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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第二章 腹の中の島
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第十四話 仕切り直しマイナス1

「皆さん、船長の代わりに私が指揮を取ります。幸い、船長は撃退のためのヒントをいくつか残してくれています。」


 初日にいた白い大部屋。そこに全船員が集まっている。船長以外の。そう、船長はいないのだ。しかし戦いは終わらない。


 全員が真剣な面持ちでそれを聞いている。前に出て船長の代わりをしているのは、銀縁眼鏡の茶髪の青年である。籠座曳(かござびき)という名前である。苗字は籠。しかし、その名で呼ばれることはほとんどなく、茶髪眼鏡とだけ呼ばれる、普段は気弱な青年である。


 座曳は、まるで探偵のように、理論立てて説明していく。普段の優柔不断さがなりを潜め、優秀な指揮官としての顔を出していた。


「一番目の手がかりは、あの光です。私には、あれが何か予想がつきます。あれは、モンスターフィッシュ、タイヨウアンコウのちょうちんでしょう。船長の体に、蛍光性の液体が付いていました。やや透明なタイプでしたので気づくのに時間が掛かりましたが。」


 このちょうちんには、一部のモンスターフィッシャーにしか知られていないもう一つの使い方がある。


 追い詰められると、ついているちょうちんを水中で、"爆発"させるのだ。爆発時は、強烈な光の玉がちょうちんの半径数mにわたって数秒形成され、それが消えた後に、水中を強大な音の波が駆け巡る。強烈で体の芯まで響き、内部から振動によるダメージを与える。その後に、波が暴れ周りるように叩きつけてきて、更なるダメージを与える。


 ちょうちんは、アンコウのエネルギーが十分なときであれば、爆発後数時間で再生する。このちょうちんの危険さのみで、モンスターフィッシュとして認定されたのだ。


 唾を飲み込みつつ、座曳は続ける。船員たちは驚きつつも真剣に耳を傾けている。


「それも、おそらく何やら人の手が加えられています。小舟を取りにいったときに、屋敷の一室に大量のこれがありましたから。それに爆発の威力が明らかに普通のものより大きかったですからね。」


 少年は、(うなづ)きながら座曳の仮説に納得する。ドクターがタイヨウアンコウを改造して、様々な機能のちょうちんを作っていることを少年は知っているのだから。


「二番目の手掛かりは、爆発の後、すぐにピラニアの第二群が来なかったことです。もう、狩りをするピラニアが尽きている。もしくは、あの光を警戒している。どちらかでしょう。」


 コロニーピラニアの性質と、今回の反応から導き出される答え。あのちょうちんのことを学習したという仮説。


「三つ目の手掛かりは、船長の体で、傷つけられていた部分が限定されていたことです。これが一番頭に引っかかりました。」


 少年は首を(かし)げる。


『それが一体何なんや? 確かに船長の怪我は想定していたよりもはるかに少なかったが、他の二つの手掛かりよりもそれが頭に引っかかるというはどういうことなんや。』


「傷は、肌が露出していた、首の部分と、腕の部分。そこだけだったんですよ。これは非常に奇妙なことです。」


 言われて確かにそうだと頷く少年。しかし、それでは少年が納得するには至らない。


「コロニーピラニアが敵を攻撃するとき、全身を攻撃するんですよ。そして、反応から弱点を探ると聞きます。これまでの例では、それに例外はありません。しかし、船長はまさに例外でした。ここに何か突破口があるのではないかと考えられずにはいられません。」


 モンスターフィッシュ大辞典に載っていない情報。少年は知らなかった。それが今の少年の限界であった。しかし、今は自身の視野の限界に打ちのめされてる暇はないのである。ピラニアたちへの対策を考えることが先決なのだから。


 集会が終わる。方針も決まった。こちらを警戒していて当分ピラニアたちには動きがないだろうから、その間にできる限り巣の場所を探索。絞り込みをかけていく。

 もしピラニアたちが近づいてきたらちょうちんを照らして追い払う。それでも追い払えないときは、ちょうちんを握りつぶして最悪だけは避ける。


 船員たちは、各自、再戦の準備を始めた。皆、目に火がついている。船長がやられて黙っていられるわけがなかったのだから。






 少年は、準備のために足を進める。右手で顎を触りながら上の空。座曳の言っていた三つ目の手掛かりについて、聞いてからずっと考えていたのだ。


『……。おかしい。確かにおかしいで。』


 船長が海に落ちてから襲われるまで少し間があったのだ。これは、通常ありえないことである。ピラニアたちは自重しないのだから。

 特定箇所しか攻撃されていなかったこと。ピラニアたちは、相手の弱点を探るために一度は必ず全身をくまなく攻撃するはずなのにだ。


 少年の中でますます強まる違和感。


『理由はあるんか?分からない……。しかし、何かある、きっと。』






 全員手早く動き、追加の準備を整えて再び東の海岸に集結していた。小舟には二人一組で乗り込む。各自二つ、ちょうちんを持って。

 船の横には、餌ブロックの壁をこびり付かせてある。高さは座り込んだ人の座高と同じくらい。


 また、壁ブロックに即効性かつ難解性の強力な毒を混入した。もちろん人には効かない。コロニーピラニアへの効果は、先ほど海岸の餌ブロックを貪っていたはぐれのコロニーピラニアを捕獲してテストしてある。


 念のために、船内に入り込んだコロニーピラニア撃退用にも餌ブロックを積んでおく。


 最後に、群れのリーダーっぽいものを見つけたとき用の、ドクター謹製の水中銃。"ジェット水中銃"。銃と言っても、玉は弾丸ではない。(モリ)である。銃身も、銃というよりは、小型の砲である。

 装填数は一発。重い引き金を引くと、すごい勢いで弾が加速し、空気中から水中に入っても真っ直ぐ飛ぶ。長が仕留められるとしばらく群れは行動不全を起こすのでこれを積んでいる。


 少年は、リールとペアである。二人は小舟に乗り込む。


「船長の(かたき)、討ちましょうね、私たちの手で。」


 先ほどの自身の行動を少年が怒っていないか。それを気にする暇は、今のリールには幸いなことに、なかった。心の奥に不安は残っていたが。


「やったろう、リールお姉ちゃん。俺たちで、絶対あいつら巣ごと消し去ったるでええ!」


 少年がこれまでに見たことのなかった、本気の釣り人の目をしたリール。少年は、先ほどの自身の行動でリールが怒っていないか不安だったが、そんな様子ではなかったため、安心できたのだった。

 少年は奮い立ち、自分たちのボートのスイッチを押そうとする。


「敬語とれたのね、うふふ。行きましょうか。」


 リールがそう言うのと同時にスイッチを押した。少年とのしこりは残りそうにないと、すっかり安心できたのだから。


『あ、ほんまや。敬語取れてるわ。まあ、えっか。』


 少年の心はだいぶ軽くなった。


 他の船員たちも少年たちの船のジェット音とともに、スイッチを押した。たくさんの掛け声、雄たけびが聞こえる。釣り人の、狩人の目。絶対負けられない大物狩りへ挑む。


 再戦が始まった。総力戦である。

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