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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第二章 苔生す嵐
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第百六十三話 新たなる乱入者たち

 場面は再び、甲板へ移る。座曳による確定したもう一つの手遅れ。それが顔を出し始める――






 ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――


 それは、船から数十メートル程離れた海域から飛び出して、左に逸れ曲がるような緩やかな放物線を描きながら、今、船のへり上空を通過した、一匹の巨大なモンスターフィッシュ。


 体長5メートル程度で、白銀色の細やかな鱗は鮭のものに似ている。だがそれは鮭ではない。その身は扁平な紡錘形であり、要するに、円柱の局面をぺたんと押さえつけて、両端を縛ったかのような形。


 何より、目元と口元が鮭のそれとは明らかにかけ離れている。顔の下方についた、上向きの口。更にその顔の口部分の下方側面についた両の目。その様子を喉元を押さえながら、苦しそうに見上げる座曳からは丁度、そんな特徴的な、逆向きについたかのようなその、コイに属するモンスターフィッシュの顔が見えた。


(何でこのタイミングで、【飛白連トビハクレン】が……)


 座曳はそれに対して何もしなかった。そのまま、船上の何もない空間をあっという間に通り過ぎてゆき、


 ウウウウウウウウウウウウウォォォォォォォォォォォォォォィィィィィィィィ、ザバァァンンンン!


 船を跨いで数十メートル向こう側に着水していった。しかも、そうやって見上げていたのは座曳だけ。他の船員たちはそれに誰一人対処しなかったどころか見向きもしなかった。唯、揺れによって崩れた体勢を素早く立て直して、目前の獲物への対処することを優先したから。そして、その対処の手は座曳の大声の前までとは違って、異様に迅速だった。


 ギィィィィィィィィィイ、ザバッ、ガスッ!

「よし、竿回収。はぁ、はぁ、お前らも急げぇえええ!」

 ギィィィィィィィ――

「はぁ、はぁ、言われなくとも」

 ギィィィィィィィ――

「ええ」

 ・

 ・

 ・

 竿を手にする者たちは急いで投げ入れた先を回収に掛かっていた。


 ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ!

「ぜぇ、ぜぇ、」

 ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ! ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ!

「はぁ、はぁ、はぁ、ちょ、あんた、私の竿取ってきてぇ……はぁ、はぁ」

 ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ! ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ! ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ! ガスッ、ズッ、バタバタッ、ガスッ!

「儂の分も、頼む……、ゲホゲホッ、がはぁぁ……、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、何くそっ……」


 ナイフ組の疲労は激しかった。それでも彼らは無理をして、一気に手につく範囲のモンスターフィッシュを殲滅しようとするが、何せよ、数が多い。次々おかわりは、打ち寄せる波に乗ってやってくるのだから。きりがない。


 それを見かねてか、


 ガスッ、カスッ、ガスッ、ガスッ、カスッ、ガスッ!

「ゲホゲホッ、手伝う。ゲホゲホゲホッ、だからじいさん、ちょい休んどいて」

 ガスッ、カスッ、ガスッ、ガスッ、カスッ、ガスッ!

「というか、俺らのコレ未だ数あるから、あんたらも使うといいよ。はいほら。ゲホゲホッ、あんま疲れないで済むし、それにほら、時間そうないだろ」


 と、ウォーターカッター放つ道具を持った二人の船員がそっちに加勢し、対処を引き受けると同時にストックがあるその道具を懐から出して、立ち上がって動くことができない彼らに手渡した。





 

 何故、たった一匹に座曳がそれだけ声を荒げたのか。そのモンスターフィッシュ【飛白鰱トビハクレン】に理由はある。


 そして彼らは息絶え絶えにそのモンスターフィッシュが飛来してきた方向を向いて、構える。遠くへ届きそうな、竿などの攻撃手段を手にして。


 他の船員たちがその一匹に対処しなかった理由は、それが飛んできた方向にあった。


 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ―― 

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――

 ・

 ・

 ・

 ゥゥゥオオオオオオオオオオオオオオンンンンンンン、ゴォォオオオオオウゥウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウ――


 まるで矢のように、左曲がりなカーブ軌道の、傾いた緩やかな放物線を描きながら、数十、いや、百に届きそうな数それが、次々と、海から顔を出してこちらへ、飛んできている最中だったからだ。


 距離は凡そ、船のへりから20~30メートルはある。絶好の狙い時のように見えるだろう。だが、彼らは未だ、何も放たない。()()()()()のだ。


 そんな彼らを座曳は見ている。その先の、大量の空走って迫り来る【飛白連】を見ている。


(分かってますよ。私も同じです、出した結論は皆さんと。高さと横幅に広がりがある、面単位での僅かな時間差がある、面攻撃。なら、こちらもそれに倣って、同時に対処しなければならない。できれば、()()()()()終わらせないといけない。こちらの第二射はまともに放てる状況ではないのですから。つまり、外せませんね、これは。喩え今、)


 歪む視界が、時折、その強い意思により、焦点が合い、また、歪み、激しい集中による凝視のせいで、それを一秒に何回も繰り返す、霞む視界。


(視界に歪み感じていようとも。私たちは終わってなどいないのです。未だ、です!)


 【飛白連】の群れのできるだけ多くを対処できるギリギリのタイミングを狙いつつ、すぐさま来るであろうその時に備えて、息を吸う。肺が喉が痛もうとも、やらねばならない、と強い意思で。彼は口を釣り上げて笑いなんてできない。それは結局のところ、彼にとって義務による行動でしかない。それは、彼にとって――敗戦処理だ。


 すぅぅぅぅううううう、


 先頭が、船のへりから10メートルの距離に入ったところで、彼らの背に向かって、座曳は立ち上がって、


「今ぁああああああああああ――!」


 叫んだ。

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