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モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第一章 外なる海へ

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第百十六話 真主・騙し絵鯉錦

「時間はそう無いわよね」

「そりゃな」

「あいつらがこうして包囲続けていられるのにも時間制限あると思うが」

「あるだろうが、それに期待しちゃいけないだろうさ」

「打開よ、打開。こっちから攻めるべきよ」

「ケイト姉さん。引き摺り下せばいいんだよな。じゃ、俺らに任せてくれんかな。空釣りなら、俺らは、姉さんや、海人兄さん以上だと思うぜ」


 三人組の中年親父たちが、そう気さくに、頼り甲斐ある雰囲気で、自信ありげにそう言った。俺たちに任せろ、と。


 ケイトもこれには思わず、ニヤリとする。だが、すぐさま顔を引き締め、


「じゃ、お願い! でも、恐らく、チャンスは一発。奴らは、一発目は必ず見に回る。菌の性質が変わっていないなら。そして、二度目のチャンスは無いわ。打てる手は限られている筈。他にも後に何が待ち構えているか分かったもんじゃないの。だから、確実に引っ掛ける為に必要なものがあるなら、何でも言って。何とかするから!」


 頭を働かせた。唯任せて終わりにはしない。できる限りのことを、して、詰める。成功の確率を、全てを他人任せになんてしないで、埋める。それでいて、任せる部分は全て任せる。状況を、場を、整える。


 正に、ケイトは、理想的な指揮官だった。


 だが、それでは、足りない。


 ケイトは知っていた。今回相対している、準モンスターフィッシュたちは、純然たるモンスターフィッシュにカテゴライズされる者よりも、ずっと悪辣であると。


「みんな、急いで! 兎に角、打つ手は決まった。新手が現れないうちに、あれを処理しないと、届かなくなる!」


 ケイトが叫び、自立自走できる船員たちは、各自、動き出し――ブゥゥッゥゥゥゥゥゥゥゥ、ガゴォォォンンンンン!






 突如、波打つ轟音と共に、大きく揺れた船。少しばかり浮かび上がりさえしたかのような、衝撃。


「な、何だ!」

「大波に当たった?」

「違うでしょう、これ! 何かがぶつかってきた。正確に、真横から!」

「新手か!」

「まだ気絶してる奴ら、大丈夫か、これ?」

「俺ら見に行ってくるから、他の奴らはたったと考え纏めといてくれ」


 船員たちは、それらに対して臆することなく、頭を働かせ、それに向けての考察や対処を始める。誰一人体勢を崩しておらず、もう行動を分担し、動き出していた。


 船長やケイトといった、この船の中枢である人物の指示なくとも、彼らは、差し迫った状況に陥っても、それだけのことができるだけの経験と力量があるのだから。


「っぅぅっ! 来るぞぞおおおおおおおお!」


 持ち前の直感で察した船長が叫ぶ。その直後、刹那、


 ザザザザザザザザゴアアアアアアアアアアア――――ザバァァァァアアアアアアア! バォンボォン、バォンボォン!


 それは、現れた。


 それは、空に掛かった、巨大な幕。船の左舷、凡そ、20メートル先程度に現れた、白とオレンジと赤と黒の斑点模様をした、風に揺蕩いながら、船との距離、海面から10メートル程度という距離を保ちつつ、海水をその身から垂らしている。船を覆ってしまえる程の面積を持つ、船の上、左舷からの景色を塗り潰す、まるで怪奇現象のような、何か。


 目はなく、耳も口も鼻も、なく、巨大な帆が風で揺れるような音を鳴り響かせながら、それは、確かに、こちらを捉えている。


 それが、今こうやって、この船を襲っている脅威と関連するものであることは間違いない。そして、船長は、その莫大な経験値から、それこそが、迫り来る脅威たちを率いる真の主である、と悟った。


(ってことは、浮かんでってった奴は副官か? それか、こいつの一部か、この浮遊を補助する、浮きみたいなもんか? どっちにしろ、片方だけの相手をしている訳にもいかねぇ)


 船長は、ちらり、と目の端でケイトを一瞬、見る。その、目の動揺、しかし、恐怖ではなく、困惑と疑問がその殆どを占めていると気付き、


「出てきた、か。どうやらこいつ、統率していたらしいな。ってことは、おい、ケイト。お前は、もう一体の方を何とかしろ。さっきの奴らと上手くやってくれ。俺がこいつは何とかする」


