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元勇者と元魔王は千年の時を超える

「えっと、この先を右に曲がって……」


 手に地図を持ったライアーの後ろをついていく。

 現在、小さな通りを歩いている。スライム団子を買った大通りとは大きく変わり、歩いている人はたまに視界に入る程度。


「つまらん……、退屈すぎる。戦えんし、大して稼げもせぬ……」


 僕達が曲がろうとしていた通路から、愚痴をこぼしながら少女が出てきた。

 炎のように紅い髪に、重力に逆らって立っているアホ毛。そしてその変わったしゃべり方。


「魔王……?」


 その姿を見た時に、懐かしい人物を思い出した。僕の記憶の人物の方が背も、胸も大きいが、身にまとう雰囲気はまさにそっくりであり、顔も記憶の人物を少し幼くしたらそっくりになるだろう。


「ゆ、勇者カナメ!?」


 まさかの本人だったらしい。成長じゃなくて退化したんだろうか。


 今の時代からだと千年前、僕の感覚からすると一ヶ月と少し前に戦った魔王と再会した。



「何でこの時代にいるのさ。魔王って長寿なの? それに縮んでない?」


 あの時、僕は魔王を倒したが、殺してはいない。


 当時の仲間とは、魔王の配下と戦うために別れて行動していたため、合流するまでの間魔王と少し話をしていた。


 魔王は祭り上げられてなっているだけと言っていたのを覚えている。あの時は半信半疑で、別にどっちでも良いかと思って受け流したし。


 ただ、魔王と合流してきた配下との会話を聞いていたら、魔王の話は真実だと簡単に判断できる程、配下からの扱いが酷かった。

 



 そのため、殺さなかった。しかし、僕の連れに死んだと思わせるために致命傷レベルまでは負わせた。僕達がいなくなった後に、自分で治癒魔法を掛ければ助かるだろうと判断して。


 魔王は今まで戦ってきた中で一番強かった。

 

 特に魔法分野に関しては飛び抜けている。故に魔王ならば自身を治癒することくらいいとも容易い事だと思ったんだけど。


「あの戦いの後、自分で治癒してたんじゃが、そこを配下に襲われての。魔法で返り討ちにしたはいいものの、代わりに魔力が空になって治療できずに死んだのじゃよ」


「死んだのに何でここにいるのさ。生まれ変わりでもしたの?」


「あぁ、まさにその通りじゃな。つい最近まで生まれ育った貧しい村で暮らしていたが、不作のせいで、奴隷商に売られそうになっての。逃げてきたんじゃ」


 そういってやれやれと溜息をつく魔王。昔の大人の姿ならば似合っていたかもしれないけれど、今のちびっこ姿だと物凄く似合わない。


「え、えっと……、この子がカナメの話してくれた魔王なの?」


 少し遠慮しがちにそう言ってきた。

 確かにこの姿だと魔王に見えないよね。


 何か白を基調とした丁寧な装飾が施されたローブみたいなの着ているし。


 どう見ても闇陣営というより光陣営だった。



「こんな感じでも、あの魔王本人だよ」


 普通の人ならば生まれ変わり――転生なんて信じないだろうけれど、違う世界から召喚された僕やサトウみたいに、有り得ないような事の前例もあるからね。


「カナメ、妾の名前を教えたじゃろう。名前で呼んでくれ、周りに元魔王だとバレたら面倒じゃからな」


「はいはい、ユカ。こっちは一緒に行動しているライアー」


「ふむ、カナメ程ではないが強者の匂いがするの。妾はユカじゃ、よろしく頼むぞ」


「ボクはライアー、よろしくね、ユカちゃんっ!」


 ユカの手を握り、嬉しそうに振り回すライアー。

 そういえば僕と会うまではサトウとマリアとしか話したことがないらしいし、この都市に来てからは露店のおじさんと少し話したくらいか。


「それでな、逃げてきたは良いものの一文無し。稼がなければいけぬが、どうやって稼げば良いのかわからなくての。通りすがりの人に戦って稼げる仕事はないか聞いたらギルドに行けと言われたのじゃよ」


「あれ、さっき戦えなくて稼げないとか言ってなかったっけ。それに貧しい村出身で一文無しのユカが着ているそれはどうしたの? 盗んだの?」


 村人なら装飾の入った服なんて持っていないだろう。

 この都市に来てからすれ違った人が来ていた服を思い出してみるが、ユカの着ている衣装程装飾の入った衣服を身につけた人は殆ど居なかった。


 つまり、誰もが着れるほど安いものではないということ。


「盗んでなどおらぬわっ! 依頼先で借りている衣装じゃよ。本当は戦える依頼が良かったんじゃが、この見た目のせいで戦闘系は受けさせて貰えなかったんじゃ」


「どんな依頼なの?」


「神殿で巡礼者の対応をする聖女のバイトじゃよ。賄い付きの」


「魔王なのに聖女って変なの」


 魔王のユカが必死に聖女のバイトをしている姿を想像してしまい、笑いが溢れる。


 魔王が巡礼者に神のご加護がありますようにとか言ってそうで、魔王が神って、邪神なのかなとか考えるとどんどんツボにはまっていく。


「カナメ、笑ったら可哀想だよ。そういえば、お金がないって言ってたけど大丈夫?」


 ライアーが注意してくるが、その声も若干震えていた。

 そういえば、一文無しって言ってたね。でも、聖女のバイトでお金貰ったんじゃないの……?


「ライアーよ、聞いてくれ。面倒くさかったにも関わらず、最後まで妾は頑張ったのじゃ。それなのに、バイト終わりに屋台でつまみ食いしただけでお金がなくなってしまったんじゃ」


 やっぱりアホの子だった。

 まぁ危険もなく、誰でも出来そうな依頼なら報酬も安いだろう。とは言っても、ちょっと屋台で食べあるきしたくらいでなくなることはないだろうし、ただの食べ過ぎな気がする。


「そのせいで今日の宿代が無いのじゃよ……。助けてくれぬか、カナメ」

「別にいいけど、一つ。次同じことがあった時は助けないから」


「おぉ、カナメ、礼を言う。そして妾と結婚して養ってほしいのじゃ!」

「え、やだ。何このニート予備軍」



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