人が多いところは手をつなぐと良いってマスターが言ってたんだ
屋敷を出て三日目、ようやく一つ目の街にたどり着いた。
大陸四大国の一つ、神聖国家アケラフィアの最大都市アケラ。中央には都市の端からでも見える巨大な神殿があり、他国から大勢の巡礼者が毎日やって来る聖地となっているらしい。
この話は都市の南門で警備をしていた男から聞いた話だ。
「ここにライアーの姉の一人がいるんだっけ」
「街ってこんなに人が居るんだ……。この中からお姉ちゃん探し出せるのかな」
目に入ってくる人の多さを見て姉を探し出せるのか、不安そうな表情を顔に浮かべている。
確かに僕達だけで探そうとしたら有名人とかでもない限り、とてつもない時間がかかるだろう。
なら、他の人にも探してもらえばいい。
例えばサトウが創り上げたギルドという組織に依頼したりとか。
門を通り抜けた先には半円状の広場が広がっており、そこには馬車が停まっているのが見える。
この広場には露店等は一切開かれておらず、露店は広場の奥から都市中央へ伸びる大通りに集中しているようだ。
少し離れたこの位置にまで活気あふれる声が届いてくる。
「取り敢えず、ギルドで依頼出して、その後露店見て回る?」
「うんっ!」
ライアーは満面の笑みで返事をすると、僕の手を取って歩き出した。
「あ、あれ食べてみたいんだけど、買ってもいいかな……?」
ライアーの目線の先には、青い半透明な丸い物体が三つ串に貫かれた、絵が描かれた看板の露店があった。僕達が居るところからは少し距離があるけれど、僕達のところにまで甘い匂いが届いてきている。
「昼ご飯にはまだ時間あるし、つなぎとして食べてみようか。携帯食料にも飽きてきた頃だし」
あの絵に似たものは千年前にも存在しており、その時はスライム団子っていう名前だった気がする。
甘くて、ひんやりしてて結構美味しいんだよね。あれ。
「おじさん、それ二つ頂戴っ!」
「おっ、お嬢ちゃん、元気いいねぇ。隣の男はコレかい?」
片手でスライム団子を作りながら、もう片方の手で親指を立てている。
確か小指が彼女で、親指が彼氏って意味だっけ。
「へ……、うん?」
「はっはっは、兄ちゃん。もっと頑張らねぇと気づいてもらえねぇぞ?」
「あぁ、うん。頑張るよ。あ、そうだ、おじさんさ、ギルドの場所知らない?」
おじさんからギルドの場所を聞き、お金を払って団子を受け取りギルドに向かって歩き出す。
大通りを歩いていると、武装した集団や、巡礼服らしきものを着て神殿に向かっている人を多く見かける。
おじさんの言葉に従って歩き、ギルドに近づくに連れて露店や通りに面した店舗が市民向けから冒険者向けのものに変わってきた。歩いている人も武装している人の割合が増えている気がする。
「あった、カナメ。あそこ!」
ライアーの指差す先には、周囲の建物よりも数倍大きな建物が存在しており、中央には剣を交差させた看板が掲げられている。
その入口の扉は開きっぱなしにされており、人の出入りが激しい。
それにしてもあの看板はサトウが考えたんだろうか。
剣の形とかかなりかっこよくて意外といい感じだった。
武装した人等にまぎれて、僕達はギルドの中に入る。
それほど混雑しているわけではなく、かといってガラガラでもない。ただ、壁に紙を適当に張っているところの辺りは人も多い。
そしてギルドの半分くらいは待ち合わせや、打ち上げなどで利用するためかちょっとした食堂、酒場となっていた。
ライアーの手を引っ張って、並んでいる人が居なくて空いている受付の所へ向かう。
「本日のご用件は何でしょうか」
「人探しの依頼をしたいんだけど」
「かしこまりました。周りの人に聞かれたくない場合は別室に移動することも出来ますが、いかがなさいますか?」
「このままでいいよ」
笑顔で丁寧な対応で迎えられた。受付の女性はカウンターの下から用紙を取り出す。
「かしこまりました。では探して欲しい人物の名前や特徴などをお願いします」
「えーと、確か名前はイーシス。特徴は金髪ってことくらいしかわからないけど、あ、あと『先見』って言えば分かるらしいんだけど」
「お名前はイーシス様、金髪、『先見』……『先見』!?」
受付の女性が驚きの声を上げた。もしかして結構な有名人?
「げっへへ、お前らも『先見』に会って占って貰うんだろ? 無理だな、諦めな。代わりに俺がお前を占ってやってやるぜっへへ。報酬は隣のお嬢ちゃんってところだな」
後ろから品のない声が聞こえてきた気がするけど、多分気のせい。
「有名なら、居場所とかわかる?」
「は、はい。イーシス様は――」
「無視してんじゃねぇぞ」
取り合うのも面倒だったから無視してたのに気が付かなかったんだろうか。
そんな事を思っていると背後から肩を掴まれる。
「コゲさん! やめてくださいっ!!」
「うるせぇ!!」
受付の女性からみたら、か弱い少年がいじめられそうにな場面に見えるのだろう。
必要のない助けだけど、その行為自体は嬉しいけどね。
あと真後ろで叫ぶのやめなよ。うるさいんだけど。
「はぁ、面倒くさいし、勝手に触れないでくれる? 汚いんだけど」
肩を掴んでいる手を弾いて、振り返る。
僕よりも頭三つ分くらいは大きい男が、弾かれた手を押さえながら立っていた。
「糞ガキが、こいつが――」
男は僕には勝てないと今ので理解したのか、本能で判断したのか知らないが、隣りにいるライアーなら勝てると思ったらしい。
男はライアーを捕まえて人質にでもしようとしているのだろう。
「動いたら殺すよ?」
瞬時に、男の隣へ移動すると同時に氷の剣を造り、男の真横から氷の剣を首に当てる。
止まるのが遅れた男の首からは皮が切れたのか少量の血がこぼれる。
騒がしかった周囲の人間も事態に気がついたのか、いつの間にか辺りは静寂が支配していた。
ライアーならばこの男程度に遅れを取ることはないだろうけれど。こんな奴がライアーに触れて汚れが移ったらどうするんだと。
「それで、おねーさん。イーシスにはどこに行けば会えるの?」
「は、はい! 今地図を用意するので少々お待ち下さい!」