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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第?部 第一章 静寂揺蕩う綺耽の廃墟
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---007/XXX--- 強襲蟻地獄

 突如、地面が砕けて巨大なクレパスとなり、遥か上空から、透明な硝子が砕けて砂になったようなものが流れ続ける。そんな巨大蟻地獄の発生した。魚人たちはそれに落ちていく。少年とリール共々。


 そして、少年とリールと全ての魚人が落ちたところでそれは止む。


 で、何事もなかったかのように、しきりなく降り注ぐ硝子砂は止み。地面がぱりぱりと音を立てて元通りになった。


 蟻地獄発生地点から遥か先。そこは、この地に存在するある、数十年前のオーハーツ群である巨大な施設。金属と脂と人工的化学合成物から成る、特異な施設。電子を利用したこの場所だけの閉じた通信群。多くのタンクや金属でできた四角い建物。そして、地下数十層にも広がる禁忌の研究の場。


 ここは、件の水位上昇以前の英知を駆使して作られた、物理学・化学・生物学・地学の複合研究所だったのだ。それも、表向きにできない、最先端、異端の研究の……。


 この場所に漂着した3人のうち、無事である唯一の人物、シュトーレン・マークス・モラーは、その中心管制室に居た。


「ぎりぎり、間にあったか」


 シュトーレンには、感傷に浸る暇は与えられていなかった。なぜなら、超高精度の、実際に近くで目視するのと変わらない程度の情報量を持つ微小精密3Dカメラ群により、少年とリールが襲われ、片方は瀕死。片方は片足を失う重傷を負っているのだから。


 なお、この研究施設に付随していた、危険種感知システムによってシュトーレンはそのことに気付いたのであって、シュトーレン自身が二人の様子を確認しようとして気付いたのではなかった。


 防音設備完璧な部屋の中で鳴り響く激しいアラーム音を聞いて、シュトーレンは仕方なくその映像を見たのだ。


 そして、目の前に飛び込んで来た惨状。


 今すぐにでも助けないと、命が危ないという状況。特に少年は。


 シュトーレンはそう判断し、手荒ながらこのような手段を取ったのだ。宝の山を漁ることを一瞬の躊躇なくやめ、シュトーレンはまだ読んでいないマニュアルを並列に表示し、それらをできる限り早く頁送りしながら目を通していき、最もよさそうなのが、この蟻地獄だったのだ。


 魚人たちを装置を使って追い払う、撃退するという手は使えなかった。すぐにでも少年を傍へ連れてきて治療しなくてはならなかったから。


 シュトーレンにとって、これは苦渋の決断だったのだ。


(この、"強襲蟻地獄"を使ったとういことは、この研究施設内に奴ら魚人を入れてしまうことに他ならない。たとえ、蟻地獄に落とした後、対象をより分けて別々にできるとはいえ……。奴ら魚人はイレギュラーなのだから。だから、このマニュアルの、"強制蟻地獄"の頁にはこう記されているのだ。)


 シュトーレンは、オーハーツともいえる、有機的な物質でできた、軽量低電圧量子コンピューターをなんとなくで使いこなし、マニュアルの相当頁"強制蟻地獄"の項を再び読み返していた。


『何があろうとも、腎臓種、特に、高度知性魚種、自律移動性魔化水生植物、魚人、化学生物、に対して使用することは避けてください。学習されて、二度目はありません』


 シュトーレンはそれでもこの装置を使うしかなかったのだ。この、"強制蟻地獄"には二つの目的がある。一つ目は、対象を捕える(落とす)こと。二つ目は、対象を傷つけない、さらに、傷を覆っていても、保たせること。


 なぜなら、この島は閉じられた実験島なのだから。何があろうとも、島の外に秘密が漏れることは許されはしない。


 そして、全ての問題は、島の中で解決しなくてはならない。だからこそ、この二つなのだ。


 そして、残った最大の問題は、タイミングである。発動のタイミングをいつにするか。これらの魚人にいきなり仕掛けても、その全てを巻き込めるとはシュトーレンは思えなかったのだ。


 今よりも遥かに知識と技術の蓄積があった人類。その中でも秀でた者たちが集まっていたであろうこの場所でのカタログの表記が、あれだったのだから。


 最低でもミスせずに、少年を持つ魚人とリールを持つ魚人だけは絶対に落とさないといけなかった。魚人たちの知能の高さは、映像からの観察と残されたデータから、人。それも有能な部類の人に匹敵するとシュトーレンは結論づけていた。


 だから、あそこにいる全てを落とさなくてはならないと、神経を集中させて映像を見ていたのだ。隙を突くべく。


 あの魚人たちの身体能力では、蟻地獄は感知されていれば避けられるらしい。そして、幸い、今少年たちを運んでいる種は、まだ蟻地獄を学習していないらしい。だから、チャンスは一度。


 シュトーレンはは驚異の集中力と、突飛な基点により、それを成し遂げたのだ。蟻地獄の上の上空から落下してきた硝子砂。あれは蟻地獄用の罠ではなかったのだ。海岸部の拡張のための砂だったのだ。それを座標指定して投下したのだ。


 それが決め手となって、蟻地獄へと全ての魚人たちを落とすことができたのだ。





(あとは何とでもなる。二人が保ってさえくれれば……)


 蟻地獄に落とした対象をえり分ける機構。そんなものが存在しており、フィルターとなるのは、生物の機構。ある程度法則化された分類に従った動物種ごとに分けられるのだ。そのため、穴が繋がっている地下に存在する飼育所兼研究部屋は、十万個以上存在しているのだ。


 それぞれの部屋に、維持、改造、解剖、増殖、休眠のための施設があるのだ。そして、そのうちの一部屋。部屋番号666番。そこが人間主、つまり、ヒトの研究保管部屋なのだ。


 シュトーレンはその部屋の位置を確かめ、中央管制室を後にした。必要な情報の全てを一目で頭に叩き込んで。シュトーレンは完全記憶能力を持っているのだ。それも、自身の意思でオン・オフできる。


 太っていながらも、俊足を誇るその足で、シュトーレンは跳ねるように目的地、研究保管室666(ヒト)号室まで一目散に駆けていったのだった。

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