表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンスターフィッシュ  作者: 鯣 肴
第一部 第二章 腹の中の島
11/493

第十話 町長でありドクターである

 少年と船長が通されたのは、応接間だった。二人は安心する。よかった、普通の部屋だったと。二つの長い茶色いソファーが茶色い長机を挟んで置いてある。ドクターがまず座る。そして、促されて二人が座る。


「お聞きしたいことがあるのでしょう?何でもお答えしますよ。」


 そう言い、机に両肘をつき、両手の甲に頭を乗せたドクター。二人は少し拍子抜けする。しかし、かえってそれが二人に疑念を抱かせる。屋敷に入れてくれるまでにあんな意地悪なことをする男が、あっさりと聞きたいことに答えてくれるというのだから。到底信じられないのだ。

ドクターが一体何を考えているのか二人には全く検討がつかなかった。二人は顔を見合わせる。


『おい、どうするよこれ? ボウズ。』

『ええ、俺に振るなよおっさん。俺ただの付き添いやから。』


『ちょ、お前なんか聞けよ。この町長、質問に答える代わりに~しろとか言い出しそうな雰囲気出してんだよ。だ・か・ら、お前が何か聞け。』

『おっさんが聞けや、俺は知らんで。』


『お前が、』

『おっさんが、』


『お前!』

『おっさん!』


 なんだかんだ、パートナーである二人は、目で会話していた。やっていたことは、どっちがリスクを背負うかのなすりつけ合い。似たもの同士だった。


「あの~、何から聞くか決められないんでしたら私からてきとーに話しますよ。別に騙したり嵌めたりしませんからね……。私自分のこと話すの好きなんですよ~、聞いてくださいよ~。」


 二人の表情から、何を考えているかは筒抜けだったようである。二人のやり取りから察したドクターが話を切り出す。どうやら二人の考え過ぎであったようである。


 ドクターはげっそりと肩を落している。


『これ、別に何も企んでないんじゃないんか?』

『だよなあ?』


「それでお願いします。」


 二人は口を揃えてそう言った。


『これでおあいこだ。』

『謝りはせんからな。』


 と、このように、二人とも心の内では悪態をついているのだった。






「まずは、この島が入っている魚についてお話しないといけませんね。モンスターフィッシュの中でも随一の巨体を誇る、センカンソシャクブナ。こいつは、何でも食べようとすることで有名ですよね。海に住むものだけではなく、船や、島でさえも。しかもタチの悪いことに、強力な歯でかじってすりつぶすもんだから、食われたらほぼおしまいっていうのがね。」


 釣り人でもないその辺の子供でも知っているのである、そんなことは。二人は当然知っている。二人は態度で催促する。そんなことよりも早く本題に入れと。しかし、ドクターは話を決して短くしようとはしない。


「でも、それには穴がありましてね。こいつ、消化能力すんごい低いんですよ。だから、食べられたときは、たったと喉へと落ちて胃へ入ってしまえば大概助かるんですよね。」


『おいおい、こいつとんでもないこと言いやがったぞ、今。やっぱこいつイカれてやがる……。』


『あ、なるほど。だからこの胃袋の中で居ても溶かされないわけやねんな。しっかし、誰がそんなこと調べたんやろう?わざわざ食われて?いやいや、まさか――』


「どういうことかと言いますと、このフナ、海水を口から飲み込んで胃袋で貯蓄、消費するんですよ。だから、腸内は水浸しにならないわけです。さらに、固形物は、共生しているモンスターフィッシュ、ジャリジャリバキュームヒトデが勝手に分解して粉にしてくれます。」


「しかも、このヒトデは生きているものには近づいてきません。粉になったものは腸に運ばれますが、非常に少量ずつ継続的に運ぶため、粉に埋もれて窒息なんてこともありません。感覚では、砂浜歩いていく感じですね。非常に安全です。だから腸内も安全に通ることができます。」


