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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第二章 腹の中の島
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第十一話 白き町に来たる異変

 少年と船長は小舟に揺られている。"ジェット小舟"。ドクターがつくったターボ機関がついた船。危ないと思ったらこれで逃げろとのことだった。

 舟の一方の先端にボタン式のスイッチがついている。それの押し具合によってもう一方の先端に取り付けているターボ機関、所謂ジェットの出力が変わるようになっているのだ。


 まだ若干錯乱しているドクターは浜辺に残し、二人はターゲットへと接近する。決して気は抜けない。二人はこみ上げてくる唾を飲み込んだ。

 画面の中央が点の密集地にきている。少年は、試しに釣竿をおろす。


 竿には、"人工餌"をつけている。一辺20cmの立方体。様子見ということでこのサイズとなったのだった。

 人工餌は、水につけると徐々に沈んでいく。ドクターが開発した、モンスターフィッシュ専用の餌である。これについた噛み付き(あと)でモンスターフィッシュの種類を特定するらしい。


 材料はドクターが改造したジャリジャリバキュームヒトデの集めた粉である。見かけは、安いソファーの中のスポンジのようなもの(いわゆるチップウレタン)であり、色々な色の塊が混ざったモザイク模様をしている。


 水につけてすぐ、食いついた。何か小さいものが食いついているようである。少年は強い違和感を覚える。ここの海は透き通って底まで見えるはずであるが、黒くもやっとして見えない。


『これ、まずいんちゃうか……。』


強烈な嫌な予感。水面には影が集まって来るのが見える。


「今だ、引き上げろ!」


 集中していた船長が指示を飛ばす。船長の声に反応して、少年は竿を引き上げる。


 しかし、実際引き上げてみると、

「消えているで、餌が……。おっさん、跡形もないんやけど、これ。」

餌は跡形も無くなっていた。


『……。おかしいでこれは。』


 このブロックは並のモンスターフィッシュでは容易に引きちぎって食えない餌だそうだ。しかし、その餌が一瞬で消えたわけである。

 二人は必死にその理由を考える。数が予想以上に多いのか。食べるスピードが異様に早いのか。何か大きなモンスターフィッシュが丸飲みしたか。

 船長も不安に囚われる。相当やばいやつが紛れ込んだのではないかと。しかしまだ正体は分からない。だから引き返すわけにはいかない。二人は冷たい汗を拭い、作業を続行する。


 もう一回。少年は餌ブロックをつけて垂らした竿今度は一瞬で引き上げる。引き上げる途中のの立方体から何か飛び出す。船長は見逃したが、少年はその姿をしっかりと捉えていた。


 少年の顔は青褪める。恐怖で。その様子を見た船長は、ターボのスイッチに手を置きながら少年に尋ねた。


「おい、どうした? さっきのあれ見えたのか、お前? その反応からして正体分かったんだろ。」


 少年は青褪めて震えている。両膝と両手を舟底について、反応しない。


「おい、おい、ボウズ、あれは何だったんだ? おい、おい……」


ゴトン。

ぴちゃぴちゃぴちゃ。


 船長が少年に必死に呼びかけていると、舟の中に何か飛んできた。物音のする方を見てみる。船長の乗っているスペースの後ろ、それは、いた。


「わあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。」


 絶叫しながら、船長は辺りを見回し、積んである人工餌を見る。一塊掴む。叩きつける、それに。塊にそれはめり込む。それごと投げる。


「海へ消えろおぉぉぉぉぉぉ。」


 そして、即、ジェットスイッチを押して逃げる。響く強大なジェット音。


ブゥゥ、ゥゥゥゥォオオオオオオオオオシャアアアアアアアアアァァァァァン。


 浮く、浮いている。スイッチを強く押しすぎて、舟は浮いている。叫んだままからさらに口を開こうとして、船長は(あご)が外れた。


ゼゥアアアア……、ドシャ、ドシャ。


 海岸へとひとっ飛び。着地。二人は吹き飛ばされた。


「ほんふはーひっひゅ、ほほひーひはひはは。」


 動揺する船長、顎が外れて言葉になっていない。少年は依然として、顔面蒼白で固まっている。


 その様子を見たドクターは察した。ただ事ではないと。モンスターフィッシュに挑む狩人である二人が見ただけでこうなる相手……。


 とりあえず、二人を元通りにすることにした。話はそれからである。






「よりにもよって、コロニーピラニア……。この町も終わりですか……。」


 残虐の化身と畏怖される、単体であっても、出会えば逃げることを推奨されるほどの危険度を持つピラニア。群れになると危険度は天井知らずになる。あまりに危険過ぎて、この時代を生きる者であれば誰もが知っている。


 失意の底に沈むドクター。緊急事態どころではい。事実上、滅亡へのカウントダウンであるのだから。

 ドクターは自身の研究室まで二人を引っ張ってきて、少年を正気に戻し、船長の顎をはめ直したした。


 数いるモンスターフィッシュの中でもずば抜けた危険度を持つ、群れをつくるピラニア。考えたくもない程、たくさんの危険な特徴を持つ。


①狩りをするときは群体で活動する。その群れの中には司令塔をこなす長がいるため、一匹の巨大な魚のように振舞う。


②また、非常に大食いである。すぐに体に蓄えた栄養を使いきってしまうため、絶え間なく腹を空かせて獲物を探し続ける。周囲の海域の魚が全滅することもある。


③学習する。群体の中の一個体が経験したことは全個体に共有される。つまり、時間が経つほど危険度が増す。


④異常なほどの攻撃性。一匹あたり20cm~30cm程度の大きさである。非常に強靭で生命力に溢れる。獲物や外敵に向かって突進して攻撃する。協力なジェット器官を(えら)の裏側に備えており、非常に硬い頭部を持つため、その突進は岩をも砕く威力がある。掠った場合は営利なヒレで切り裂かれることになる。


⑤数十分、陸地での活動が可能。その高い瞬発性を活かし、水を蹴って陸上へ自力で上がる。跳ねながら獲物を探し、見つけたら体当たり。自身の数十倍から数百倍の獲物であっても海に引き摺り込む。


⑥産卵期が巣によってばらばら。産卵期の間、雌の栄養が豊富である限り卵を産み続ける。十分な栄養が得られる限り、すごい勢いで群れは増大してしまう。雄の孵化と成長は、産卵からわずか2時間で済んでしまう。


 深刻そうな顔をして三人はひたすら考え込む。そんな沈黙が続く中、船長が口を開いた。


「こうなった以上、もうやるしかねえんだ。ボウズ、ドクター。俺たちのやらないといけないことをまとめる。よく聞け。」


『こんなに困ってるやつは放っておけねえ。どっちにしろ、あのモンスターフィッシュをなんとかしないと俺たちも詰むんだ。今のままだとここを出ることは不可能だからな。』


 船長の言葉に二人は頷く。


「コロニーピラニアの殲滅もしくは追い払いの条件は、雌の殺害か、巣の破壊。どちらの条件でも残骸を見つけるまでは決して安心できない。」


 コロニーピラニアは、雄がたくさん、雌が一匹のみという、ハチと似た生態を持つ。ただ、巣作りと、雌が死んでから次の雌が生まれて生殖可能になるまでに掛かる年月は数年では足りない。だから、雌の殺害か巣の破壊で事足りるのだ。


「それと、ピラニアたちの陸への上陸を防がないといけねえ。島の住民にこのことがばれるのも避けないといけねえ。」


 これら3つを同時にこなさなければならないことを三人ともしっかりと認識したのだった。

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