取るからこそ、次攻めてきたとしたら、先ほどまでよりずっと怖い、と言えるだろう。

 

「ああ、そうじゃ」

「じゃ、ちょっと作戦タイム」


 と、少年は、老人が認めた途端にそう被せた。






 数分後。


「おじいさんは何のためにここにいるの?」


 二人はそんな質問を選択した。


 真に聞きたかった三つのことのどれも選ばずに。


 一つは、ここを出る方法。これがそれを話すかといえばかなり怪しい。直前の一言が釘さしだとするならば。もう一つも同じ理由である。シュトーレンのことは聞けない。そして、最後の一つ。それは、老人に直接狙いを聞くこと。この老人は今この場を楽しんでいる。だから、それをつまらないものにして終わらせてはならない。二人は分かっている。主導権は終始、この老人のものであるということを。


()()()()()()()()()()()()()


 その一言を聞いて、


「じゃ、聞くけど、()()()()()()()()()()()?」


 少年はぶっこんだ。リールは横で、大きく目を見開いて、なんで!? と言っているかのようだったが、それでも少年は撤回しない。


「最初から、言っておるだろう? 取引しようではないか、と。認めてもよいだろう。それだけ頭が回り、度胸があるというならのぉ。儂が言っておるのは、そこのお嬢さんもだよ。お嬢さんあってのお主の踏み込みのようだからのう。良いものを見せて貰った。代価は十分といえるじゃろう」


「……」

「……」


 二人は何も言わない。更に警戒を強めている。当然だ。こういうとき、相手が口にするのは、厄介事であると相場が決まっている。自然と、体を寄せ合いながら、二人は立ち上がって、浮かぶ老人の頭を、顔を、冷めた目で睨み付ける。


 二人が感じたのは、話し合いの終わり。なら、何か起こる筈。そう考えての警戒。そして、碌でもないことが起こりそうだという、経験則。


(なんか、物凄く嫌な予感がする。さっきまで勘全然やったのに)

(大丈夫、私もよ。こいつが何かしてた、って考えるのが妥当じゃないかしら。でも、ギリギリまでは動かないでおきましょ)

(ああ、そうやな。情報できるだけ欲しいし)

(これ以上何か得られるかなんて期待薄だけどね)


「支えあっとるのぅ。お似合いじゃ。とても人間らしい。魚人共たちを幾ら見ておっても、決して見られぬ光景じゃよ。じゃから、一つ、教えてやるとしよう」


「えっ?」

「へっ?」


「つい先ほど思い出したのじゃが、儂の名は、バウムクーヘン・マークス・モラー、じゃ。おっ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

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