---011/XXX--- 予期せぬ副作用
一方その頃。
(……。苦しい……。痛い……。熱い……。体が、熱い……。焼けるみたいに、熱い……。右脇腹辺りが物凄い熱い。俺、死ぬんかな……)
あの部屋、666号室に置いてきぼりにされていた少年はちょうど、意識を取り戻したところだった。主に、右脇腹から発生する異常な熱によって。
(ここはどこなんや……。で、なんで俺一人なんや……。リールお姉ちゃんは? 魚人は? あかん、こんなところでうずくまってるわけにはいかへんやんか……)
少年はふらふらしながらも立ち上がり、自身の患部に目を向けた。貫かれて大穴が空いているはずの右脇腹を。
すると、そこには、沸騰するピンク色の液体のようなものと、とても醜悪で臭そうなのに、一切の臭いのない、茶緑色の煙だった。
ピンク色の液体は粘度を持ち、少年の穴を塞いでいた。そして、発生する熱は、そのピンク色の液体の膜の領域の内側で、臓器の欠損部の再生が行われていることを示していたのだ。
もっとも、シュトーレンは少年のそばに事情を説明する資料を一切残していってはいないので、少年がそれを知ることはないのだが。
本来、少年は動いてはならない状況だった。動くことで血液がさらに活発に回り、薬が効きすぎてしまうから……。
だが、少年はそれを知るよしはない。
そして、薬が効きすぎた場合の作用は、実は、シュトーレンも知らない。研究データにそれは一切残っていなかったのだから。
そして、その過剰な効果の一つが既に少年の体には出始めていた。
少年はふらつく足にむち打ち、なんとか、部屋の唯一の出入り口らしい扉の前に立った。だが、その扉は閉じられていたのだ。
シュトーレンなりの配慮であった。何もできない状況に置いておけば、きっと少年はただ休むであろうという。薬に、発熱の効果があるのは、患者を再生治療の間、じっとさせておくという目的もあったからである。
だから実はこの熱はかなり強力。39℃の熱を与えられるのだ。そして、少年は無理やり体を動かして、さらに頭まで回しているため、その熱は既に45℃を超えていた。
通常、いや、並外れたフィジカルを持っていても、どうしようもない温度。しかし、少年に打たれた薬は本来、大の大人に使うものであり、使用量が実は過剰だったのだ。それでも動かなければなんともなかったのではあるが、そのことは誰も知らない。
そして、過剰な薬は、少年を生かして、壊れた状態を正常な状態へと無理やりもっていっていた。この温度、脳細胞が死ぬのだ。
だが、薬の効果で、死んだ脳細胞は元通りに、何度も再生されていく。そして、それにあやかるように、脳の機能を強めていく。
だから、少年の頭は今でも回っているのだ。薬の効果はそう短い時間では切れない。数日かかるのだ。そして、汗の発生を抑える効果もあるため、水の補給もそう必要ではない。
45度は、大概の蛋白質が機能を失う、壊れる温度。だから、少年の体全体は、破壊と再生を繰り返していた。そして、それは少年に人間を辞めさせることになるのだ……。
尤も、少年自身がまだ知らないその出自からして、それが薬の作用の一つなのか、少年の持つ因子に起因するのかは定かではない
(この扉……。どうやって開けるんやろうか。あああっ。もう分からん。やから、ごり押しするでえええ)
ドっ
ボコーンンンンンンン
ドーーーーーーンンンンン
(あ、扉吹き飛んでもうた……。まあ今はそんなことより、探さんと。リールお姉ちゃんを。あの魚人たちが出てきたらきっついけど走って逃げるしかないか。うう、熱い。熱いけど、ちょっと慣れてきた気がする……)
どちらにせよ、少年がこの日、純人の枠から逸脱したことだけは、確か。




