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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第二章 腹の中の島
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第十二話 悪意の群れ

 三人はそれぞれ役割を決め、動き出した。


ドクターは自宅へ戻り準備を始める。まずは、ドクター自身が改造して資源集めに活用しているジャリジャリバキュームヒトデの回収。ピラニアたちにとっての、生きている食料は、海中にいる分ではこのヒトデのみである。

 ドクターは自身が作成した特製の笛を吹いた。人間には聞こえない高周波の音を出す。ヒトデたちをこの周波数の音に反応してその発生源に集まるように改造してあったのだ。


 次に、ジェット小舟を大量に用意した。一隻だけではとても足りない。今海に出ているピラニアたちの相手だけではなく、巣の捜索も同時に行う必要があったからだ。


 巣の捜索のために、底面に直径数十cmのレンズを付けた。海の底を拡大して見ることができる。ピラニア誘導用兼壁として人工餌のブロックを板状にして丸めたものを積み込んだ。少年が提示したアイデアである。


「なんとか頑張ってください……。」


 東の海岸の方向を向いて、目を瞑って祈るドクター。科学者なので神などは信じてはいない。しかし、祈らずにはいられないのだった。全員の無事と成功を。






 走る。駆ける。町を。少年は、他の船員たちを集めようと町を駆け抜けていた。平然とした顔を保つ少年。船長と相談して、こういう役回りになった。


「いいか、お前は、あいつら探して集めてこい。全員でなくてもいい。とりあえず、声かけてドクターのとこ行くように言って回れ。」


 今より少し前、東の海岸。ドクターが自宅へと戻った後のことだった。


「え、俺よりもおっさんの方が町のこと分かってるやろ。俺ただおっさん探し回って、てきとーに走り回ってただけで、どこに何があるかほぼ分からないんやけど……。」


 戸惑う少年。


「おいおい、もし俺が探しにいって船員集めようとしたらな、目立つだろうが。俺が真剣な顔して走り回ってたら、かなり怪しいぞ。この町平和そうだろ。だから、大の大人が必死な顔して走り回ってたら、なんかあったのかなと勘繰る奴が出てくるんだよ。」


『確かにそうやな。これは俺の役目や。』


 少年は気を引き締めた。


「最悪、この町がなくなる。住民たちが皆ここから出て行ってな。俺はそんなの見たくねえ! こんなおもしろいところ無くなったら悲しいだろうが。」


 船長は本当に悲しそうにしている。たまたま事故で訪れた町のことなのに、本当に入れ込んで心配しているようだった。


「行け、ボウズ。お前なら顔に出さずに立ち回れるだろう。行け。」


 人差し指を真っ直ぐ立てて二度振り下ろし、町を指す船長。額に汗をかいており、焦りが垣間見られる。少年は急いで階段をかけ上がり町へと向かった。






「くそっ、きりがねえ。」


 船長は、人工餌のブロックにめり込んでいるピラニアたちを正確にナイフで突き刺す。幸いコロニーピラニアにはナイフが通用する。頭以外の部位なら、ナイフの一突きが当たれば死体に変えられるのだ。とはいっても非常に危険な行為である。力強く飛び跳ねたピラニアがブロックから抜け出たり、突き抜けたりして船長を襲う可能性が十分にある。

それも承知の行為である。


 船長は、レンズ取り付け済み、餌ブロックシートなしのジェット小舟に乗り、巣の探索と襲い来るピラニアたちの撃退を行っていた。


 大量に用意した一辺20cmの立方体の餌ブロックを釣竿につけて、海へ降ろす。影が集まってきたと思ったらすぐ釣り上げて、船の上へ。

 ブロックを向きを変えながら六面全部を船底に叩きつける。それでピラニアたちはめり込み、出てこれなくなる……はずである。そして、めり込んだピラニアたちを的確に刺していく。それをひたすら繰り返していた。


 ブロックがぼろぼろになったら死体ごと海へと投棄し、次のものへ付け替える。全て尽きたら、海岸へ戻ってブロックの積み直しである。

 もう数十回往復していた。服は全体がピラニアの返り血で染まっている。刺すときに勢いよく血を噴射するからである。


 終わりない戦い。船長はどんどんと疲弊していく。


「早くしてくれ、ボウズ。俺だけでは長く保たないぜ。」


 船長は独り呟く。弱音。海岸を見る。まだ誰も来ていない。






 少年はついに船員を見つける。町の西の門のトンネル越しに見える通り。その通りにある何やら大きな建物。大きな船のマークが掛かっている建物。

 その前に積んである四段の木箱の上に座って、暇そうに、だるそうに足をばたばたさせながら(たたず)んでいる一人の女。


『赤ボーダー女だ。』


「どうしたの~、少~年。船長といっしょにあの山の上の大きなお家へ行くんじゃなかったの?」


 そう言い、木箱から体を振り子のようにして勢いづけて飛び降りる。そしてこちらに歩いてくる。そして、覗き込む。少年の顔を。近い、とにかく近かった。にやにやするボーダー女。


「ケイトさん。」


 ケイト・スピナー。だから呼び名はケイトである。


「もしかして~、また船長が何かやらかしたの。」


 こちらを心配そうに見つめている。近い。


「ケイトさん、落ち着いて聞いてください。」


 少年は深呼吸する。落ち着けていなかったのは少年の方だった。顔に出ないだけで。


「緊急事態です。」


 ドクターの言葉を借りる少年。真剣な目つきに変わるケイト。そして、さっと経緯を説明した。






『まずい。どんどんピラニアたちが餌に食いつかなくなってきやがる。数が減ったからではないな、こりゃ。ほぼ無数に水中に影があるぜ。』


 つまり、学習され、警戒されてきているのだ。


『餌ブロックの見かけや味や臭いを覚えて近づいてこないのか、俺や乗っている船を認識して、危険だとして近づいてこないのか、判断がつかないが。』


『ただ、時間を与えるのはまずい。餌を貯蔵していて、まだまだピラニア共が湧いてくるかもしれない。もしくは、俺の穴を突いて襲い掛かってきたり、海岸に上陸するかもしれない。』


 船長は、舟に乗せている餌ブロックがまた尽きたことに気づく。岸に戻り、ドクターのとこへ行き、使えそうな物でも探すことにした。他の策を用意する必要を感じたからだ。


 ジェット機能を使い、海岸へとひとっ飛び……のはずが……。


「うおおおおおおおっっ!」


 噴射の瞬間だろうか、ピラニアが数匹まとまって進行方向から見て右側から船長目掛けて飛んできた。バランスを崩し、船は転覆する。


 船長は、落ちた。ピラニアたちのいる海へと。

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