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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
199/493

---027/XXX--- 疾走、そして―― 前編

 スタタタタタタタ――


 砂浜を掛ける二人。少年がリールを背負い、リールは砂袋を持って。それが二人の、取った作戦。


 スタタタタタタタ――


 スドッ、ブツッ、グッ!  ブゥオアンンンンンン――


「来たっ! たぁああああああ!」


 ドコォォォ、ボォォンンンンンンンンンンンンンン、ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ――!


 頭上を踏む前に先んじて飛び出てきたスター・ゲイズ・ジャンパーを、砂袋と化したそれを、少年の背の上で振り回して弾き飛ばすリール。


 少年は、ニヤリ、と笑い、勢いを落とすことなく駆ける。


 真っ直ぐ向かうは、建物群。最初建物に入ったときに通った入口目がけて。


 スタタタタタタタ――、クニッ!


「しゃらくせぇえんやぁあああああ」


 そう叫ぶ少年。踏み付けたことで、トラバサミ染みた噛みつきを放ちながら飛び上がってくる最中のスター・ゲイズ・ジャンパーを少年は、その歯を砕くように斜めに振り下すような足取りで、砕き、蹴り飛ばす。


 トッ、バコキッ、ボォォンンンンンンンンンンンンンン、ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ――!


 嘘みたいに軽く、あっけなくどこかへ飛んでいく。


「このまま止まらず、行くで行くで行くでぇええええええ!」

「ええ! 行くわよ行くわよ行くわよ!」


 少年は、自身が立てた作戦に微塵の不安すらない。間に合わせ、そして、背に、彼女がいる。なら、足を鈍らせるものなど、ないのだ。一人じゃないのだから。どうしようもないような状況でも、彼は大概、一人で何とかしてきた。


 そう。一人でも何とかできるのだ。だが、それは、偶然続いているだけに思えて。何故なら支えが無いから。だが、彼女がそうして、傍にいるなら、そんな虚無感はない。何でもやれるのだ、と自身を持って、言えるから。


「お前がぶっ飛べぇえええ!」


 トッ、バコキッ、ボォォンンンンンンンンンンンンンン、ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ――!


「来た来たぁあああ! 二匹仲良くどっか行っちゃぇえええええ!」


 ドコォォォ、ドコォォォ、ボォォンンンンンンンンンンンンンン、ヒュウウウウウウウウゥゥゥゥゥゥゥ――!


 乙女は、自身の体の損傷など、気にもならないほどに、幸福な気分であり、身体にいいように血が昇っており、患部からそれなりに出血しつつも、痛みなど感じず、今に夢中。そう。こうやって、万全で彼がいるなら、微塵の不安も、無い。そして、今回は、彼と共に力を合わせている。失敗なんてある訳がないのだ。


 そして、何となく、彼のやりたいことは伝わってきていて、自身がそれを分かったということも、彼は汲み取ったということまで分かっているのだ。だから、そうやって、全て彼の口から聞かずとも、命は預けられる。たとえこれが、普通に考えたら、無謀な策であるとしても、それを自分と彼が揃って、組んでやるなら、この上ない策へとなるのだと揺らぐことなく信じているから。


「「おおおおおおおおおおおおおお!」」


 二人は、声を揃えて走り抜ける――






 スタタタタタタタ――、ドッ、ザァァァァ!


 少年は足を止めた。


 長い長い地雷原の末端辺りまでやっと到達したから。


 建物の最初に潜った入口はそこから数十メートルという距離。しっかり見えている。だというのにそこで足を止めた。それはつまりこういうことだ。


「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

「キシャアアアアアアア」

 ・

 ・

 ・

「キシャアアアアアアア」


 構え、並ぶ、秋刀魚人たちは、叫びをあげるが、こちらへ近づいてくる様子はない。横一列に並んで、抜けることを許さない、とでも言っている風に。その数は、気付かぬうちに物凄く増えていた。数十ではきかない。百を越えて、存在している。


「仲間呼ぶんだらしいな。あんなにいるとはなぁ……」

「えぇ……。全部まともに相手なんてしてられないわねぇ……」


 一見絶望的な光景だというのに、二人はやれやれという感じで面倒臭そうにしただけ。それどころか、


「じゃ、リールお姉ちゃん。一旦下ろすで」

「ええ。お疲れさま」


 まるで、全て終わったかのような言いよう。二人は、その距離に、魚人たちが近づいてこないと分かっているのだ。少年たちが、また地雷原の奥へと戻っていったら、たくさん突っ込んできた魚人たちは数の利を活かせなくなる。


 だからといって、逃げに徹せられると数匹ではどうにもできない、それどころか、スター・ゲイズ・ジャンパーによる被害をまとめて被る可能性が濃厚。ここは、誘爆アリの地雷原だから。そうなれば、魚人たちといえどもタダでは済まない。最悪死ぬ。それも、その目は割と高い。


「ポンちゃん、休まなくていいの?」


 下ろされたリールが少年にそう尋ねると、


「大丈夫や。ここまでの勢いにあやかりたいからさ。……リールお姉ちゃんは、大丈夫……?」


 少年は、結局何だか不安になって、そう尋ねた。視界にその怪我の様子が入ったから。まともに見てしまったから。それに気付いたリールはすぐさま少年をフォローする。


「大丈夫よ。後は、最後の〆だけでしょ?」


 血は緩やかになったとはいえ、痛みは戻ってきているというのに、辛い様子など、微塵も見せない。


「そうやな! じゃ、やろっか。タイミングは任せるで、リールお姉ちゃん!」


 少年は、すぐ手前に埋もれ待ち伏せしていたスター・ゲイズ・ジャンパーを鷲掴みにし、さっと引き寄せながら抱え込むように引き込み、魚人たちの死角になるように念のためにしてから、ごりっと顔面を降り畳みながら擦って、歯を砕きつつ無効化というか、始末した。そして、それを懐に納める。


 それを見て、一瞬リールは驚きつつも、すぐ得心いったようで、うんうん、と笑いながら頷いた。






 二人は横に並んで座った。魚人たちの方を向いて。そして、リールが、少年に言う。


「準備はいい?」

「いつでも」


「じゃぁ、スリーカウントでいくわよ!」

「わかったで!」


「3、2、1、はいっ!」


 ヒュゥゥゥゥ――


 リールは、後ろ手に持った砂袋を、真後ろへと投げた。その、砂の重みでぐだっと伸びつつも、破れはしていないスター・ゲイズ・ジャンパーを、砂に潜っている背後数メートルのスター・ゲイズ・ジャンパー直下に向かって。


 ドスッ! バスッ、ガスッ、フゥアア、ゴォゥゥ、バチン。

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