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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第一章 外なる海へ
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第百三十話 夢覚する、遠回りで露骨な罠 中編

 そうして始まった説明は、

 

「原種は、カツオノエボシ。電気クラゲであり、猛毒クラゲであったという、元からモンスターフィッシュみたいな奴らだ。青く透き通った体をしてて、半透明な青基調な鳥帽子のようなクラゲに類されるかのようなこいつらは、厳密にはクラゲじゃなかった。どちらかというと、イソギンチャクやサンゴに近ぇ」


 ほんの少し前の話の焼き増しのような繰り返しから始まった。だが、それは、情報量が、前話したときとは異なっている。僅かに増えている。


「えぇ~? また話戻るの~?」


()()()()()()()。俺は疲れている、いちいち言わすな」


 船長は気怠げに、投げやりに、理不尽にそう言った。


「……。分かった」


 少しの沈黙の後、ケイトはそう間延びせず、答えた。






「クラゲもイソギンチャクもサンゴも、刺胞動物な訳だが、こいつらを分ける違いが何かというと、浮遊性か、固着性かってこった。海を漂うか、岩などに張り付いたり自らがカルシウムの殻を覆ったりするのがイソギンチャクやサンゴ、纏めてポリプとも言うな。で、刺胞動物という所以は、こいつら、言葉通り、刺すんだよ。刃物の一突きというよりは虫刺されに近い。」


「そんな基本的なことは知ってるよ~。普通に、クラゲに刺された、で伝わるよ~」


 そうリールはだるそうに答える。先ほどまでの流れをなぞるように、船長もケイトも殆ど同じ遣り取りを続ける。


「まぁ聞け。こういう確認が大事なんだよ。それに、俺がわざわざ話すってことは意味があるってことだ」


「はぁい」


「で、カツオノエボシだが、こいつはさっきも言ったが、厳密にはクラゲじゃねぇ。なぁ、何だと思う?」


 それを、待っていましたと言わんばかりに、ケイトは自信たっぷりと答える。わざとらしい位に大袈裟に。


「クラゲと、イソギンチャクやサンゴの間の生き物~!」


 ケイトもモンスターフィッシャーだけあって、こういう、ほぼ秘匿情報となった、それも絶滅したモンスターフィッシュについての話なんてものには興味があるらしい。それに、船長がこうやって口にしている話は、今の時代、オーハーツ的な知識となっている。


 本来非常に重要で、言い方がおかしいかもしれないが、流行っていていやそれどころか、一般常識になっていてもいい位、この時代には重要な筈の、生態学、分類学。その知識は、最早、僅かな知識持ちと、図書として残るばかりである。


「けぇっ。ちょっとは迷えよ。正解だ、って、ぷっ、言うと思ったか。それじゃ、半分だ。氷河大融解からの海水面上昇後の早い時期に数々の危険なクラゲ、イソギンチャク、サンゴの変種は大量に発生してんだよ。村滅ぼした変種なんて、カツオのエボシ変種兼モンスターフィッシュ【ヒドロピカリ】以外にもいんだろうが。両の手を超える村々どころか、都市の一つすら落してみせた種がよぉ。お前が一番よく知ってんだろう?」


「……。えぇ」


 きっと、現実側で、ケイトは唇を噛み締め、歯を軋らせたに違いない。


「不可逆性と、再現性。つまり、一代限りの変異でなくて進化であること。そして、何より、特異性だ。世界が変わる前には考えられなかったような、既存の生物に当て嵌まらない稀有な夢のような性質や、その種単独で人を滅ぼしうる因子足り得る危険性、だろうが」


「それが……何だと……いうの」


「つまり、数か、神代の化け物のようなネームドがまるで種として複数存在して意思持って相対してくるところだろうが。で、こいつの場合は、数。それが脅威()()()


 ()()()()()()()()()()()を過ぎる。


「分かった。けど、『だった』?」


「あぁ。こいつらは、無性生殖で、養分さえ足りてりゃ、どんどん嫌な勢いで増えていきやがった。それに加え、さっきの問題の残りの答え半分の半分、こいつはある意味、フグの仲間ともいえる、だ」


「ああぁ、毒!」


「そう、それだ。【ヒドロピカリ】の原種、カツオノエボシは、電気クラゲである。フグを上回る程の強力な、人殺す毒を持つ毒クラゲである。そして、これが最も面倒な性質。カツオノエボシは、ヒドロムシの群体である、だ」


「……。…………。えっ……?」


 ケイトは素面に戻るほどの衝撃を受けたに違いない。






()()()()()()()()()()()()


 暫く続いた沈黙の後、先に口を開いたのは船長。未だ船長とケイトの遣り取りは続いている、となるらしい。つまり、ケイトの記憶の再生は止まったまま、その遣り取りは続くことになる。


 船長は顔も見えないケイトの現実でに表情と、心に落ち着きが戻るタイミングを見計らったかのようにそう言って、話を続けようと暗に言ったのだから。まるで夢の外が、見えているかのよう。


「原種の地点で、人を殺せる力があって、数が爆発的に増えていく性質があったってこと、よね……。でも、言い方からして、それだけじゃないでしょ……?」


 ケイトは付き合う方針で行くようである。


「こいつは、寿命が無ぇ。寿命の上では不死なんだよ。栄養状態などの環境が整っていりゃぁ、理論上は永遠に生き続ける。そしてこいつらは、暖かな海を好む。世界が変わる前で、だ。つまりぃぃ?」


 ヒドロムシとは、ポリプが発達したもののことを特に指す。それの群体ということ、そして、


「……。カツオノエボシは、世界中で大量発生しながら人々を殺戮しつつ、変異種まで出て、その性質は更にタチが悪かった、ってこと……ね……。私が逃したアイツがバラ撒いた菌の性質に……似て……、いいや、これが、発想元?」


「多分な。そして、カツオノエボシ変異主、そして、最初期のモンスターフィッシュである、【ヒドロピカリ】。こいつはな、原種の持つある性質を悪辣に強めた特性と、それを最大限に生かす為の特性を得た」


「未だ、続くの……?」


「最初にモンスターフィッシュなんて分類を作った大きな原因の一つなんだぜ。これ位、当然だろうが」


 ケイトが仄めかす通り、それは、余りに船長らしくない、脈拍無く、意味無く、きりなく進んでいく話。

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