「要するに、はじめに噛み砕かれなければ、確実に生き残れるんですよね。」


 得意げそうに身振り手振りを交えて話すドクター。話を聞き始めてからどんどん大きくなっていく疑問を抑え込むことにとうとう耐え切れなくなった少年。


「まさか、あなたが食べられて調べたんですか?まさか、本当にに……。」


 少年は顔を引き()らせながらおそるおそる尋ねた。この男ならやりかねないのだから。


「私も、初めて聞いたときびっくりしましたよ。こいつに食われてはじめて無事に帰ってきた人たちに話きけたんですよ。」


 それを聞いた二人は肩を下ろし、溜め息をつく。船長も少年と同じようにずっとその疑念にかられていたのだから。


『はぁ~、よかったでえ、ちょっとは安心できたわ。にしても話長いなあ、こいつ。』

『だよなあ。いつまで続くのだろうな、この話はよ……。』


 体の緊張が解れた二人はそのせいでかえってげっそりすることになってしまった。


「で、私は思いついたわけです。こいついろいろおもしろい性質持ってるなあ、調べたいと。それで、金の力でモンスターフィッシャーたちを100人ほど集め、策を練ってこいつを捕らえました。」


「あとは、こいつを研究するために、まずは歯を全部破壊して、安全に体内に入れるようにしました。」


 いつの間にか席から立ち上がっているドクター。その様子を見て更にげっそりする二人。


『こいつ楽しそうだよなあ……。』

『そうやなあ……。あれ、さっきちょっと安心したはずだったのに、一気に不安になってきたで。』


 気持ちが落ち着かず、二人はどんどんと精神的に磨耗していく。


 やっていることとその規模があまりに滅茶苦茶なのだ。このフナの歯を全部砕くなんて一体どうやるのか、ダイアモンド並みの固さを持つ歯を。二人には全く検討がつかなかった。


 二人はいっそのこと開き直ることにした。これ以上真面目にこの男の言葉に惑わされるのは馬鹿らしいと。二人は思いっきり背もたれにもたれてぐったりげっそりするのだった。


「次に、体内に居座っていろいろ研究したくなってきたんで、私の家をここに作ることにしました。胃袋内部にいるジャリジャリバキュームヒトデをモンスターフィッシャーたちに釣ってもらって改造して、石灰を分別して集める個体と、それを固めて吐き出す固体を作りました。」


「材料は大量に安定供給されますからね。吐き出された石灰岩はべとべとで、他の石灰岩とよくくっつきました。重さもありましたからね。で、島の土台ができました。」


 どんどんと喋る速度が上がっていき、平然とするすらとドクターは語る。相変わらず、やってることはえげつない。二人はげっそりしつつも、冷たい汗が止まらない。


『もう勘弁してくれや。』

『もう勘弁してくれよ。』


「次に、石灰岩の切り出しを行い、レンガにして町に敷き詰めていきました。1000人の労働力兼住民を集めて。年齢性別不問で。三つの条件を出して釣りましたね。」


①この島の中で自由に暮らす権利

②資源を好きなだけ使う権利

③私が作る栄養サプリメントを摂取する権利


 ②と③の条件がこの時代では破格だったのだ。容易に人を集められたと想像がつくほどに。


「そして、町を作る土台ができたところで、住民の住む建物の作成ですが、これは個々人に任せて好きにさせました。私の家作るのも手伝ってくれたのは幸いでしたがね。」


 これには二人、げっそり感を吹き飛ばして、思わず感心する。この男、町長をやってるだけのことはあったのだから。町の人員の確保と、実験で作ったもののテスターを同時に揃えていた。

 ただ、本人はこのことに対して凄さは感じていないようではあったが。それを本人の言い方から二人は感じ取っていた。


 二人はドクターへの評価を改める。大物である、しかし色んな意味で……。

 


「このように、各種生活に必要になるものは私の研究で賄っているわけです。天井のあれとか。」


 少年と船長の最も興味を引いていた天井の太陽。やっとその話に入った。


『ああ、あの太陽、やっぱり太陽じゃなかったのね。ここ胃袋の中だやもんなあ。』


『おいおい、まさかこいつ、天井のあれ、作ったのか……。』


 二人は天井を思わず見上げる。当然見えるのはただの白い天井。偽太陽があるの野外なのだから、当然だった。







「モンスターフィッシュの一種であるタイヨウアンコウのちょうちんです。」


 それはありえないと二人は思わず声に出しそうになった。タイヨウアンコウの大きさからして、そのちょうちんの大きさを持つことはありえないことである。せいぜい大きくても、ちょうちんはサッカーボール程度の大きさなのだから。


