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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第二章 苔生す嵐
178/493

第百五十七話 緊張の糸は揺れ、切れて

 ザァァァ、ザバァァンン、ザァァァァ――

 ゴロゴロゴロ、ガララランンンン!


 船員たちは、戦っている。未だ余力が比較的残っている者たちは積極的に打って出ている。


 スゥゥ、ポチャン、グンッ、バォォォンンンン!

 スゥゥ、ポチャン、グンッ、バリリリリリリリ!

  ・

  ・

  ・

 スゥゥ、ポチャン、グンッ、パァアアアンン!

 

 両手の指に届く程度の数の船員は、釣り竿で、未だ距離が遠い、今出ているモンスターフィッシュたちの中では面倒そうなものに先手を打つ。引っ掛かったモンスターフィッシュを、それぞれ竿に付けたモンスターフィッシュ素材の針の効果によって殲滅する。普段なら腕が鈍るからという理由で使わない、こういった事態用の針で。船員たち同様、苔の浸食を受けるモンスターフィッシュたちは、それに加え、儀式による誘発効果で、釣り針が海に沈んだとほぼ同時に次々、押し寄せてきて、周囲を巻き込んで派手に散っていく。

 

 ギィィィ、シャァァァァ! ガスッ! ギィィィ、シャァァァァ! ガスッ! ギィィィ、シャァァァァ! ガスッ! ギィィィ、シャァァァァ! ガスッ!


 一人の船員は、自身の竿から取り外したモンスターフィッシュ素材の釣り針を、投げるように射出し、空中へと跳ね上がったモンスターフィッシュを貫く。モンスターフィッシュ素材である灰色の細糸を粘着させた、赤黒い斑点模様で蟹の殻のようなざらざらした、長さ5センチ程度、根元が直径1センチ程度で、先が尖っている、普段なら捕獲用に使っている針で。


 ガスッ、カスッ、ガスッ、ガスッ、カスッ、ガスッ――!

 ガスッ、カスッ、ガスッ、ガスッ、カスッ、ガスッ――!


 二人並んだ船員は、これまたモンスターフィッシュ素材らしい、とどめ色の掌サイズの、中身が空の二枚貝を、その辺のタルの中の海水に付けて、開閉することによって発生する、玉虫色の薄い色付きをしたウォーターカッターで次々に未だ距離が遠く、こちらに向けて接近する為の加速の準備に入ったらしい、動きの素早いモンスターフィッシュの一団を次々と仕留めていく。普段であれば実力により必中であるそれが、十中八九程度の命中率になってしまっていた。


 だが、彼らは無言だ。普段なら喋りながらという片手間にできることが、無言で集中しきらなければできなくなっていた。明らかに普段よりも実力は落ちていた。


 まともに動くには体力が足りていない船員たちは、二人一組で、互いに補完し合うように、できる限りその場から動くことなく、モンスターフィッシュたちをゆっくりと仕留める。こちらは、組になったものと話しながら。そうすることで、タイミングを、間を、空気を、合わせていた。普段ならそんなことしなくとも問題無く動きなど合わせられる筈なのに……。


 まともに動けない者たちの中の一組は、現にこんな遣り取りをしていた。


「休んで少しましになったようだけど……」

「思っていたよりも体が鈍い……」


 一流である彼らが、自身の体の調子を見誤るなど、本来あり得ない。これはそれだけ、彼らが追い詰められているということだ。それでも、


 バタバタバタバタ、ブゥオオオオオオ――

 シャッ、プシャァァ、ゴトン、バタバタバタバタ――、ザクッ!


 甲板でジェット噴射しながら高速で暴れ回っていた【ウイングエラガントユニコーンフィッシュ】をナイフで一刺しできる位にはその動きは鋭かった。それでいて、普段のように一撃で仕留められるように芯は捉えられていなかった。


「一撃じゃなくて、ゲホゲホッ、二撃いる、か」

「相当無理したよね、今の……」

「これだけ集中して、このざまだとは……」

「次は私が、やるわ」

「ああ、ゲホッ、頼む」

「ええ」


 まともに動けない者たちはどこも同じように酷い有り様だった。甲板上で二人単位で散在した彼らは、体の動きの鈍さ、体力の思っていた以上の消耗、それらを鑑みて、今の状態での、ほぼ最低限の動きで、そんな感じで比較的小型のモンスターフィッシュたちを次々仕留めていた。そのペースは、再戦から時間が経つにつれて落ちている。敵の数は、甲板を出て直ぐの頃よりも増えている、というのに。


 そして、


グゥォ、ガコォオオオオオオンンンンンン! バキキキキキメキメキミシッ!


 船全体が大きく揺れた。それは、足場を下から蹴り上げられたかのような衝撃。そして、その衝撃が最大に達したと共に、派手に木材が砕け散る音がした。


 誰もが見渡す。気を取られる。ほぼ同時に、彼らは声をあげた。


「何だぁああああ!」

「うおっとぉぉお!」

「っとおぉお、下かぁああ!」

「もしかして、穴、あいた?」

「下の奴ら、大丈夫か?」

「いやだが、今こっから離れられんだろ?」

 ・

 ・

 ・

「ひぃええええ、今、船浮かんだよなぁ、なぁ!」


 それでも、彼らは体勢を崩したりはしなかったが、座曳は違った。派手に転んだ。咄嗟に、通信機器と結・紫晶をそれぞれの手でしっかり掴んで、胸元に抱きよせるようにしてキープしたが、【ウェイブスピーカー】はぶっ飛ばされて、そのまま甲板から転げ、手摺りの欠損した部分から転げ落ちていった。他の船員が落ちなかったことが幸いだろうか。


 クーが、苔塗れの血反吐を吐きながら横を通り過ぎていき、扉が開いて、中へ走っていくことに、座曳

は気付かない。騒がしさと致命的な間の悪さもあり、扉が開き閉じる音にすら気付けなかったのだから。


 そして、顔を上げた座曳は、焦りに焦って、叫んだ。苔色の血反吐を吐きながら、叫んだ。何故なら、転ばなかったのは、座曳を除く船員たちだけではない。対峙する、大量のモンスターフィッシュたちも同様であるのだから。つまり、


「皆さぁぁああああんん、グゲホッ、ぐふぅ…―構えてぇえええええええええええええ!」


 そう叫んだときにはもう、()()()、だった……。

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