表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第二部 第一章 外なる海へ
114/493

第百十三話 油断無くとも起こる急転

「一人でもやれそ~なの数人、頭しっかりしたよ~なら送ってね~。じゃ~ね、船長。また後で~」


「ああ、任せとけ」


 この船外こそが主戦場であると判断した船長は、船員たちと共に甲板に残り、ケイト一人に船内での捜索を任せたところだった。


(さて、と。ここで俺一人で今できることはほぼ無ぇからなぁ……。臨戦状態に戻れる奴らの数が揃うまでにどれ位掛かるか、それか、ケイトが何か手掛かり掴んで来てくれるか、か。まあ、だが、これ位はやっておくとすっか)


「おい、お前ら。たかが夢にいつまでもゲロってんじゃねぇよ! 兎に角体、動かせ。今のこの比較的緩やかな状況がいつまでも続くなんてことは無いって分かるだろぉぉ!」


 船長がそう現在目を覚ましている、まだ少し寝ぼけていたり、気が緩んだままになっている船員たちに大きな声でかつを入れた。 


「了解ぃ~!」

「うい!」

「じゃあ私はケイトさんみたいに甲板の索敵でもしようかしら?」

「いいなそれ。眠気覚ましにもってこいだ」

「体も温まるわね」

「敵が透明になれるなら、知らぬうちに流れてきておってもおかしくはないのぉ。儂もやろう」


 反応は上々。


 そこに油断はない。一見弛緩したような空気が流れているようには見えても、それは、無駄な力み、体の硬直を防ぐ、程良い脱力。こんな訳の分からない、未知の状況に陥った後だというのに、彼らは自然体でありながら警戒を怠らないのだ。


 それは、一流であることの証。






 これらの金魚が眠りをもたらす正体だと分かれば、それだけで動きやすくなる。全員が見た夢は例外なく、本人たちにとって、悪夢だった。


 今起きている者全員に見られた分かりやすい共通点、自身が夢の中に登場する悪夢であるという特徴。だから、夢を見せる種は一種に限られるだろうと船長は判断。依然として、他の二割が起きていないから仮置きでしかないが。それに中の奴も同じかどうかは未だ調査していない。


 しかし、実際のところ、これは暫定的なものだ。甲板にいる者たちのうち残り二割の者と、船内の者たちのものはデータに含まれていないからだ。


 とはいえ、これはある程度は信頼できるし、役に立つだろうと判断した船長は手早くそれらを書面に纏め上げていっていた。


 他の船員たちが、特に指示を飛ばさなくとも、自然と、やるべきことを各々で、独断専行しない形で、協力し合ってやってくれているからだ。


 船長は同じものを二つ書き上げようとしている。一枚は自身の分。そして、もう一枚は、


(やはり、ケイトにも伝えておくべきだろう)


 ケイトの分。


 二つ分書き上げ、扉近くまで行ったところで船長は立ち止まった。


(まぁ、俺が行くまでもあるまい)


「おい、そこのお前」


 船長はその辺にいた、まだ比較的寝ぼけている感じの、手の空いている船員に声を掛ける。


「へいっ」


 その船員がしっかり返事したことを確認し、お使い位はできる位には意識ははっきりしていると判断し、新たに気付いたことの走り書きを手渡し、指示した。


「船内に、ケイトっていう女が一人、走り回ってる筈だ。あぁ、他の奴が目を覚ましていたらもっと走り回ってるかもしれねぇな。ケイトっていうのは、赤ボーダーTシャツ着た、黒くてデカい女だ。そいつに、これ渡してきてくれ」


 すると、


「へいっ!」


 その船員は先ほどまでよりも大きく威勢良く返事した。


(声を掛けたことがいい方向に働いたようだな。まだ眠たそうにしている奴や、まだ眠ってる奴に、声掛けて回るか)


 そして、その船員は、船内への扉へと走って――――


 ガアアアアンンンン!


「ぶふぅぅぅおおっっっ」


 バタッ、ゴロロロ……。


 突然開いた扉にぶっ飛ばされた。その大きな音に甲板に出ていた者たちの注目が一斉に吹く飛ばされた船員に集まるが、すぐさまその対象は変わった。


「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、船…長…、や……ば……い……」


 額から血を流し、体中が鋭ど目の切り傷だらけのケイトが激しく息を上げながらそう言って、扉から出たところで、その場に倒れ込んだのだから……。






 暫く周囲は固まる。


 そして、10秒程度経過し、船長が真っ先に動き出す。


「中に何かやべぇ奴がいる。間違いねぇだろう。それもきっと、面倒な奴だ。中の様子は分からねぇ。だが、突っ込まねぇといけねぇぞ、これは。だが、全員という訳にもいかねぇ。海の周りの水柱。明らさまに何かありそうなあれらが未だ消えてねぇかんな。ってことで、モンスターフィッシュとの戦闘に自信がある奴、いるかぁああ?」


「はい!」

「あたしも」

「……、行かせてくれ」

「捕まえることは考えなくていいよな」

「殲滅前提でいいのなら、私が中で指示しましょう」

「ケイトさんがやられる程の凶悪なモンスターフィッシュ、そそるねぇ」


「よし、じゃあ、行け! だが、一人にはなるな。ケイトがやられるってことは、そういう相手ってことだ」


 そうやって名乗り出た6人を、船長は中へと派遣する。


 それは非常に危険である。相手の数すら分かっていない。相手の情報が皆無なのだ。そして、中の船員たちの状況も不明だが、それはきっと、よくない状況であるのは間違い無いだろう。船内でも随一の手練れであるケイトがやられるということは、少なくとも、こちら側が、各個で襲われた場合、無事でいられる者など、一人もいやしないのだ。


 だから、本当は、全員で固まって進めとでも船長は指示したかった。だが、船内の通路の幅はそう広くはない。詰まってしまって全員あっけなくなんてことになってしまってはどうしようもない。


 だが、それでいて、中にいる間違い無く凶悪な敵性存在を放置しておく訳にもいかなかった。


 外に知らぬうちに出て来られるなんてことになれば、最悪である。まだ、甲板上の船員たちの残りの2割は起きてすら居ないのだから。


 船長は、まだ眠っている甲板上の残り2割の様子を見て、嫌な予感を頭の中に走らせた。


(まさか……、もう一種、違う形式で夢を見せている種が混ざり込んでいる……? まだ、何かいるってのか……? 船内のやつについてはケイトが姿を見ていたなら、まだ何か対策を用意できるかも知れねぇが……)


 船長がそのことに気付いた理由は、自身と、今起きている者たちでの、見た夢の性質が、明らかに違っていることに気付いたから。


 自身の場合、夢が現実と限りなく混ざり合っているものだったのに、船員たちのは夢が何処までも夢らしいものだったから。


 そう考えると、未だ起きてこれない船員がいることに説明がつく。


(歴戦のモンスターフィッシャーってことは、それだけきつい経験もしてるってことだ……。なら、俺と同じタイプの夢を見ている奴らは……、まず、自力で目を覚ますなんて見込みは……無ぇ……。俺ですら、ある意味、まぐれで助かったようなもんだ。あいつに関するもんだったからこそ、俺は正気でいられた。現実のような夢に呑まれずにいられた)


「うぅ……船長。そろそろ大丈夫そ~。だから……こっち来てぇ~」


 船員たちの一人に応急処置と看病をされていたケイトが、意識を取り戻し、船長を呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