『まさか……。頼む、嘘やって言ってくれや。』

『俺だって考えたくないわ! そんなこと。だがなあ……。』


 二人はまた冷たい汗を流し始め、お互いの目を見あわせる。そしてゆっくりとドクターの方を向いた。


「改造して巨大化させたんですよ。それをもぎとりました。」


「やっぱりかあーーい!」


 思わず、同時に声に出してつっこんでしまった二人。そして、またげっそりとした。


 座ったまま、ドクターは後ろから何かを取り出す。


「で、私の研究成果の中でも一押しのこいつを使って、取り付けを行いました。"ジェットバキュームスクリュー"。私のとっておきです。こいつを超巨大ちょうちんにくっつけて、そして天井に発射。取り付け完了ですよ。」



 響きからして危なそうである。ドクターはそれを船長に渡す。少年と船長はそれをじっくりと観察する。柄を大幅に短くした、30cm程度の槍のような形をしている。


「飛ばしたいものに取り付けると、右回転させながら真上に打ち上げてくれるんですよ。打ち上げる力、回転力、どちらも尋常ではないので、何か障害物に当たった場合は確実にめり込むか突き抜けるんですがね。」


「そして、めり込んだ場合は取り付けたバキューム機能によって、そこに吸着して取れなくなります。天井への物の取り付け用に作りまして。役に立つことが分かりましたので、様々な出力のものを作るようになりました。これはその中でも最低出力のものです。」


「対象物をめりこませた後は、ジェットバキュームスクリュー本体はしばらくすると落ちてきます。エネルギー切れで。非常に軽いんで、落下時に物を壊したり誰かを怪我させることはありません。」


 自慢の発明品の紹介を済ませ、ドクターは大はしゃぎしていた。しゃがんで、垂直に跳ねて、手を伸ばす。ジェットバキュームスクリューごっこを始めてしまった。二人は、無視して相手にしないことにした。


 そして、しばらくやり続けて満足したようで、

「というところですね。じゃあ、私は忙しいんでこれで。」

立ち去る。


 二人は置いてきぼり。ただぽかんとする二人。目配せする二人。戸惑う二人。


「おい、ちょっと待て、いっちゃん大事なこときいてないぞ、」


 船長が思わず我に帰って最大の疑問をぶつける。


『もう敬語タイムは終わりだ。こいつに敬語を使う意味はない。』


 青筋が浮かびかける船長。


「なんで俺たちあのナマズに飲まれたんだよ。話きいた感じだとおまえがちゃんと管理してて手綱握れているんだろ!」


「あらあ、ごまかしきれないですよね。ははははは。」


 愉快愉快と笑い出した町長。少年と船長は青筋をくっきり浮かび上がらせていた。


「それはですね、ぐふっ、たまたまですよ、たまたま、ぐっはははははははっ。あなたたちは、はは、たまたま運悪く、飲み込まれたんですよ。あっははははははは。」


 吹きながらもそう言い終えたドクターは両膝をついて四つん這いの姿勢になり、片手をグーにして地面を叩き始めた。どうやら、涙が出るほどおもしろかったらしい。


 少し落ち着いたところでドクターは続ける。


「このナマズ、別に操ってるわけじゃないですからね、どこにいくかはこいつ任せなんですよ。まあ僕らは腹のなかでひきこもってるんで関係ないんですがね。ここで全部自給自足できますから。」


 ドクターは笑いと笑顔を捨て、

「では、これで。」

平然とそう言い切り、立ち去ろうとしている。


 船長は、もう自分が怒っているのか戸惑っているのか分からなくなっていた。


「おい、まてよ。お前とんでもないこといったよな。無差別になんでもの飲みやつ、放し飼いにしてるって言ったよな、なあ!」


 戸惑いが勝っていた。変にトーンが上がったり下がったりしている。しかし、こんな男が目の前にいるのでは仕方はないことなのだ。少年は、船長の代わりに冷静でいようとする。喉に力を入れて。すんでのところで我慢していた。


