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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第二章 苔生す嵐
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第百五十四話 再び戦いの場へ

 そこは、外。船の甲板。


 ゴォォォォォォ、ゥゥゥウウウウウウ、ザァァァァァァァァァアアアア、ガラララランンン、ゴォォォォォォォ――!


 黒雲の空の下。雷鳴り響き、横薙ぎの冷たい雨吹き荒れる。それに加え、


 ザァァァ、ザァァァアアアアアアア、ザバァァアァアアアンンンーー!

 グゥゥ、ガタタタタタタタ――、ギィィィィ、ギリギリギリギリ――!


 激しい波が押し寄せ、海水が甲板の上にまで激しく押し寄せてくる。


『よく聞こえなくなってきたぞ。声張りつめろ、座曳ぃ!』


 通信機越しに、船長の声が周囲の騒音をもろともせずに響き渡る。


 船内への中央入口前の、壁にもたれかかって座り込んで船長との通信を続けている最中の座曳と結・紫晶を中心として、欠けのある同心円状に広がった船員たちは、残された力を振り絞って抗っていた。


 座曳は船長やケイトとの通信を行いながら、次の手を打っていた。時を少し遡る。船長からの通信が始まって暫く経った辺りへ。






『座曳。そりゃ、()()()()()()()()。船長という役目の辛いところだ。それが』

「でしょう? はぁ、はぁ……。()()()()()、一見どうしようもないような苦難、ですよ。はぁ、はぁ……。まるで、そっちには貴方一人しかいない……、はぁ、はぁ、ようではないようじゃないですか、船長」


 座曳の損傷は船員たちの中でも一際酷い。意識を失っていないだけであり、どう見ても戦闘不能だった。だが、頭は働き、未だ、できることはあるのだと、足掻いていたのだ。


 座曳は、依然、元・船長のことを船長と呼ぶ。こんな時代に、海を渡りながら、二手に分かれたことに意味を理解していつつ、座曳はそうしていた。未だ彼は、自身が代理であると信じて疑わないのだ。確かに名目上はそうだ。だが、明らかに、その役割としての適性は座曳の方が優れている。船長のカリスマの影響が未だ抜けきっていない船員たちもやがてそのことに気付くだろう。それでもきっと、座曳は自身を代理と言って憚らない。彼には、根拠無き絶対的な自信が、無い。それが、彼の適性を僅かばかり引き下げている。


『なら、言ってやる。俺の助言何ぞ、お前には意味は無ぇ。お前が最善と思うものを選んで、行動するだけで、仕切るということに関しては遥か上をいってんだよ。だから敢えて言うなら、好きにやれ、だが、躊躇するな。それだけだ。現に今、何をすべきか、もう頭の中で組み上がっているだろう? なぁ。息絶え絶えでも、お前はお前だ。そのタチを十全に近く発揮できてんだよ。代理だなんてもう思うな。お前が、船長なんだ。分かったか! 返事しろ!』

「はい! ()()()()! っ! す、すみません、グッ、ゲホゲホッ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、……」

「座曳、落ち着いて。問答に答える時間くらいは未だ十分にあるのだから」


 聞こえたその抑揚無くも綺麗で、しかし虚ろな女声に、船長は反応する。


『そいつがお前の相棒か。いや、相棒兼恋人、いや、妻、か? なぁ、だよなぁ。ははっ!』

「ゲホゲホッ、はぁ、はぁ、はぁ、……、はぁ。()()、たったとケイトさん、はぁ、はぁ、呼んできて、くださいよ。分かってんでしょ、()()()

『ったく。久々にお前から昔の呼び名で読んで貰えたって思ったら、あっさり元通りかよ。いや、……、俺、舐められてねぇか? なぁ、座曳ぃ』

「私、座曳の婚約者の、ゆいと言いますわ。こっちに今余裕はありませんの。座曳の精神フォローは私で十分ですから、どうか急いでその人を呼んできて下さいます?」

『あぁ、了解した。それとあんた。()()()()()()()()()()()()()()()()()






 船長やケイトが必ずしも解決策を以ているとは限らない。そして、その解決策がそれなりの時間を要するものであったり、必要な道具の準備があるようなものであった場合、結局使えない、無意味であるという可能性もある訳で。


 船長との通信が繋がったという希望から出た、前向きな、次善の行動である。


 休息が想定していた最悪よりはずっとまし、だが、期待値以下であったことを座曳は自身の体力の具合から認識していた。だが、他の者たちには言わない。彼らが自身程には正確に測りかねている、いや、普段なら間違えないであろうそこを誤っているということを、直接口にしてしまうこと、間接的にでも悟られて士気が落ちることを恐れたから。


(ゆい、頼みます)


 そう、座曳は船長との会話を続けながら、いつの間にか傍に来ていた結・紫晶に合図を出した。彼女が自身に言いたいことがあるということを無視しつつ、厚かましく、目で合図した。彼女は俯いてそれを受け入れる。


 彼女が立ち上がり、座曳の傍まで行き、両手を後ろにやって座曳に背を向けてしゃがむ。座曳は自身の体の重みを、躊躇なく彼女に預けた。


 そうして自身の体が持ち上がるのを感じつつ、向こうでケイトの元へ向かいながら通信機に耳を当てている船長に対して自身の今取ろうとしている行動の方針を説明しながら、結・紫晶に悟られないように、思いを心中で吐露する。


(そんな目をされての訴えなど、頼みなど、貴方の性格からして、きっと碌でもないでしょう……。私にとって。分かるんですよね……。貴方が本質的に、役割に縛られているのだ、と。あるんでしょう、きっと。間違いなく。この儀式を終わらせる方法が、用意されているのでしょう。そしてそれは、私にとって、何もかも意味がなくなる結果になるんでしょう、どうせ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……やはり、あの人たちは変われなかったのですか。なら、ここから先の展開に私は絶望しろとでも言うのですか……? どちらにせよ、バットエンドが見えているじゃないですか……。早いか遅いかの違いでしかない……。しかし、未だ、終わりは確定した訳ではないのです)


 そうして、彼女に軽々と運ばれていきながら、座曳は後ろをすっと見る。それに応じて、船員たちが一斉に立ち上がる。各自、戦うための道具を持って。未だ起き上がれない者たちもいる。それどころか意識すら未だ戻っていない者たちも。


 どちらかというと技師系の船員たちの一部がその場に残ることに自然となり、未だ起き上がれないようではあるが、手や頭はしっかり動いていそうな船員たちが立ち上がるのを他の比較的状態がましな船員たちが手伝う。


 そして、甲板へと続く扉の前。


「そことそこそこ。一人が扉を、開けつつ、二人は広がっていく隙間からのモンスターフィッシュの進撃に備えてください」


 ごくり。


 ギィィィ――

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