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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第二章 禁忌跋扈す絶園の廃墟
196/493

---024/XXX--- 目覚めの呼び水

 ポタンッ――ゥゥオオオオオオウウゥゥウゥゥゥゥゥゥゥゥ――


 白い世界に落ちた、一滴。波紋。少年は、そんな白い世界の中で、横たわったまま、目を開いた。


(ん……、ん)


 ポタンッ、


 青黒い濁りが、広がってゆく。世界が一気に暗くなって、しかし、感じる温度は、どことなく、熱い。


(何処や、ここ?)


 ポタンッ、ポタン、


 少年の周りにだけ、それは落ちてきている。そうらしいと少年は気付いて、それらが降ってくる方向、上を、見た。濃く青い、ぼんやりと人の顔の形を入道雲のようなものが、そこには立ちのぼっていて、そこからそれは落ちてきているらしい。目があるであろう位置辺りから、丁度それは落ちてきていた。


 のそり。


 立ち上がる。


 すぅぅ、


 手を、伸ばす。右の人差し指を、爪を下にして、かざし、


 ポタン、


 (涙……?)


 感じた、熱。指先は、青く染まることなどしなかった。それは、唯の、透明な水。暖かな熱を持つ、水。だから少年は、それがそんな風なものに思えた。


(誰の? これは、誰なんや?)


 ポタン、ポタン、


 その間も、少年の指先に、涙は、降り続けている。


(よく分からんけど、何やこれ、何か物凄い不安になってくんで……。得体も知れない。根拠もない。けど、どこかも分からないどこかへ行かないといけないような、気がする)


 ポタン、ポタン、ポタン、


(どこへ? そもそも、俺、いつからどうして、こんなところにいるんや? それは置いとくにしても、何のためにそこに行かないといけないんや? 何かしないといけないことがあったような……? それすらも、……何も……、分からん……)


 じっと手を伸ばしたまま、上を見つめたまま、動かない。当然だ。何も分からないに等しから。何もかも足りないから。


 この、白い空間。地面と空気の境界も見えず、何処までも延々と広がっているのだから。昼も夜もなく、唯、白い。きっと、そんなところ。そして、静かなところ。だからどこにも、行けない。


 だから、伸ばした手を、力無く、少年は下ろした。


 




 ポトリ、


 水面のような地面へ、一滴が波紋となり、広がっていく。揺らぐ水面のような地面は、少年を濡らすことなどなく、少年を沈めることなく、格たる地面として存在している。


『行かなくていいのかい?』


 確かに、そう聞こえた。それは、なぜか、少年が普段自身が発した自身の声の感じと同じで、だがしかし、口調は全く違う。


 どこから聞こえてきているかは分からない。ぐるりと首と視界を一周させてみるが、音の大きさは聞こえ方は、全く変わらず。


「……」


 ある種の自問のようでもあったが、それは間違いなく、少年自身が発した言葉ではない。答えられない少年は、それに沈黙する。そして、どうしてか、心の中にあったもやもやとしたものが、大きく得体も知れず、膨らんでいくような不安に襲われる。さっきまでよりもずっと、強い。


(ぅぅ! あかん、こうやってここにいたら、あかんのや。だけど、何でや、これ、一体、何なんや)


 その声についてではない。そのえもいえぬ不安と、焦燥感こそ、少年を惑わせている。だから少年は、


 すぅぅ、


「どこに行けっていうんやぁああああああああああああああああ」


 思わず、叫んだ。


 少年の声で、世界が揺らぐ。光景が、白が、ブラックアウトを、断続するかのように繰り返し始め、数秒の後、安定する。


 止まっていた雫の落下も再び始まって、


 ポトリ、ポトリ、


『それは、呼び水。他の誰でもない、君を呼ぶがための、――――の、涙』


(何って言ったんや、聞こえん、肝心なところが……)


「聞こえん、誰か知らんが、もう一回言ってくれ!」


 今度は一瞬だけブラックアウトしただけ。すぐさま元に戻った。


『いや、その必要はないよ』


「頼む! 物凄く大事なことっぽいんや。だから、だから、」


 直前のよりは、少しだけ長く、一瞬ごとの、黒がついたり消えたりのブラックアウトの繰り返しが一秒程続き、収まる。


『耳を澄ますんだ。君の求めているものは、すぐ傍まで来ているよ』


 それと同時に、雫の音が、止まった。地面は波紋など起こさず、静止した。ブラックアウトも起こらない。


(何やっていうんや……)


 少年が、不満な顔をしたのも束の間、それは、


()()()()()()()()()()()()()()()


 確かに、くっきりと、はっきりと、その世界に、響き渡った。少年の耳にしっかりと、届いた。聞き間違えなどある筈ない。一文字たりとも聞き逃す筈がない。


()()()()


「「ドクン」」


(っ!)


 そうして、少年の心音が、鳴った。外からの何かの音と重なるように。白の世界は揺らぐ間もなく、一瞬で消え失せ、目に映った現実の光景。


 見間違える筈なんかない。一枚の半透明の膜に包まれた、リールが、そこにはいた。


「リールお姉ちゃぁあああんんんんんんんん!」


 立ち上がり、叫び、動き、出す。


 そうして少年は、目を覚ました。

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