しかし、ドクターは、

「そこまでは言ってませんよ、ははは。」

一線を越えた。


プツン。


「ふざけんな。これに来てさんざん貧乏くじ引かされたんや。げんきょうはてめえだ。どう、お・と・し・ま・え、つけようかいなあ。」


 血走った魚の目で、少年はドクターに迫る。敬語なんて投げ捨てて。少年は小柄であるが、非常に筋肉質である。タンクトップ一丁が非常に様になるほどに。当然、いかつい。

 ドクターのネクタイを引っ張り、そのまま背負って投げ飛ばそうとしている。少年の目は、血走る上をいき、大きな漆黒の黒目に変わっていた。


『ホホジロザメかこいつは……。まだ上があったとはなあ……。もうこいつからかうのはやめよう…』


 少年を見て、怒りから我に返った船長。かいた冷や汗を拭う。しかし、船長そう思ったのはその場限り。当然、今後も少年をからかうことはやめはしない。


 ドクターは全力の作り笑顔で、

「ぞんなごわいがおしないでぐだじい。いいものあげま……がだ。」

苦しそうだったがなんとか最後まで言葉を続けた。


 船長は、ドクターのその様子に、かえって感心してしまう。


『ここまでやられるとなあ。』


 船長は溜め息をついた。少年は手を離す。先ほどの漆黒の黒目は引っ込めていた。

 少年は目を細め、ただひたすら見下す冷たい目で這い(つくば)るドクターを見つめているのだった。






「げほっ、ごほ。ついてきてください。」


 そのまま、地下へと案内される二人。笑顔を崩さないドクター。二人はただ溜め息をつく。


 すると、そこに広がっていたのは――


「ここは私の物置きです。ちょっとあぶないものもあるんでさわらないでくださいね。」


 二人が抱いた感想。一言で言えば、研究成果廃棄場。得体の知れないものがたくさん転がっている……いや、積み上がっている。部屋の片隅に、固形物から生ものっぽいものまでぐちゃぐちゃに混ざった混沌の山。……変な臭いがしてこないのだけは幸いだった。


 だからこそ、当然触れる気はない。言われなくとも……、触らないはしないだろう。こんなマッドな研究者のものなんて触りはしない。二人は後ずさりする。

 少年は船長の後ろに回りこんで盾にすることにした。嫌な予感がしたからだ。


「えっと、」


 がさがさと、ドクターはなにかを探し始める。さっきの首絞まってたダメージはもう回復しているらしい。てきぱきと機敏に動いて探している。


「これですね。」


 凄く自然に手渡される。船長は、凄く自然に受け取ってしまった。『……しまったあぁぁ。』


 絶望。……しかし、船長の身には何も起こらない、大丈夫らしい。安堵。それは。両手を合わせたよりも少し大きい程度の丸い薄灰色の板。片面はざらざら。もう片面はつるつるで、光沢がある。


『なんだこれは?ごみか、ごみなのか?』


「じゃあ、私はこれで」


「おい、何も説明してないだろうが。これどうやって使うんだよ、それか、なにか、これやっぱりごみなのか?」


 即つっこむ船長。怒りに震えつつ。


「ああ、めんどくさい方々ですね。これは"モンスターチェッカー"ですよ。当然、私の発明品です。脅威の接近を感知する道具ですよ。私の最高傑作でしてね、――」


 どうやって開発したか、材料は何か、工夫した点など、ひたすら二人にとってどうでもいい説明が続く。当然聞き流す。


「要するにですね、前時代のレーダーのようなものですよ。こうやってずっと説明聞いておくだけというのではしんどいでしょう。実際に動かしてみましょうね。」


 全く悪びれる様子のないドクター。二人はいちいちそれに反応はしなかった。もうへとへとだったのだ。


「気配に反応し、黒い丸(●)が表示されます。点が大きいほどやばいやつってことですね。まあ、ここのモンスターフィッシュは私の改造でやばさゼロになってるんで反応しませんがね。」


「表側の面に軽く数回触れていただけますか? え、違いますよ。表面はそのざらざら面じゃなくて、こっちのつるつるの面ですよ。」


 船長はいらいらを抑えつつ、その指示に従う。


ブゥオン。

 

 その音とともに、モンスターチェッカーは起動した。つるつるの面は白く光り、その表面に色々と浮かび上がる。画面に映ったもの。それは黒く細い経線緯線付きの地図だった。


「その画面に映っているのは、あなたの半径1km以内の地図です。」


 すごく得意げそうに、見下すようなドクターの顔。いらいらするが、もらったもの使えないのは困るのでとりあえず耐える。二人は奥歯を食いしばりながらただ、耐える。


「やばいのがいないときは、ただの世界地図として使えます。指をつけたまま、スライドさえてみてください。すると、地図がその方向にスクロールしますので。指を二本つけて広げるような動きをすると縮小、逆に狭めるような動きをすると拡大です。」