 ケイトはこくんと頷く。


(どうやら、何やら有効そうな対処法が頭にあるらしい。)


「ほら、残ってる奴らは二手に分かれろ。相手してぇ奴の方になぁぁ!」


(さぁて、どうなる、か。やっぱ、外海は、スケールが違うじゃねぇか。これ位、何とかできねぇようなら、俺らに先は無ぇ)


 そう言う船長の口は、興奮でつり上がっていた。






 船長は、自身の側に残った十数人に指示を飛ばす。


(ケイトの方は、5人もいれば足りる、ってかぁ、それ以上は割けねぇ。やっぱこいつら優秀だな。自己判断でそれに辿りついてやがる。俺んとこの奴らでも、こういう判断しっかりできる奴は10人にも満たねぇってのによぉ。はは、ったく、頼もしいねぇ!)


「そこのお前、確か"直線状糸射竿"持ってたな。そいつであそこまで届くか。どこでもいいから、取り敢えず、貫いて見てくれ。俺の予想が当たってれば、引き寄せられる」


「へいっ!」


「ほら、そこのお前とお前、そいつが引っ掛けたら、引っ張るの手伝え。やばいと思ったら、糸、切れよ。躊躇するなよ。ここで頭数減られる方が不味ぃ」


 ビュイゥゥゥゥ、ザザザザザザザ!


「おうよ」

「了解」


「あぁっ! 何か飛んできたわよ。粘液っぽい何か。透明。みんな、絶対に避けて! あれ、何か物凄く不味そう!」


 ビチャッ!


「おっと!」


 ビジャツ!


「ひやっ!」


「やはり床は溶けぬか。恐らく、強制睡眠効果のある液体だろう。人間特攻の」






 離れて、船の端。一箇所に集めておいた、眠りこけている船員たちの元に、様子を見に来た船員たちが駆け寄ると、極一部が、目を覚ましていた。どうやら衝撃で目を覚ましたようであるが……?


「おいっ、大丈夫か?」

「あ、あぁ……。って、寝ぼけてなんかいられねぇ、絶対ぇ、あれの方が面白そうじゃねぇかあ! うおおおおおおお」

「おい、待てって!」


 ドタドタタタ!

 スタタタタタ!


「う、うんん?」

「お嬢ちゃん、大丈夫か?」

「え、何何何何ぃいい?」

「落ち着くんだ」

「あ、夢で見たのと同じだぁ! じゃ、いけるわね! じゃ、私、船長の方行くから!」

「お、おう……」


 スタタタタ。

 ドタタタタ!


 どうやら、修羅勢のようだった。酷い経験故、夢に深く囚われていた。そして、それで鍛え上げられていたから、一応、今目を覚ませた。そういうことだろう。


 彼らが船長側に合流し、船長は直感する。


「時間制限あるだろうって言った奴。お前の言う通りのようだな。正確には、時間制限+こいつら準モンスターフィッシュ共の数か体力か集中力。それが削れれば、夢の拘束力は弱まるってことだろうよ。つまり、斃しちまえば、寝て居る奴らがそのままあの世行きってことはねぇ。きばるぞ、お前らああああああ!」


 船長が叫ぶと、船員たちは、それに応えるように、叫ぶでなく、動きを早めた。


(どうやら、いけそうだな。この状況で誰一人折れてねぇんだからよぉ! 並みの船なら、これで詰みだぜ! ははははははは! やっぱ、こうじゃなきゃなぁ! じゃなきゃ、外洋に出ようなんて、思わねぇよなぁ、はははははは!)


 と、歓喜する船長の顔に一瞬、影が落ちる。


(ボウズ……、ケイト……、何でお前ら、今ここに、いねぇんだよ……。くそぉぉっ!)


 パシンッ! パシンッ!


 両頬を両手で叩き、気を引き締める。余所見、上の空。それを引き摺る奴から順に、厳しい海の上では死んでいくと知っているから。


「兎に角攻めろぉおおお! 大きさからして、何かされたら一発で積みかねんからなぁあああああ!」

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