「なんとですね、半径2000kmから半径1kmまで拡大縮小可能となっています。どうです、びっくりでしょう。」


「あと、この装置にはエネルギー切れがあります。エネルギーが足りなくなると作動中でも画面が暗くなってくるので気をつけてくださいね。光を表面にあてることでエネルギーが貯まりますから。」


 二人はドクターに関心していた。確かにモンスターフィッシュと戦ってるときは本当に圧倒される。だから、これは間違いなく役に立つだろう。

 よくわからないが役に立つもの。二人はそう結論づけた。装置の仕組みは二人がドクターの話を聞いてもちんぷんかんぷんだったのだから。


 このドクターは、人間としてはアレだが、研究者としての実力は確かなのだった。


ブォン。

ぴー、ぴー、ぴー。


 最大まで拡大して、はじめの画面に戻したところだった。警告音とともに画面中に点がたくさん現れた。小さいがすごい数である。密集して東の方に。


『うわあ、壊れていでえ……。』

『謝罪の品がこれとか……そりゃないだろう……。』


 二人は顔が引き攣る。


「おい、これ壊れてんじゃねえか。」


 ドクターに迫る船長。


「……。」


 しかし反応はない。


「おい、何とかいえやあ。」


 少年も加わり、怒った顔で畳み掛ける二人。全力で怒鳴る。しかし、それでもドクターは何も言わない。顔が真っ青になっている。


 これまでの様子からは想像できない衰弱ぶり。二人は嫌な予感しかしない……。


「……、これはまずいですね、緊急事態です。なんかモンスターフィッシュがたくさんこの胃の中の潜入していますね。周囲の脅威状況に大きな変化があったときは警告音で通知してくれるようになってるんですよ。」


 声に張りがない。


「幸い、まだ動きはないようですが。この点のつき方からして、群体型のモンスターフィシュでしょうね。見てください。同じ大きさの点が密に並んでいますよね。」


『ですよね~。』

『だよな……。』


 降って湧いたピンチである。


「あんた胃袋の中管理してたんじゃなかったのかよ。」


 思わず船長は突っ込む。。


「この表示は、あなたがこれ持って向いてる方向に合わせています。方角が分からない場所でも使えます。」


 その問いをスルーしつつ、青ざめた顔のまま、弱々しい声で自身の話の続きをするドクター。


「聞けよ。」


「それ持ったまま、屋敷の外に出ますよ。それで正確にどこにそいつらがいるかわかるでしょう。」


「もういいよ……。」


 言っても無駄らしい。そう思って船長は諦めた。本当に、心の奥底からドクターはうろたえている。まるで余命宣告された重病人のようだった。二人とも、さすがにもう何も言えない……。まっすぐドクターの顔が見れない。






 三人は、建物から出て、屋敷の外壁の外へ。


「場所がわかった。東の海岸だな?ボウズが上陸したのとは逆の海岸か。そっちにいるらしい。」


 冷静に船長が言う。ドクターをこれ以上動揺させないように。


「すみませんが、頼みがあります。このモンスターフィッシュたちを駆除、できれば捕獲してもらえませんか?報酬ははずみますので。」


「この町の住民だけでは対処できないです、たぶん。数が多すぎます。私の力ではどうにもなりません、私がこの町を守らないといけないのに……。これまでのことは謝るのでどうか助けてください。」


 土下座。スムーズな躊躇(ちゅうちょ)なき土下座。ナマズに飲み込まれた、目の前の被害者二人のことすら笑って済ませようとした男が土下座。それも、涙を流しながら。


 その顔は、さっきまでの死人の顔ではなかった。先ほどまで()めてかかっていた相手に、プライド全捨てである。助けを求めて手を伸ばす、町の長の顔だった。


 この男は気まぐれではなく、本当の意味で町長をやっている。ちゃんと責任感と、町の人たちを心配する心を持っている。それを感じ取った二人の目に大きな炎が灯る。


 ドクターは少し平静を取り戻し、

「あと、余計かもしれませんが、いきなり狩りにいくのではなく、偵察して、情報を集めてきてください。」

提案してきた。


 そして、

「一応私もついていきます。もし私が知っているモンスターフィッシュだったら対処のしようがあるでしょうから。」

これまでには二人には全く見せていなかった真面目な顔になっていた。


 三人は東の海岸へと駆ける。その脅威の正体を知るために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